ACT33 自信を持ってもらうには?
「桐やん、さっきのここのところ、ちょっと教えてもらえる?」
「お、いいぞっ、シロっち!」
二時限目と三時限目の間、少し長い休憩時間中。
真白は、先ほどの数学の授業で分からないところがあって、いつもは朱実に相談するのだが、彼女は今日欠席なので、友達の桐子に質問することにした。
女子バスケ部所属で、大雑把かつ剛胆で、見た目もベリーショートの髪と細面の大味美人と、いかにもスポーツ少女な全体の黄崎桐子なのだが、
「ここはガーッと代入して、そこでストンと引いて、ゆえにドーンってなってこうなるんだっ!」
「……ものすごく漠然としてるけど、言いたいことはなんとなくわかるわ」
入学直後の実力テストは学年三位、五月末に行われた中間テストにいたっては学年トップの才女である。
勉強の教え方に至っても、語彙力は少ないが、フィーリングで分からせてしまうのが彼女のすごさだ。
「桐やんのおかげで、次の期末テストはいい感じにいけそうね」
「そっか! それなら良かったっ! これからも、分からないところがあったら、どんどんボクに頼ってくれっ!」
「……頼りっぱなしっていうのも、ちょっと悪いわね。さっきも励まされたことだし、あたしの方でも、桐やんに何かお礼をさせてもらいたいところだわ。桐やん、何かあたしにしてほしいこと、ある?」
「シロっちからか? んー、そうだな……」
真白の提案に、桐子、少々考える仕草を見せる。
十秒ほど考えて、何かがパッと閃いたようで、両手をパンと合わせた。アクションが大振りでわかりやすい。
「じゃあ今度、シロっちのように綺麗になる方法、教えてくれないかっ?」
「えっ……き、綺麗って、あ、あたしが?」
「うんっ。最初は普通な感じだったけど、ある日を境に、シロっちすんごい綺麗になったからっ」
「最初は普通って、いろいろとはっきり言うわね……当たってるけど」
真白は苦笑する。
でも、そこまではっきり言う桐子が『綺麗になった』と褒めてくるからには、その言葉に偽りない。それだけ、朱実に教えてもらった美容術が、成果を上げているということなのだろう。
「ボク、こういう面に関してはあまり自信なくてさっ。それで、シロっちならと思ってっ」
「んー、でも、こういうことって朱実の方がもっと詳しいから、朱実に教えてもらった方がいいと思うわよ」
「それもいいかも知れないけど、一から始める仲間として、ボクはシロっちから教えてもらいたいんだっ」
「仲間……」
なんだろう。
そう言ってもらえると何だか嬉しいし、こういう風にお互いを高めあえるのも、気分がふわふわして心地いい。自分の世界が広がっていくかのようだ。
……そのキッカケをくれた朱実には、本当に感謝よね。
朱実の顔を思い浮かべ、また胸が温かくなるのを感じながら、
「うん、わかった。ちょっとだけ時間をちょうだい。あたしなりに、桐やんに合いそうなの、選んでみる」
「おおっ! サンキュー、シロっち!」
「でも桐やん、これだけは覚えておいて」
「? なんだっ?」
真白、桐子の両肩に手をおく。
「朱実に教えてもらったけど、オシャレに必要なのは、まず第一に自信を持つことよ」
「自信」
「さっき、桐やんは自信がないって言ってたけど――」
しっかりと、まっすぐに彼女を見上げて、
「桐やんは、自分が思ってるよりもずっと魅力的な子よ。もっと自信を持っていいと思うわ」
「――――」
「あたしでも出来たんだから、桐やんならきっと大丈夫」
「お……おぅ、ありがと」
その言葉を受けて、桐子は少々照れたらしく、ちょっと顔が赤い。こちらから視線を逸らして、大きく呼吸を一つ。
こういう彼女を見るのも、珍しい気がする。
「……シロっちってさ」
「? なに?」
「なんだか、すごいよなっ」
「すごいって、なにが?」
「んー、とにかく、いろいろシロっちはすごいんだっ。その辺はボクが保証しちゃうぞっ」
「……ものすごく漠然としてるけど、桐やんがあたしを褒めたいことは、なんとなくわかるわ」
成績学年トップ、運動神経抜群の黄崎桐子にそこまで褒められるというのも、くすぐったいなと感じつつ。
休憩終了のチャイムが鳴ったので、真白は『じゃ、勉強教えてくれてありがとね』と言い残して、自席に戻る。
そのチャイムの音に混じって。
「……なるほどなぁ。いいよなぁ、アカっち」
と、どこか羨むような呟きを桐子が発していたのに、真白は気付いていなかった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
……今、どこからか、言い知れないラブコメの波動を感じたような?
こう、シロちゃんが、無意識でわたしを落としに来る時のものと、似てる感じの……ううん、なんだか、気になるよ。
ああもう、学校行きたいなぁ……シロちゃんに会いたいなぁ……あーうー。
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