ACT50 いざ、その立場になってみると?
「シロちゃん、今度からTシャツで寝よう?」
朝、時刻は午前五時と言ったところで。
起きて一番に、真白は朱実に鬼気迫る状態で言われてしまった。
「いきなりどうしたの、朱実」
「いや、シロちゃん、朝起きたらほとんど半裸状態だったから、わたし、慌ててパジャマのボタンを直したんだよっ」
「あー、時々そういうことあるのよね。起きたら、何故かボタンが少し外れてたり……」
「少しどころじゃなかったんだけど……それよりも、なんでそんなにボタン外れやすくなってんの?」
「うーん、この夏用のパジャマ、中三の頃から使ってるんだけど、最近胸のあたりがちょっときつくなってきたかもしれないから、その影響かも」
「――――!」
問われて思い当たる節を言ってみると、朱実は目を大きく見開いて、それから数秒で手を床についてガクリとうなだれてしまった。
見るからに、落ち込んでいるのがわかる。
「あ、朱実?」
「そんな……シロちゃん、まだ成長中なの……わたしなんて、小五からずっとこのサイズだって言うのに……」
「……なんでそこまで落ち込んでるかわからないけど、元気だして、朱実。別に小さくたって良いじゃない」
「シロちゃん、それ、強者の余裕ってやつなのかな? かな?」
「違うわ。例え朱実の胸が大きくたって、もちろん小さくたって、あたしは朱実のことを可愛いと思うだろうし、絶対に好きになると思うから」
「!!!!!」
思っていることを真白が素直に言うと、朱実、ボッと顔を赤くして口をパクパクとさせていた。
何かを言おうとしては言葉にならず、俯いたりこっちを向いたりと、子猫のようなアクションを繰り返した後に、
「……あ、ありがと」
恥ずかしそうにこちらを見て、消え入るような声でお礼を言ってきた。可愛い。
どうやら、しっかりとこちらの気持ちが伝わって、立ち直ってくれたようである。
「とりあえず、これから朝ご飯とお弁当作るから、着替えましょっか」
「え……って、シロちゃん、待って待って! わたしが居るのに、そ、そのまま着替えるの!?」
「え?」
プチプチとその場でパジャマのボタンを外す真白に、朱実が慌てて待ったをかける。
はて、どうして彼女はこんなにも焦っているのだろうか?
「別に、気にすることじゃないと思うけど」
「わ、わたしは気にするよっ」
「どうして?」
疑問に思って首を傾げる真白に、朱実は『ぬぐっ……』と言葉に詰まり、数秒ほど悶々とした後に。
意を決したかのように、こちらをまっすぐに見てきて、
「し、シロちゃんは、わたしの裸を見て、こ、興奮するって昨日言ったよね」
「ん? それはもちろん。今も、朱実のパジャマ姿なんか見てると、可愛いのもあるけど、ボタンの隙間からちらちら見える肌の色なんかには……その、グッときてるわ」
「見てないように見えて、実はそこまで見られてるのも赤面ものだけどっ……そ、それと同じで、わ、わたしも、シロちゃんの身体を見て、興奮したりするんだからっ」
「え……!」
朱実の発言を受けて、真白はドキリとなった。
次いで、顔の方にどんどん熱を持っていく感覚。
その反応を見てか、朱実は、畳みかけるように、
「シロちゃん、お肌綺麗だし、衣服越しでも引き締まってるとわかるお腹や脚のラインも素敵だし、何よりおっぱいも大きいから、そ、そ、その、見る度にドキドキするし、触ってみたいとかも、思っちゃうんだからっ!」
「――――!」
そこまで言い切られると、真白の中で、本格的に恥ずかしいという気持ちが湧いてきた。
日々、家事をするのには体力とバランス感覚が資本なので、そのために運動などはしてきたつもりだけど、自分の身体にそこまでの魅力があるという自信はなかった。
それでも。
朱実にそこまで言われると、しかも現在進行形でじっと見られていると自覚すると、途端に、真白は羞恥心を抱かざるを得なくなる。
「そ……そうね。ご、ごめんなさい、朱実」
「わかってくれれば、いいんだよ」
「だから、その……ねえ」
「? シロちゃん、どうしたの?」
「――ちょっとだけ、向こう、向いてて?」
「!!!!!」
恥ずかしさを抱いたまま、力ない声で言うと、朱実、またも顔を真っ赤にして、
「は、はぃ! わ……わたしも、着替えるから、シロちゃんも向こう向いてて」
慌てた様子で背を向けて、バタバタとした様子で己のキャリーケースを開けていた。
真白も真白で彼女に背中を向ける格好で、ちょっと震える手つきで着替えを始める。
……どうしよう。
さっきまでは平気だったのに、今は、見られてないとはいえ、朱実がその場に居る、しかも後ろで着替えているという事実だけで、落ち着かない気分になる。
なるほど、昨日、真白がお出かけ服から部屋着に着替える際に朱実がさりげなく席を外していたのと、今さっき、寝るときはボタンの外れないTシャツを勧めてきたのは、正にそのためか。
「……でも」
そういう恥ずかしさを、乗り越えたら。
今よりも、もっと、朱実と仲良くなれるのかな。
様々な感情の先に、まだ未知のものが待っていると思うと。
真白の中で、まだまだ楽しみは尽きそうにない。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
オープンにされるよりは、恥じらいがあった方が魅力的、とは聴いたことがあるけど。
シロちゃんにやられると、破壊力満点だったよ。
…………でも、もうちょっと、そういうオープンさを楽しんでからでも、よかったかもしれないなぁ。
それを考えると、惜しいことをしたような、そうでもないような……。
「……朱実、こっちは着替え終わったけど、朱実はもう大丈夫?」
「あ、うん、わたしもちょうど終わったところだよ」
ともあれ。
お互いに部屋着に着替え終えてから、向き合うも。
「…………」
「…………」
顔を合わせると、まだちょっと、何も言えなくなっちゃう。
それに、シロちゃん、未だに顔が赤いところなんかを見ていると。
朝起きた時のシロちゃんの寝姿とか、躊躇なく着替えを始めたときのシロちゃんの肌の色とか、わたしに指摘されて恥ずかしくなってる仕草なんかを思い出して――
「朱実、もしかして、何か想像してたりする?」
「……ハッ!」
と、気づかぬうちにいろいろと考えてしまって、それを見抜かれたのか、シロちゃんってば半眼になってる。顔もまだ少し赤い。可愛い。
「そっか……」
そして。
シロちゃん、何かを思いついたかのように、少し悪戯っぽく笑って、
「昨日言われたことを、朱実に返すわね」
「え? そ、それはどういう……」
「朱実の、えっち」
「――――!!!!!」
小声で、からかわれるように言われたのに。
思わず、わたしはゾクゾクしてしまって、その場で固まってしまう。
「え、そ、そうは言われても、そのう……!」
しどろもどろと口籠ると共に、わたしは一瞬、このゾクゾクの感覚で腰を抜かしかけてしまったのだが……そこはなんとか堪えた、ところで、
「あ、そういえば、忘れるところだったわ」
シロちゃん、さらに何かを思い出したようで。
固まっているわたしの肩を、ぐいっと引き寄せて、
「んぅ……っ!?」
唇を重ねられた。
いきなりのキスに、わたしは目を閉じるのも忘れて、でも心地いい感触だけはしっかりと感じられていて。
もはや、今起こっている何もかもに、様々な意味で翻弄されかけたところ、
「――おやすみのキスもあれば、おはようのキスも、あっていいよね?」
「…………あぁ、そう、いう……ふぅ」
ちょっと恥ずかしそうに語りかけてくるシロちゃんが、トドメとなって。
寸前で堪えていたわたし、とうとう腰を抜かして尻餅をついてしまったのであった。
シロちゃん。
朝から畳みかけてくるのは、ちょっと自重してもらえないかな。
朝と言えばライフ満タンのはずなのに、わたしはもうゼロ寸前だよ……。
でも。
朝から、果てしなく、幸せです。
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