第6話 ペルセウス座流星群①
ゴールデンウィーク明けの
一日目、俺ら以外は特に、気にもしなかった。
「
欠席連絡は入ってないんだけどな、と言いながら先生がそう言い出したのが最初だった。
当然、俺も知らない。学校に来るまで休みだとも思わなかった。それは
「そういえば私達って友達なのに、連絡先の交換とか、してなかったよね。つっきーの連絡先とかは、元から知ってたし」
「俺らは元から腐れ縁だしなあ……」
そう、今まで気付かなかったけれど、俺らは
あの角を曲がった先にある、と聞いていただけで、何となくわかった気になっていた。マンションか、一軒家かも知らずに。知っている、なんて、俺が勝手に勘違いをしているだけだった。
「先生に聞いてみようか?」
「そうだな、放課後にでも、職員室に行こうぜ」
「うん。くーちゃん、なんともないといいけど……」
先生の目を盗んでひそひそ話すのをやめ、二人して前に向き直る。なんともないのに欠席するのもおかしいから、何かあったんだろうけど、いつも無表情なあいつのことが気になった。
「屑、家にもいなかったらしい。謎の失踪」
授業後、職員室の前。恒星なだけあって、色々と難のある三日月は俺たちと比べて授業数が多い。とらなくてはいけない単位数が多いのだとか。大変そうだなあと思う。思うだけに、自分が恒星だと学校に伝えたくない。
問題を先送りしつつ、先生に色々聞いたところで、三日月と合流した。
「くーちゃん、どうしたんだろ。つっきー、家の場所、聞いたんだよね?」
「一応、聞いたけど……家にもいないんだぞ?」
「でも、なんにも情報がないし、くーちゃんの家の近くまで行ってみよう!」
三日月が俺の言うことを聞き入れてくれなくて、意見を押し通してくる。こういうところは昔からだけど、何か手掛かり、あるのだろうか。
「三日月、どうするつもりだ?」
「ベガに頼もうと思って!」
屑の家は住宅街にあって、家を訪ねてもやはり屑はいなかった。屑のご両親にも話を伺ったけど、心当たりも無さそうだったし、どうしたらいいのやら、って様子だった。
俺たちにもできそうにないと思ったのに、どうやって探すつもりなのだろう。
「まあまあ、見ていなさい! ベガ、力を貸して!」
〈了解!〉
あんまり乗り気じゃないベガをせっつきつつ、三日月は宙に手をかざす。
恒星は頭が良く成るだとか、身体能力が向上するだとか言われているけれど、ベガが具体的に何ができるのかだとかは、一切知らなかったので新鮮だ。
「じゃん!」
自分で言って、見せつけてくる三日月。ベガの姿が変わり、光の弓矢のようになっていた。
「どうするんだ?」
「空に向かって、矢を、放つ!」
言いながら、弓をしならせて弓を空に向けて撃つ。光の矢が空に霧散して、降りそそぐ。形のない雪のようで、きれいだ。
「こんなの起こったら、みんな外に出てみちゃうでしょ?」
やりきった顔で満足げに空を見上げる三日月。
三日月らしい、というか。ちょっと脱力してしまった、そうだよな、屑、きっとすぐ見つかるよな。
「星みたいで綺麗でしょ。またみんなで、流星群、見ようね」
「ああ」
確かに綺麗だし、普通ではないことだけど、これで見つかるはずもなく、俺たちは探索を終えた。
屑は見つからなかった、ままだった。
どの高校でも大体、夏休みには『補習』という楽しくない、授業がある。
住宅街で光源の力を使ったことで先生にみっちり怒られた。そりゃそうだろう、あんな普通ではないこと、簡単にしてしまわれたら困るのだ。
先生にたくさん課題を出され、いい子であるべく監視されてしまい、気づけば夏休み目前。夏休みまで、屑の捜索を特に何も出来なかった。
もちろん、俺は俺でプロキオンにも相談して、屑を探そうとしたのだけれど。
<何を言い出すのかと思えば、月草、そんなことですか?>
プロキオンは呆れ顔で言ってきた。四六時中、まゆ毛を八の字にしているから、呆れられても、新鮮味がないけど。
<僕たち光源は、使えることが大体決まってるんだよ?>
そんなことも知らないの、とでも言い出しそうな勢いだった。契約のときに説明しておけよ、って思うのは俺だけじゃないと思いたい。
プロキオンは言葉が足りなさすぎる。ベガからの方が教わっていることが多い気がするので、そういうアフターケアのできなささが、プロキオンが契約をなかなか得られなかったり、切られてきてしまった原因なんじゃないかと思う。
<たとえば、超有名な夏の大三角のひとつ、ベガさん。ベガさんは、弓矢の能力を持っていて、百発百中! 研ぎ澄まされた精神を得られて、すっごく集中できるみたいです>
プロキオンは最近、ベガを神のごとく信仰している。身近にいるし、ベガの方が強そうだし、知名度も高いし、そりゃあそうもなるかな、とも思う。でもちょっとへりくだりすぎているときもあるので、しっかりしろよ、と思わずにいられない。
<出会ったことのあるスピカですと、記憶を操作できるようです。他人を理解できる、らしいです。特定の相手に恐れを抱かせる、なんてこともできるらしいんですよ>
本気で怖がるプロキオン。お前は別に、恐れを抱かせようとしなくても恐れてるよな。頑張れよ、震えてなんかいないでさ。
「スピカって……日陰ちゃんか」
<そうですね、スピカがいれば、カリスマ性を持ち合わせることが、意図的に可能です。……その、日陰、さんは、カリスマ性がありそうだった?>
日陰ちゃんを思い出してみる。セーラー服姿の、中学生。言葉遣いが丁寧な女の子。
「別に、普通に礼儀正しい女の子だったけど」
<スピカが付いてるんですから、何かギャップがあるかも、だよ?>
そんなこと言われても、全然思い浮かばなかった。まあいいや、次。
「他は?
<アンタレス! あの人、マジ怖いですよ? 基本的には、暴力の行使に従順な人です。聞いた話だと、手を硬くすることが出来たんじゃ、なかったかな?>
大事なところで曖昧だった。思い切り殴られたり蹴られたりしたことを思い出す。本当にあのお姉さん、俺のこと殺せたのか。背中に冷や汗が流れる。
<ちなみに僕は、何が出来るかというと>
そうだった、俺の光源なのに、プロキオンが何できるか、俺、全然知らなかった。プロキオンが嬉しそうにしているので、期待できる。
うわーすごい! なんてリアクションを期待しているんだろう。
<触れたものの時間を、ちょっとだけ止めて、物体の損傷を防ぐことが出来ます>
ん? それってかっこよく難しい言葉使って言ってるけど、数秒しか持たない、絶対防御?
「プロキオンにも、屑を探すのは無理ってことか……」
大きな進展はなく、迎える夏休み、八月十二日。
「せっかく今日から夏休みなのに、屑のやつ、どこ行ったんだよ……」
失踪中の屑は、依然として見つかっていない。たちの悪い噂の中には、夜逃げしただの、殺されただの、そういうのもあって心配だ。
ひょっこり帰ってきそうな気もしてる。ただの願望かもしれないけど。
「どうしたの、
「別に。三日月こそ、どうしたんだよ」
聞き返すと眼鏡をくい、とあげて嬉しそうに三日月は提案してきた。
「流星群を見に行こう。ちょうど今日はペルセウス流星群が綺麗に見られるよ。……くーちゃんは、いないから、やっぱりやめとく?」
「いいよ」
屑がいないのは、確かに悲しいけれど、今日から夏休み。遊ばない手はなかった。天体観測なんて、嫌な思い出も多いけど、三日月が一番好きなことだし。
なんだか三日月に違和感を感じて、じっと見つめてしまう。何が変なんだろう、いつもと違う気がする。ささいなことに気付かないタイプだから、前髪を切ったとかではないと思うんだけど。
「どうしたの月草?」
「月草!? 三日月、俺のこと月草って呼んでる!?」
いつもいつも名前を呼ばれなさすぎて自分でも自然すぎて気付かなかった。指摘すると、いまさら何を言ってるんだみたいな目で見られた。だって、屑はこれまで通りなのに、なんで。
「なんで急に?」
「急じゃないよ、くーちゃんだけあだ名で呼んでるのは何で、って月草が言うから、月草のこともあだ名で呼んでただけで、前までちゃんと呼んでたじゃん」
「そういえばそうだったっけ……?」
あだ名で呼ばれだしたのは三日月がベガと出会った頃、ぐらいだったはずだ。時期的にそれを思い出して、ベガの姿を見かけないことに気が付いた。
ベガとの契約は記憶力だったから、ベガとの契約が切れかけていたり、するのだろうか。
「最近、ベガとはどうなんだよ。俺はプロキオンと毎日、顔を合わせてるけど」
「そうなの? 私、そんなにベガに会ってないなあ。それに、記憶も結構ある……」
そうなの不思議だね、と三日月は首をかしげる。お前の急変に、俺は首をかしげたいけどな! 心なしか以前より、まともに話ができるようになっている気がする。
三日月の光源、ベガ。ベガは、三日月から離れようとしているのか。三日月は、以前は強く志したものを、今は強く志さなくなってしまったのだろうか。
「で、ペルセウス座流星群なんだけど」
そんなことはなかったようで、いつものように三日月は流星群の話を嬉々として始める。
「三大流星群の一つ。三大流星群っていうのは、一月のしぶんぎ座流星群、八月のペルセウス座流星群、十二月の“双子座流星群”のこと。ペルセウス座流星群は、流星の中でも流星数が多い上に、極大の時期がお盆前後だから、夏休みと重なることで注目されやすい流星群なんだよ」
ペラペラと早口で話す三日月。相変わらずよく知ってるなあ、とこっちは感心するばかりだ。
「本格的に流れ始めるのは十二時を回ってから。空が白み始めるまで、観察しやすい時間帯が続くこともあって、観測しやすいことでも有名だね」
俺の腕時計を指さして、三日月は長い髪をばさばさ動かしながら歩く。一方的だ。
「私の家に十二時に集合ね。待っているから!」
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