そばの神田が旨すぎる

 仙台宮城インターチェンジの料金所へ到着した。

 只今14時10分。平塚を朝5時30分頃に出たから、約9時間。のんびり進んで休憩も多かったのに、予想より早い時間に着いた。

 長い時間ハンドルを握っていたので、手がスムーズに開かない。

 クラッチを握る手が開かない。固まっている。気づけば咳もさっきから頻繁に出る。完全防御しているはずなのにな。


 結果、バイクから降りて高速道路の料金を支払うという、最もみじめな状況に。後ろにつかえている車に申し訳ない。申し訳ないと思いつつも


「車に乗るならETCつけろ、この貧乏人どもめが」


 と大声を上げたい気もする。

 自分のことは思い切り棚に上げているが、経済的カーストの最下層にいる人間のたわごとだと聞き流してもらいたい。


 ETCで料金所をらくらく突破した三吉のVMAXが、せまい路肩でおれの支払いを待っていた。


 高速を降りると、仙台までは30分ほどだ。


 仙台には何があるというわけではないが、食べるものは旨い。

 高い金を出さなくとも、駅前には「そばの神田」という大変旨い立ち食いそば屋がある。

 この神田そば、千代田区の神田周辺に数店ある「かめや」の影響を受けていると思うがどうだろうか。だから店名に神田をつけているのではないかと疑っている。あのジャキジャキ感あふれる歯ごたえのそばは、あまりお目にかかれるものではない。

 というわけで、三吉を連れて行った。


「あ、確かに旨いですね。かめやっぽいけど、揚げ玉乗せ放題ってものすごいお得感が」


「だろ。ここで冷やし温玉わかめそば470円を頼むと、結果的にかめやで得られる以上の幸せを感じる」


「安上がりな幸せで羨ましい」


 泊まるところは決めていない。仙台はやはりお高いので、多賀城たがじょう塩釜しおがまか、または七ヶ浜しちがはまか。

 奥州藤原氏好きとしては多賀城と平泉は欠かせない。歴史好きのロマンが密集した地だ。まず「炎立つ」を読んでから前九年の役とか勉強すれば、歴史の授業が面白く感じるはずだけどなあ。「敗者にも歴史がある」と察するかどうかで、その後の生き方も違ってくるはずだし。


 けどそれを言うと三吉に引かれる可能性がある。集団の中にいないとはいえ、それくらいの分別はわきまえている。

 塩釜で寿司を楽しむのもありだが、夜の塩釜は行ったことがない。寿司屋でいくらかかるのか想像がつかないので、これも無しだ。

 となると…。


「3回目に行ったのが七ヶ浜でしたね」


 そうだった。あの時は夏の週末ということもあり、現場には千人近い作業者がいたと思う。

 真面目に土を掘り返す人たちの中で、大阪の企業から集団で来た奴らの多くはずっと遊んでいた。企業の名前が入ったビブスを着用して、よくここでふざけられるなと感心したものだった。なあ、某調味料の大手企業様よ。


 スタッフによる最後の挨拶はいまだに覚えている。

 現地出身、坊主頭の大学生が、マイクも使わずに大声で感謝を述べていた。

「今は悲しい思い出でいっぱいですが、どうか美しい部分も多く見ていってください。

 ここ七ヶ浜は、宮城で始めて海水浴場に指定された場所です。

 美しい景色を見て、楽しい思い出として帰ってもらいたいです」


 作業が終わり、七ヶ浜の美しい景色を観るために海岸へ向かった。

 美しい場所だったんじゃねえかなと思う。正直、景色がにじんであまりよく見えなかった。


 そんなことを思い出していたら、再び七ヶ浜の美しい海岸と、整然と整理された町並みを観たくなった。

 七ヶ浜町は仙台からはわずか20kmほど。夕焼けにも十分間に合うはずだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る