ACT31.5 なんで上限を突き破ってるんですかね?


「とまあ、昨日はそんな風に、お二人がいつものようにイチャついていたのですよ」

「ふーん。それについては、もはや定番なんだけど……」


 朝のHR前のことである。

 所属する女子バスケ部の朝練を終え、桐子が一年二組の教室に行ったところ、既に、友達の奈津が教室に居たので、声をかけたのだが。

 奈津がスマホを片手に『ふーむ』と唸っていたので、その理由を聞いてみたところ、昨日の図書室での真白と朱実のやり取りについて教えてくれた。

 そのときの奈津は、図書準備室で原稿の作業をしていたので、内容が聞こえていたらしい。

 で。

 その話題の的だったものはと言うと。


「相性占いアプリかー。そういえば、ウチの部でも話題になってるなっ」

「そうなんですか?」

「うん。青山先輩なんかは、気になる子が居るみたい。あと、何気に糸賀先生もっ」

「おおぅ、生徒だけでなく教師からも知られてるとは。大流行ですな」

「そんなに肉体の相性が気になるものなのかなっ? 確かにスポーツをしていく上では大事なのかも知れないけどっ」

「……桐やんさん、真白さんと同じような天然ボケを」

「? どうした、おなつ?」

「いえ、何も」


 微妙な表情をしている奈津に、桐子は首を傾げるのだが、まあ、細かいことは気にしないでおこう。

 それよりも、この相性占いについて、桐子として興味があることと言えば、


「よし、じゃあ、ボク達も占って見よっかっ」

「まあ、そういう流れになりますよねぇ……いいですよ。自分も少し、気になっていたところなので」


 そう提案してみると、奈津は承諾してくれた。ノリが良いのはいいことだ。

 ともあれ、桐子と奈津の、フルネームと生年月日を入力する。


 黄崎桐子:八月二十一日

 緑谷奈津:八月二十一日


「……って、桐やんさん、自分と同じ誕生日だったんですか?」

「おお、ボクもビックリだぞっ。なんか嬉しいな、こういうのっ」

「そ、そうですね」

「予定が合えば、その日は、二人でお祝いにどこかに出かけよっかっ」

「!!!!!」


 奈津、いきなりの誘いに驚いたのか、眼鏡の奥の緑色の瞳をまん丸にして赤面していたものの、


「は、はぃ……よ、よろしくおねがい、します」


 しおしおと、弱々しい勢いながらも、頷いてくれた。これもまた嬉しい。

 桐子、今から誕生日が楽しみである。

 それはそれとして。


「お、占いの結果が出るようだぞっ」

「そ、そうですね。どうなりますか……ね……ええええええっ!?」


 結果が出た瞬間に、奈津が驚愕していた。

 内容はと言うと、


『100点満点中、恋愛: 友情:73 ビジネス:70 肉体:68』


「な、な、な……っ!?」


 奈津、その結果を凝視し、なおかつ眼鏡を外して彼女特有の緑がかった瞳でもその結果を凝視し、さらに眼鏡を装着して再び結果を凝視して、それでも何も結果が変わっていないのに、


「ななななななななっ!?」


 再度驚愕していた。

 桐子としては、結果よりも奈津のその様子がなんだか面白かったのだが、それはともかく。

 結果の感想でいえば、


「んー、結構普通だったなっ」

「ふ、普通!?」

「だってほら、友情と肉体、70前後じゃん。おなつとはとっても仲良しのつもりだったから、もっとあると思ったんだけどなっ。スポーツ面がそこそこなのは、おなつの体力を考えると、しょうがないかもしれないけどっ」

「あ……注目する点、そこなんですね……」

「ん? 他に何が?」

「いえ……桐やんさんがそれでいいなら、それでいいです……はぁ……」

「???」


 未だに赤い顔で、大きく息を吐いている奈津に、桐子は首を傾げるのみである。

 いつもは細かいことを気にしない桐子なのだが、今回はちょっと引っかかった。

 何故、奈津はこの結果に驚いたのか?


「…………」


 再度、桐子は結果に目を落としてみる。

 友情と肉体に関しては普通だったし、ビジネスについては興味があるとは考え難い。


 となると、この恋愛:120か?


 確かに満点を突き抜けた結果になっているのは、驚きに値するかも知れない。

 ただ、女の子同士で恋愛の相性というものを気にする必要が……否、よくよく考えれば乃木真白と仁科朱実という、ごく身近に例があった。早くくっつかないかな、あの二人。

 それはともかく。

 その場合、そういうことを、奈津は意識してしまったということになるのだろうか? 

 となると、桐子は奈津のことを、そういう目で見られるかということなのだが……。


「え、なんです? 桐やんさん?」


 と、桐子は奈津のことを見つめてみる。彼女は少々困惑していたのだが、気にせず、じっと。

 夏制服をきちんと着こなしている、小柄で細っこい体躯。三つ編みおさげのセミロングの髪。度の厚い大きな眼鏡をかけた顔は、全体的に地味な印象ではあるのだが。

 その、眼鏡の奥の、綺麗な緑色の瞳を思い浮かべたら――



「――有り、なのか?」



 呟きがポツリと出て、その内容に、桐子は自分自身で驚いた。

 次いで、全身に、じんわりとした熱が灯っていくような感覚を得た。


「桐やんさん? さ、さっきから無表情でこちらを見て、どうしたのです?」

「おなつ」

「は、はい?」

「――この件は、しばし保留でっ」

「ど、どの件ですかっ!?」


 先述のように、細かいことを考えない桐子なのだが。

 さっきの呟きと、今も灯っている全身の熱の原因については、じっくり時間をかけて考える必要がありそうだ。


「さ、今日も一日頑張るぞっ」

「切り替わり早っ!? 桐やんさん、こ、答えてくださいよっ!?」

「保留っ!」

「ですから、何がですかっ!?」

「何が何でもだっ!」

「誤魔化し方が大雑把すぎるっ!? この辺はなんだかいつも通りですねっ!?」


 その結論が出るまでは。

 そして、どんな答えが出てからでも。

 自分が自分らしく居られるようにしたいなっ、と桐子は思った。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 うーん、なんだか勢いで乗り切られた感がありますが、桐やんさんらしいといえばらしいですね。

 それにしても、この結果は……やはり、驚きです。

 しかも、桐やんさんは見てなかったんでしょうけど、この結果ページのコメント。


『絶対に、完璧に、超絶に、上手くいく二人でしょう! まだ付き合っていないのなら、今すぐ告白して付き合いを始めるのが、最高に吉でしょうっ!』


 それが出来たら、苦労はしないんですよねぇ……!

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