第4話 水瓶座η流星群①

 再び戻って、市立果永しりつはてなが高校。

 一連の『琴座ことざκカッパ流星群』の事件後。仕切りなおして流星群を見に行こう、とくずが言い出した。

「流星群が見たいの? くーちゃん、もしかして星の魅力に気付いた!?」

 三日月みかづきは光源、ベガとの契約で『知識欲』を、根こそぎ持ってかれている。一応、三回聞けば覚えられるのだが、面倒臭いので、今回の事は忘れたままにしてもらっている。

 忘れたままの三日月への、謝罪の意味も込めて、屑と一緒に企画した。帰り道に彼女自身が言っていたが、覚えていないからだ。まったく、面倒臭い『契約』である。

月草つきくさ、大丈夫? 顔色が悪いよ?」

 気遣ってくれる屑。相変わらず無表情なんだけど優しい。感情豊かだけど優しくない三日月とは大違いだ。

「聞いてくれよ! プロキオンと契約結んだせいで、四六時中、どーでもいいことでも考えさせられちゃうんだ! 例えば、空間と場所の違いとか。ノイローゼになりそう……」

 アリの生態とか、興味もなかったのに考えてしまう時もあった。すでにしんどい。ボーっとしていたい。へえ、と感心したように声を漏らす三日月。

「えらいねえ。私なんて、ベガに、それこそ四六時中、制限を緩めてもらおうと

してるよー」

「……そんなことして、いいのか?」

「ん? だから失敗して、『契約と内容が不一致だ!!』って、怒鳴られたりしてケンカになるんだよね。毎度毎度、もう、大変だよー」

 大変なのは明らかにベガだ。可哀想過ぎる。やっぱり、普通は我慢するしかないんだな……がんばろう。

「恒星ってやっぱり、大変なんだなー」

 恒星じゃない屑が無表情で言った。案外、すんなり恒星になれてしまったので、屑が恒星じゃないのが意外なくらいだ。決意がどうとか言っていたけど、そんなのみんなしている気がする。判断基準が謎だ。

「この季節だと、うん、水瓶座みずがめざηイータ流星群がいいかな」

「あのさ、俺も……」

 屑が何か言いかけたけれど、話は流星群の方へと戻ってしまった。

 流星群の話と言えば、三日月。自分の好きな分野の話だからだろうか、超ノリノリで話し出す。テンションが高い。

 何を言いかけたんだ、と目で屑を追ったけれど、屑は気にした様子もなく話し出した三日月を見ている。きっと大したことでもなかったんだろう。

「そろそろ連休でしょ? この、五月の連休ごろに極大を迎えるのが、聞いて驚け、この水瓶座η流星群、なんだよ! 知ってた?」

 そんな事、普通は知るか。一般常識とはおよそ言えない知識を、披露する三日月。

「水瓶座に放射点のある流星群は七月にもあって……水瓶座δデルタ流星群、ね。それと区別するために、近くの恒星の名前『ηイータ』を付けて呼ぶんだよ!」

 どーでもいいから、先に進んでほしい。それにしても、デルタ。どうしても『三角州』が連想されてしまう。記号としてつけているだけだろうけど、同じ言葉が出てくるとどうしても、先に習ったものを先に連想してしまう。

「この流星群、残念な事に放射店の位置の関係で、北半球の中・高緯度での観測が難しいんだよね~。南半球では、三大流星群の『ペルセウス流星群』に匹敵するほどの流星数が観測されるらしいんだけど」

 南半球に行くか? 流星群の観測のためだけに旅行なんて、俺には考えられないが。三日月なら近い将来、しでかすかもしれない。

「日本では、明け方の一時間くらいしか見れないよ!」

「明け方一時間って……具体的に何時だよ!?」

 アバウトな三日月さん。きっとこいつ、一日中流星群の観測に費やす気だ。また、気づいたら朝だった、なんて嫌だ。寝たい。

「うーん、深夜二時頃から、夜がし白み始める三時半頃が観察のチャンスかも」

 言ってることが当っているのか、違っているのか。三日月はいつもの調子で続けた。嫌な予感。

「まあ、いざとなったらずっと観察してれば良くない?」

「良くない!」

 やっぱりそうくるか! 冷ややかな目で見てないで、屑も何か言ってくれよ!

「ゴールデンウィークか。どこで何時頃、集まる?」

 屑がカレンダーを見ながら言う。何か言ってほしいとは思ったけど、そっちか! いや、決めなきゃいけないから大事なことなんだけど! 以心伝心にはまだ鍛錬が足りないか。

「じゃあ、五月五日、学校の前で、午後……あ、六日だと学校あるじゃん。午前一時頃、えっと、四日の十三時に集合、ってのはどう?」

「いいんじゃねえ、それで」

 間違いを防ぐためにも確認し合う。誰もいないのにそんな夜更けに集合場所にいても気付けない。心が折れる。

 そんなわけで三日月はノリノリ、ともかく決定。それぞれスケジュール帳に書き込んで、その場はお開きになった。


 五月四日、午後十一時ごろ。

<月草さん、少々お話させていただいても、いいかな?>

 微妙な言葉遣いのプロキオンが不意に話しかけてきた。時間まで寝ようと思っていたのに、話しかけられてしまった。

「えっと、その前に。プロキオン」

<はい、何でしょうか月草さん!>

「呼び捨てでいいよ?」

 小さな黒い耳をぴこっ、と揺らして息を吸うプロキオン。びっくりしたようだ。さすが、子犬座。かなり犬に近い。

 そういえばプロキオン以外の光源は、ぱっと見、何の星座を司るか分かんない。ベガもスピカも、それっぽくはなかった。ということはプロキオンが特殊なんだろうか。分からない。

<え、あ、うん! よろしくね、月草!>

 えへへ、とはにかんで見せる。男の子かなと思ったけど、そういえば光源に性別とか、あるんだろうか。妖精みたいなものだし、ないのかもしれない。

 話しかけてきたのに遮ってしまった、で、何だっけ? と話を振ると、しっぽをぱたぱたさせながら、プロキオンは話し出す。 

<今回も天体観測へ行く事になりましたが、『銀河』の対策は考えてるの?>

「え、『銀河』……?」

 もう来ないだろうと思ってたから考えてない。というか、すっかり銀河の事忘れてた。だって、プロキオンのこととか、あったし。

<ボクがいることで、月草も狙われるようになる、かもしれないけど、対策はどうするの?>

 意外としっかりしてるなあ、と思う。泣き落としで契約結んできたりしたし、したたかなのかもしれない。でも、こんな田舎にまた来るのか?

「大丈夫だって。こんな所にそう何回も出没しないよ」

<月草と、三日月さんを、逃がしてしまっているのに?>

 そうかもしんない。

 でも逃がしたのはあっちだし、あれから何日か経ってるし、大丈夫だと思いたい。学校の登下校も、平気だったし。

<早く行って、早く帰ってくることをオススメするよ>

 その通りすぎる。俺だって早く帰りたいところだし。

「そうするよ。わざわざありがとな、プロキオン」

<いえ! もういっそ、約束なんて忘れて、サボっちゃえば……>

「あっ、もう十二時過ぎてる! そろそろ行かなきゃ!」

 悪魔のささやきをさえぎるように切り出す俺。本当にしたたかだな。銀河にあったからって何をされるのか、正直なところよく分かっていないけれど、どうしてプロキオンは嫌がるんだろう。

 道中、プロキオンが<引き返しましょうよ~! 絶対、大変な事になりますよ! ボクのカンはよく当たるんです! だから引き返しましょうよ~!>なんて延々言って来たけど、無理やり明るく振舞って、集合場所へ向かった。

 子犬だからビビりなのかもしれない。


 プロキオンの言葉を無視し続け、やっと学校の前に着いたと思ったのに。

「あれ、屑? 三日月は?」

「ん? まだ来てないよ。三日月、結構ルーズだし、仕方無いけどさ。てかさあ、くくくっ、月草って本当にそのパーカー、好きなんだね」

「ぐは!」

 ナチュラルに指摘されて気付く。しまった、何だこの前回と同じ展開は。

 そういえば、ついさっき交番のおまわりさんに職務質問されそうになったっけ。『なんだ、月草くんか。早く帰るんだよ』って、笑顔で言ってくれたけれど、心なしか、制服の時よりも、目線は上の方にあったような。

「あ、三日月、来たよ」

 俺を無視して、やってくる三日月に手を振る屑。例のごとく無表情で、俺をスルーすることにすっかり躊躇が無くなってしまった。悲しい。

「やっほー! 遅くなってごめんね! レッツゴー天体観測!」

 ぐいぐい俺たち二人の背中を押して歩き出す。遅れてきたのに先を急いでいるようだ。そんなに楽しみなら、もっと早く来ればよかったのに。

 そう考えて、はっとする。先日の一件。三日月は誘拐されかけたのだ、そりゃあ、慎重にもなるだろう。

 反省している俺を横目に、三日月はふっと笑ってつぶやくように言った。

「つっきーはさあ、どうして恒星になんかになったの?」

「どうして、って言われても」

 思わず、口ごもる。泣き落としされたからに他ならないんだけど、そう答えるところじゃない気もする。それ以外にも理由はもちろんあるんでしょ、って感じの空気だ。何を言っても、またまたーはぐらかして、みたいになっちゃうやつだ。困った。

「やっぱり月草は、優しいんだね。優しいから。そんなんだから、月草は損ばっかりしちゃうのに。それでも、優しいよね」

「優しい優しいって、三日月や、屑の方が俺よりよっぽど優しいだろ」

 何だこの雰囲気は。いつも邪険にされたり、俺がフォローすることの方が多いだけに、こういうのは慣れなくて、ついぶっきらぼうに言ってしまった。またまた、みたいな反応をされる。むずがゆい。

「まあいいや。私が優しいのは事実だし?」

 肯定しやがった、三日月。意地悪く俺を見て笑って、で、と仕切り直す。星が絡んでいるからか話が脱線しているのを軌道修正したいらしい。

「二人とも、どこで見るつもり? もし決まってなかったら、オススメの場所をご紹介しようか!」

「どうせ公園だろ?」

「何で分かったの!?」

 そういえば先日のことを忘れているんだっけ、これはますます俺たちがしっかりしなければ。教訓として、忠告しておこう。

「三日月、トイレにだけは行くなよ」

「え? なんで? 嫌がらせ!?」

「そんな性癖、俺には無いからな!?」

 屑も笑ってばかりで俺をフォローしてくれないせいで、三日月の俺の評価がだだ下がりな気がする。そんな目で見ないでほしい。

 忘れるだろうけど、それありきで話をするのもさみしいよなあ、なんて。俺がこうしてぐるぐる考えてしまうのだって、光源のせいなのだけど。


 公園に到着すると、率先して三日月がごろり、と寝転んだ。困ったように、三日月にあらかじめ言われていたのだろう、屑がレジャーシートを敷いてくれる。全快はそんなものなかったし、三日月も今回はドッキリとか考えず、純粋に天体観測を楽しむつもりなのだろう。

 俺も二人にならって寝転ぶ。オススメの所、と言うだけあって心なしか星がたくさん見える気がする。寝転がって見ているからだろうか。

「やっぱりさあ、私は銀河に限らず、誰かと、何かと争ったり、したくないんだ」

 流星を凝視したまま、三日月は真面目な顔で続けた。星を眺めながらだと互いの顔が見えないけれど、すぐそばで声がするから、いつもよりしっかり話してくれているような気がした。なにより刹那の思考力しか持たない彼女の言葉は、どの瞬間であれ、飾りのないものだろう。

「だから私はね、本当のことを言うと銀河に会いたいんだ」

「え…………?」

 思わず、体を起こして三日月の顔を見てしまった。三日月はまっすぐ、空を見上げていて、こちらに目もくれず楽しそうに、星を追いかけている。

「へへ。気を使ってくれてたんだろうけど、ここ、前も来たんだよね?」

「あ―――」

「ベガに聞いたの。私は……覚えてないんだけどね」

 言葉どおりに笑う三日月。知ってたのか。屑に目配せすると、無表情に肩をすくめられた。屑も体を起こしている。

 記憶がなくたって三日月はいつも通りに生活してきている、そりゃあ、三日月の方が上手ってわけか。つけ焼き刃で三日月に、お詫びのようにこちらから天体観測に誘うなんて、三日月からしたら、異常事態だっただろう。

 三日月は上半身を起こして、目だけは星を見据えながら、話す。

「銀河に、会いたい。あまり、話せなかったみたいだから。あの人、全然私の話を聞いてくれなかったの。それに、気を失わさせられたし」

 三日月はそこ前言うと、今度こそは! と意気込んで見せる。

「だから、二人とも探すの手伝ってね!」

「ええ……」

 銀河のお姉さん、好戦的すぎて嫌な記憶しかないんだけど。お腹をさすってしまう。また蹴られたりしたくはない。いやな予感しかしない。

「私たちはきっと、分かり合えるんだよ。同じ言葉だって喋れるし、手だって握れる。つっきーやくーちゃんとも、私は違うけど、友だちだし、大事だもん。だから銀河の人だって、きっと」

 ニュースでも銀河は、凶悪な『殺人鬼集団』と報道されている。出会ってしまったこの間だって、容赦なく俺に力をふるってきた。

「三日月のそういうとこ、うらやましいな」

 ぽつり、と漏らしたのは屑だった。俺もそう思いたいなと、力なく、ぎこちなく笑って見せる。

「俺も協力するよ。でも、それでこっちが危なくなったらどうするんだ?」

「くーちゃん……私が危なくなっても自業自得だから、しょうがないよ。心配してくれて、ありがとう」

「そうじゃなくて……」

 三日月は分からないようで、ようやくこちらを見てくれた。屑が言いづらそうにしている。こういうこと言うの、苦手だもんな。俺だって特異なわけじゃないんだから、俺に振らないでほしいんだけど。すがるように見られてはいたたまれない。

「屑は、三日月が俺たちを大事だって言ってくれるように、俺たちも三日月を大事に思ってる、って言いたいんだよ」

「ちょっと、月草!」

 そんなに照れるなら言おうとしなきゃいいのに。あたふたする屑に笑ってしまうけど、三日月も分かってくれたようだった。

 三日月の思いは分かるけど、あくまでも俺たちは、俺たちの安全を第一に。三人で再度、空を見上げる。灯りのない頭上に、無数の星々が瞬いていた。


<ミカヅキ! こちらに恒星が近づいてきている!>

 星を眺めているところだった。

 唐突に現れ、そう言ったのは、ベガ。慌てたようにしているものの、以前見かけた時と同じように、ベガは巫女装束を着ていて、妖精というより小さな神様のように見えた。

<ミカヅキに向かってまっすぐ、気味が悪いほどまっすぐ歩いてきている>

 警戒するようにあたりを見回しているベガに、俺も慌てて動き出す。昨日の今日ってわけじゃないけど、また銀河に会うなんてまっぴらごめん。

「逃げるぞ!」

「どこに!?」

 レジャーシートをあたふたと片付けながら聞いてくる屑を横目に、三日月の手首をつかんで走り出す。どこって言われても、俺だって何も思いつかないけど! 逃げるほかにないだろ!

「つっきー、銀河が会いに来たかもしれないんだよ! なんで逃げるの! ベガ、近づいてくる人が敵意を持ってるかどうかわかる? きっと無いよ!」

<私にそんなモノを感じる能力は無い!>

 何が起こっているのか分かっているのかいないのか、三日月がのんびり聞くも、ベガは怒ったように返す。そりゃそうだろう。光源だからって何でもわかるはずもない。

「そんな悠長なこと言ってられるか! また縛られたりするかもしれないだろ!」

「会ってもないのに一目散に逃げるなんて、ひどいよ!」

 俺は以前、不幸なことに遭遇してしまった銀河のお姉さんを思い出す。蠍座、アンタレスを光源として持つ女の人。攻撃的で、実際俺のこと、殺すみたいなことを口走っていた。

「そんなこと言い合ってるうちに銀河の人、来ちゃうんじゃない?」

 俺の味方をしてくれるかと思ったのに、屑は追いついてくるなりそんなことを言う。あたふたするベガ、かたくなに踏ん張って動こうとしない三日月、ああもう終わりだ、と思ってしまう。

 がさがさと、目の前の草が揺れる。

「こんばんはですー!」

 現れたのは、制服姿の女の子だった。明るく挨拶をしてきたけれど、面食らったけれど、見たところ年上のように見える。油断ならない。

 ポニーテールを揺らしながらゆっくり歩く姿は、薄い月に照らされて、不気味に見える。そもそも三日月に向かって一直線に来たと知っているだけあって、怖い。

「ああ、そんなに怯えないでください! 私は枯草かれくさ冬希ふゆきといいますー、怪しいものじゃないですよ?」

 ひらひらと手を振って、降参のポーズをとる枯草さん。でも名乗ったところで怪しくないところがない。

 制服姿と言うと、日陰ちゃんを彷彿とさせるけど、この人はブレザーの、この変じゃ見かけない制服だし。日陰ちゃんの制服も、このあたりで見かけるわけじゃないんだけども。

「何の用ですか」

「やだやだ、そんなに警戒しないで! ちょっと女の子を探してて……いかにも中学生って感じの、黒髪のセーラー服の子、見なかったかな?」

 フランクに話しかけてくるし、大丈夫……なのかな。本当に困っているだけなのかもしれない。屑も警戒しているけど、三日月はもう、興味なさげにその場に座り込んで、星の観察に戻ってしまった。

 セーラー服の女の子。言われて思い浮かぶのは日陰ちゃんだ。でもまさか、今日もこんなところをうろついてるわけないだろう、たぶん。

「見てません」

「じゃあ、あなたたちも恒星なんだあ?」

 屑の答えに、あれ、と嬉しそうに笑う枯草さん。緩みかけていた警戒心が、一気に戻ってくる。なにより”じゃあ”と言ったのが、ベガを見て言ったわけではなさそうなのが、怖い。

「…………どうして、恒星だと?」

「あらら? 身構えなくても大丈夫だよ! あれ、あなたたちの方が多くて有利なんだから、私が怯えた方がいいのかなあ。私も恒星だから、分かっただけだよ!」

 ベガも恒星が近づいていると言っていたし、日陰ちゃんも、光源同士はある程度どこにいるのかを探れる、と言っていた気がする。プロキオン、そういうことちゃんと俺にも伝えておいてくれよ。

「なあんだ、ここじゃ、なかったのかあ……光源があったし、ここだと思ったんだけどなあ、どこにいるんだろう」

 俺たちの動揺を無視してきょろきょろと辺りを見回す枯草さん。

「枯草さんは、銀河じゃない、ですよね?」

「屑!?」

 急に聞くからびっくりして、思わず声をあげてしまった。このまま凩さんは帰りそうな雰囲気だったのに、屑の質問に目をぱちぱちさせている。

 いきなり殺人者集団の一員ですか、って聞くようなものだ。いくら銀河は恒星で成り立ってるからって、そんなのは偏見すぎる。

「銀河だよ」

 屑としても安心したかっただけだろうと思ったのに、予想もしなかった返答。空気が凍る。三日月が気になって、枯草さんの視線を遮るようにじりじりと移動する。

「銀河の人が、どうしてここに……」

「だから、そんなあからさまに警戒しないでよー! 今日は本当に、迷子を捜してるだけだから! 勧誘とか、新参さんに挨拶するつもりもあったけど!」

 あわあわする枯草さんだけど、こちらも気が抜けない。にっこり屑に笑って見せているのは、無表情な屑に信頼してもらおうとでも思っているんだろうか。

「もう、信じてもらえそうになさそうだなあ。まあいいや、私は迷子探しに大人しく戻ります。だから、そんなに警戒しないでよ、ね!」

 ばいばーい、なんて、にこやかに笑って、片手を振りながら、歩き去る枯草さん。意味が分からなさ過ぎて首をひねってしまう。ただでさえこっちは無駄な考え事が多いのに、悩みの種を増やさないでほしい。

「あの人、一体なんだったんだろうな、屑」

 姿が完全に見えなくなったところで屑に話しかける。屑は俺の声に気付いていないのか、ぼんやりしていた。そりゃあ、あんなの狐に化かされた気分だ、俺だって。

「あのさ、月草……」

「帰るか」

 立ち上がろうとしない三日月の腕をつかんで立ち上がらせる。何か言いかけた屑を遮ってしまったから、何だっただろう、と顔を向けると、無表情に首を振られた。

「ごめん、何だった?」

「いや、なんでも。帰ろっか」

 屑の言い方が、歯切れが悪い気がする。でも、本当に言いたいことなら言ってくれるだろうし。行くぞ、言いながら三日月の背を押すと、あ、と声を漏らす。

「流れ星!」

「本当に星が好きだな、三日月は……」

 嬉しそうにする三日月を見て、色々あったけど天体観測は丸く収まったかな、と思う。帰路で襲ってくるタイプの銀河に会ってしまっては台無しだけど。

 やっと流れた星が流れたようだけど、そんなに夜遊びするわけにもいかなくて、三日月を押して帰る。俺は三日月を送っていくから、途中で屑と別れた。

「じゃ、また学校で!」

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