ACT44 いろいろと最高よ?
「ふぅ、終わったわね」
一学期の期末テスト最終日。
最後の教科を終え、真白は頭を使った疲労感と解放感から、ついつい自席にもたれ掛かってぐったりとなった。
傍目から見ると、頭から煙が出ているかもしれない。それくらいに集中していた。
教室内の生徒の何割かは、真白と同様の状態である。赤点による補習を免れるために、必死だったのだろう。ちなみに、一割くらいは灰色になって天を仰いでいる。……その辺は、お察しか。
「シロちゃん、期末どうだった?」
と、そんな疲労状態や灰色とは無縁の朱実が、前の席から訊いてくる。
手応えがあったのだろう。溢れんばかりのエネルギーが、その童顔から溢れているように見える。可愛い。
疲労感も手伝って、真白は、朱実の雰囲気に割り増しで和みそうになってしまったのだが、それはともかく。
「中間の時よりは良いとは思うわ。中の中、もしくは上くらいには食い込んでるはずよ」
「そうなんだ。わたしも、今回はバッチリだったよー。桐やんから教えてもらった勉強法も役立ったし、それに」
「? それに?」
首を傾げる真白に、朱実はにっこりと微笑みながら、少し顔を耳に寄せてきて、
「シロちゃんと付き合い始めたからって、それが原因で成績下がるなんてことは、したくなかったからね」
「――――」
そっと、囁いてきたのに。
真白は、自分の胸の中が熱くなるのを感じた。
本当にこの娘は、どこまで健気で可愛いんだ。しかも、自分のことも真白のことも真剣に考えている。
それだけ、彼女は真白のことを好きでいてくれている。
「う、わっ、シロちゃん!?」
そんな彼女への愛おしさが溢れて、自席の机越しではあるけども、真白はついつい朱実を抱きしめてしまった。
「朱実、あなたって本当に最高よ」
「し、シロちゃん、皆が見てる見てる見てるっ!」
「ん……っとっとと」
いけないいけない。付き合っていることは、皆にはまだ秘密だった。
慌てて彼女を離しつつ周囲を見ると、『またやってるな』『相変わらず仲良いな』といった感じの視線がちらほらと。……友達のスキンシップくらいに見られてる段階といったところか。
「ごめんね、朱実」
「もう、気をつけてね、シロちゃん」
「でも、後で……ね?」
「……もう」
赤くなって、小さく頷く朱実も、また可愛い。
……付き合う以前も、こういう風に顔を赤くしていた朱実は何度も見たけど、今はいっそうにグッとくるし、今すぐこの場で抱きしめたい頭ナデナデしたいキスしたいという気持ちが溢れそうになってしまう。
しかし、朱実の恥ずかしいという気持ちもあるので、ここは我慢。我慢なのだ……!
そういう風に、真白が悶々としているうちにも、朱実は気を取り直したようで、
「シロちゃん、これから予定ある? 期末も終わったことだし、これからパーッとどこかに遊びに行かない?」
「んー、そうしたいのはやまやまなんだけど。家のほう、今日はあたしが食事当番だから、晩ご飯の用意しないといけないのよねぇ。あと、日用品の買い物とかもしておきたいし」
「そうなんだ。それじゃ、この前に言ってたとおり、わたし、シロちゃんの家事を手伝おっか?」
「いいの? 結構大変だけど」
「いいよいいよ。今日はもう暇だし、明日からテスト休みだしね」
そう。
我が校は、期末テストの終了から一週間後の終業式まで、学校はテスト休み期間になる。
期末テストの結果についても、答案は返却されず、結果シートだけが終業式に成績通知表と共に渡される形だ。
中学まではそういうのがなかったので、『いいのかな……』などとも、思ったりする真白であるのだが、それはともかく。
「なんだか、いきなり朱実に負担かけちゃったわね」
「わたしは、負担だって思ってないよ?」
「そうなの?」
「うちの家、お母さんが何でもやっちゃうから、わたし、結構家事って慣れてないんだよね。だから、この機会にちゃんと慣れておくのも良いかなって思ったし……それに」
「? それに?」
真白が続きを促すと、朱実、ちょっと小さな身体をモジモジさせながら、
「シロちゃんと一緒に居られる時間が長くなるなら、逆にとっても嬉しいかも」
「……!」
なんだこの娘、最高過ぎか。
もうダメだ。本当にもう、この場で抱き締め――
ガッシ
「シ・ロ・ちゃ・ん? 自重、自重だよ……?」
と、真白が腕を広げようとした矢先、事前に察知した朱実が、こちらの両手首をつかんできた。
小さな体格と見た目に反して、結構力が強い。
「朱実、そうは言っても……!」
「本当にダメだから、ね? 我慢しよ?」
「でも、なんだかこう、抑えきれないの……!」
「となると、しばらく、わたしのストッパーが必要だね。ちょっとずつ、自重することを覚えようか……!」
「でも、やっぱり、朱実って最高だから……!」
「ほ、褒められても、抑える力は緩めないよ……!?」
とまあ、溢れる想いを抑えられない真白と、どうにかしてそれを抑えようとする朱実。
何故か、グイグイと押し合う二人の力比べの様相になってきた。これはこれで、真白はなんだか楽しい気がする。朱実も、そうなのかもしれない。
この光景、クラスの生徒達はどう感じるだろうか? と、真白はちらりと思ったりするけども、やはり友達のスキンシップといったところだろうか?
いつか、朱実はあたしの最高の彼女だって、自慢したいなぁ。
ふと、そんな思いに駆られつつも。
未だに押さえつけてくる朱実の手前、今は、自重せざるを得ない真白であった。……今は。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
……シロちゃんの無意識には参ったものだよ、などと思いつつも。
そういうところも、好きなんだよねぇ。
もう少しわたしにも、シロちゃんみたいな大胆さがあれば、堂々と……。
「あ、うん、わかった。今からちょっと相談してみる。うん。……じゃ、ひとまず切るわね」
シロちゃんとの帰り道。
今までシロちゃん、お母さんの美白さんに電話してたけど、今終わったみたい。
「朱実が手伝いに来るって言ったら、お母さん、すごい喜んでた」
「ん、そうなんだ。……そういえば、美白さん、あの雨の日以来会ってないから、また会いたいなぁ」
「ああ、その話なんだけど」
と、シロちゃん、スマホをスカートのポケットに仕舞いつつ。
少々改まった様子で、わたしの方に向き直って、
「朱実。今日、手伝いついでに、ウチに泊まらない?」
…………なんですと?
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