ACT43 決めごとって大事よね?
「ん、着信?」
帰り道で、朱実と手を繋ぎながら歩いている最中。
自分のスマホに着信があったので、真白は空いている方の手で端末を操り、画面を開いてみると、
「……そっか」
その内容は。
真白の顔を、自然と綻ばせるものだった。
「シロちゃん。誰から?」
「ん、さっきお友達になった、間違って手紙を送ってきたあの子」
「ああ。確か、斎場さんだっけ?」
「うん。さっき自分の好きな子に告白して、友達から始めてもらえるみたい」
「あ、そうなんだ。これから、上手く行くといいね」
「心からそう思うわ。斎場さんは、あたしに朱実への告白のきっかけをくれたから、感謝してもしたりないかも」
「……それを考えると、わたしにとっても恩人だねぇ。ねえシロちゃん、今度、紹介してもらっていい?」
「もちろん」
軽く笑いあって、真白は改めて、友達の幸せを願うと共に。
彼女への祝福の言葉と、そして、こちらもしっかりと上手く行ったという報告を返信しておいてから。
……これから、か。
朱実との未来について、真白は思いを馳せる。
この関係を一時のことにしたくはない。想いを伝え合ったからゴールではなく、想いを伝え合ったからこそスタートなのだ。
高校を卒業してからも、大人になっても、お婆ちゃんになっても、真白はずっと朱実と一緒に居たい。
と言っても、大人だのお婆ちゃんだの、そういった先のことについてはあまり想像もつかないから、それはその時に考えるとして。
まずはこの高校生活、朱実と一緒に居るためには、朱実と仲良くいられるには、どうすればいいか?
それを、二人の間で、少しは話し合った方がいいかもしれない。
そんな、思いからか。
『あのっ』
真白、朱実に話しかけたところ……朱実もまた、こちらに声をかけてきていた。
「えっと、朱実からどうぞ」
「あ、いや、シロちゃんが一瞬早かった気がするから、シロちゃんからだよ」
「いやいや、やっぱり朱実から」
「いやいや、シロちゃんから」
そんな押し問答を少しの間だけ繰り返して、
『ぷっ』
お互いに、同時に吹き出した。
思い出すのは、ほんの少しだけ距離を置いたあの日のことだ(ACT23参照)
結構前のように見えて、実はまだ一ヶ月も経っていないのには驚きだが……そのやりとりを見ていた、先輩である戌井藍沙が言っていたこと。
『付き合いたてのカップルには、よくあることなのよねぇ』
……朱実と、カップル、かぁ。
なんだか、改めて言葉にして考えると、とても嬉しい響きである。同じ笑い方をしている朱実も、それを思っているかもしれない。
可笑しさの傍ら、そういうニヤケ顔も浮かんできそうな真白ではあるが、話が進まないので、それはさておき。
「じゃあ、あたしからね。朱実と付き合うに当たって、いくつか決めておくことがあるかなって思って」
「あ、シロちゃんも同じこと思ってたんだ。まさに、それを言いたかったんだよ」
「朱実も?」
「ふふ、わたし達、とことん両想いだねぇ」
「両想い……ふ、ふふ」
「……えへへ」
言葉に出て、またもお互いニヤケそうになる。
いかんいかん、隙あらば浮ついた気持ちになるが、ここは気を引き締めて。
「コホン。とにかく、そうと決まれば話が早いわ。あたしから言わせてもらうと……あたし達が、こうやって付き合ってるって、皆に言っても良いものなのかしら」
一つ目。
二人の関係を、公表すべきか。
今朝方までは女の子同士でっていうのがおかしいと真白は思ってただけに、そういう考えを持っている人は、やはり少なくないとは思う。
今となっては、真白はそこまで気にしないのだが、朱実はどうか。
「……んー、わたしはちょっと、黙っていたいな。おかしいとかそれ以前に、なんだか、まだちょっと恥ずかしい」
「やっぱりね。朱実、照れ屋さんだし」
「うー、それを言われるのも、もにょもにょする……」
「大丈夫よ。黙っているなら黙っているで、それだけ、あたしが朱実を独占出来るってことだから」
「!!!!!」
その言葉に、朱実が顔を真っ赤にして、口をパクパクとさせていた。
はて、自分は何かおかしいことを言っただろうか?
「……シロちゃん、付き合い始めてからも、そのスタイル変わらないんだね」
「え? どういうこと?」
「いや……まあ、話を進めるね。次なんだけど、わたし、シロちゃんとデートってこれからいっぱいしたいなって思ってて、でも、シロちゃん休日は予定どうなのかなって」
「あー」
二つ目。
デートの周期はどのくらい?
朱実は基本問題ないのだが、真白は母子家庭なので家事の役割分担がある。土日も、母が仕事に出かけることがあるので、休日も忙しいっていう日も少なくない。
「……その辺は、お母さんとちゃんと話し合うわ。予定を取れるように頑張って、前もってちゃんと連絡するから」
「ん、わかった。やっぱり大変だもんね。なんなら、わたしが手伝いに行ってもいいかも」
「ホント? とても嬉しいわ。朱実、あなたはやっぱり、あたしの最高の彼女よ」
「!!!!!」
その言葉を受けて、朱実はまたも顔を真っ赤にしていた。
はて、自分は何か(以下略)
「口に出してそう言われるの、すんごい破壊力だね……」
「? とりあえず、次ね。……そういえば、キスって、一日何回するものなの?」
「ぃ……!」
三つ目。
キスは、一日何回が好ましいか?
これには朱実、真っ赤な顔を継続させたまま、
「べ、別に、回数とかは気にしないでいいんじゃないかなっ。人にさえ見られなければ」
「そうなんだ。……じゃあ、朱実」
「え……あ、うん……」
言われたとおり、周囲に人影がないのを確認してから、真白はその欲望を朱実に無言で伝える。
それを察知してか、朱実はピクリと肩を震わせるが……彼女も彼女で、そうしたいと思ったのだろう。
――お互いに目を閉じて、そっと重ねる。
今日の初めてから、既に何度も味わったのに、一回一回が柔らかで、甘くて、とてもドキドキする。
「……恥ずかしいけど、クセになっちゃいそう」
「わたしもだよ」
そのように呟き、もう一度重ねる。
存分に感触を楽しんだ後に、ややあって瞳を開けて自然と互いに笑い合ってから、ひとまず話を戻すことにする。
「んー、あたしとしては、今のところこれくらいだけど。朱実は他に決めておきたいこと、何かある?」
「……ええと」
訊いてみると、朱実はまだ顔を赤くしたまま、小さな身をモジモジとさせていた。可愛い。
どうやら、彼女にはまだ決めたいことがあるらしい。なんとなくわかる。
「なに? 出来る限り協力するから、なんでも言って?」
「ん……っとね、その、えっちなことは、まだしばらくしなくて良いかなって」
「えっちなこと?」
「う、うん。まだちょっと、そこまでするのはとっても恥ずかしいというか……」
「???」
真白、首を傾げる。
朱実の言うことが、イマイチよくわからない。
なにせ、
「朱実、キスって、えっちなことじゃないの?」
「はっ!?」
「その、今まで何回かしてきた手前、今更言うのもあれだけど、キスってえっちなことだ思ってて、あたし、その度にいろいろと恥ずかしいと思いながらも――」
「いやいやいやいやっ!? し、シロちゃん、もしかして知らないの!?」
「え? ど、どういうこと?」
朱実が驚愕していた。
本当に、どういうことだろう? もしかして、キス以上に、その、何だ、すごいことが有るとでも言うのだろうか。それを知らないのは、もしや、これも自分の女子力の足りなさ故か。
と、なれば、
「ごめん朱実。あたし何も知らないの。だから化粧と同じで、朱実が教えてくれる?」
「え……い、いや、その……!」
「出来ることなら、今ここで」
「!!!!!」
「さあ、朱実。包み隠さず、さあ」
「だ……ダメ、ダメです、無理です……!」
「そんな、つれないこと言わずに……!」
真白としては今すぐその無知を補完したかったのだが。
朱実の徹底拒否によって、その話は後日、時間をゆっくりかけて、ということになった。
とまあ、今の朱実の状態もあって、現状の決まり事は以上であるのだが。
……まだまだ、いろんなことを、知っていけるのね。
朱実と共に歩くにあたって、スタートから、いきなりワクワクが増えた気がするし。
今までと同じく、もっともっと、朱実と仲良くなりたい気持ちが強いので。
真白、未来が楽しみである。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
わたし、なんだか、本当に身が持たなさそうだよ……。
でも。
逆に考えると、もしかしてこれは、シロちゃんをわたし色に染めるなんてことも……いやいやいや、待て待て待て、時に落ち着け、わたし。
わたしの憧れは、やっぱり純愛系!
シロちゃんとはそういう
…………でも、なぁ。
やっぱり、何も知らないシロちゃんだから、これは言わば(以下繰り返し)
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