ACT31 二人の相性はどんなもの?
「相性占い?」
「うん。すごく当たるって評判なんだって」
七月に入って期末テストも近いということで、真白と朱実は放課後、図書室で勉強会をしていたのだが。
その小休止の最中で、朱実が、最近校内で流行っている、スマホの相性占いアプリの話題を出してきたのだった。
「名前と生年月日を入力するだけで、相性がわかるんだって。項目でいえば、恋愛、友情、ビジネス、あとは……に、肉体」
「? 恋愛とか友情とか、そういうのはわかるけど。肉体って、なんなのかしら?」
「さ、さあ?」
「ん……あ、わかったわ。スポーツでペア競技って一杯あるじゃない。テニスとかビーチバレーとかフィギュアスケートとか。それの相性なんじゃない?」
「…………そうなのかも知れないね」
何故か、朱実が遠い目をしていた。
間違ったことでもいっただろうか? 的を射ていると思ったのだが……。
「と、とにかく、シロちゃん、わたしと占ってみない?」
「そうね。やってみようかしら」
占いとかそういうものはあまり信じない真白だが、朱実のオススメと言うこともあって、興味がないことはない。勉強中の気晴らしにもいいだろう。
そんなわけで、早速その相性占いアプリをインストールして、各々の名前と生年月日を入力する。
乃木真白:十月十六日
仁科朱実:四月六日
と、この日付を見る度に、真白は少し思うことがある。
……朱実の誕生日、祝いたかったんだけどな
二人が初めて会ったのは、入学式の四月七日。その頃には、既に朱実は十六歳になっていたのであった。
友達の誕生日を祝うというイベントは、もっと仲良くなれる切っ掛けの一つだと思っていたのだが、そのチャンスがまだまだ先ということになっているのには、真白にはちょっと複雑である。
ただ、今、自分より年齢の数が一つ上であるだけに、時折、朱実をお姉ちゃんみたいに感じてしまうのも、そこまで間違いではないような……。
「あ、結果、出るようだよ」
と、いろいろ考えているうちに、スマホの画面上で占い完了の文字。
その結果は、
「100点満点中、恋愛:13 友情:7 ビジネス:8 肉体:25……」
すべての項目が低かった。
メッセージには『二人はあまり上手く行くとは言えないでしょう。慎重に事を進めていった方がいいかも知れません』とある。
流石に、この結果には真白は胸の中がもやっとなったし、朱実も朱実でサーッと顔色を悪くしていった。
「そ、そんなにも、悪いっていうの?」
「――――」
朱実が、涙目になっている。
これには真白、胸の中のもやもやが振り払われたかのように心身に渇が入り、電撃的に朱実の肩をつかんで、こちらを振り向かせ、
「そんなことない!」
大声で、言った。
「し、シロちゃん」
「会ってから今まで仲良くできたんだから、これからもずっと仲良くできるのっ!」
「で……でも、相性が」
「低くったって、数値は数値よ! あとは、あたし達の気持ちで、いくらでも補えるわっ! 可能性はあたし達が作り出すのよっ!」
「――――!」
朱実、ハッとなったように目を見開いて。
次いで、顔を赤くしながらも……ごしごしと目を擦って、
「そ、そうだよねっ。危うく弱気になるところだったよ。数値でわたし達は測れないってところ、見せてやらなきゃっ」
「うん、その意気よっ」
笑顔で頷き返してくれた。
やはり、朱実は涙よりも笑顔がよく似合う。可愛いし。
そんな思いで、真白はスマホを閉じようとしたのだが、
「……ん? 朱実、これ。もしかして名前、漢字間違ってない?」
「え? …………あ」
結果の、二人の名前の朱実の方。
仁科朱実ではなく、仁科朱美になっていた。
「あー、誤変換、しちゃってたんだね。それを確認せずに入力しちゃったのか、わたし……」
「なんだか、お間抜けなオチね。…………とりあえず、もう一回、やっとく? 一応」
「あ……うん、一応、ね」
数値では自分達は測れないと言いつつも、やはり、正確な結果が気になってしまうのも
そんなこんなで、一応という名目で、正しく二人の名前と生年月日を入力したところ、
「100点満点中、恋愛:90 友情:91 ビジネス:88 肉体:100!?」
「ま、まじっ!?」
冗談のように、あらゆる面で数値が跳ね上がっていた。
一文字違いで、ここまで違うとは……!
しかも、メッセージには『まさに最高のパートナーとも言える二人です。特に身体の相性は抜群です。末永くいいライフを送れるでしょう』とお褒めの言葉をいただいた。
「なんだか、さっきは見返してやると思ってたけど、ここまで褒められて浮かれちゃうのも、現金なものだよね」
「でも、朱実。あたしがさっき言ったことに、間違いはないと思うわよ。相性がいいのなら、つまり、可能性はもっと作れるってことでしょ」
「……そだね。占いって、気の持ちようでどうとでも捉えられるから、良い結果だったら素直に喜んで、悪い結果だったら頑張る。それでいいのかも」
「そういうこと。だから、今は、あたし達の結果を喜びましょうか」
「シロちゃん……うんっ!」
「特に、身体の相性が抜群って言われてるから、これを何かに活かせないかしら?」
「シロちゃんっ!? そ、それは……!」
「朱実は、何か思い浮かばない? 身体の相性が抜群って言われていることから、出来そうなこと」
「連呼しないでっ!?」
「遠慮なくどんどん言って! なんてったって、あたし達の身体の相性は抜群よ!」
「シロちゃん、もうやめてっ!?」
「二人とも! 図書室では静かにっ! っていうか、自重しなさいっ!」
とまあ、真白が舞い上がっていたところ、図書委員長である三年生の女生徒、拝島先輩に怒られてしまった。
あと、何故か、室内にいる生徒達全員が、神妙な顔でこちらを見守っていた。
……この光景、どこかで見たような? 既視感?
図書準備室にて拝島先輩に朱実ともども説教される傍ら、既視感の謎と、あと身体の相性って結局何に活かせるのかをぼんやりと考える真白であった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
シロちゃんって、世間の知識がわりと抜けてるところがあるよね……。
もう少し、シロちゃんに知識を持ってもらった方がいいのかな、などと思うんだけど……いざ、教えるとなると、わたし、どのようにして教えればいいのだろう……!?
「朱実ちゃん」
とまあ、長い説教から解放された後で。
拝島先輩、わたしだけを呼び止めて、そっと耳打ち。
「相性が抜群のようだから、この前言ってたいい場所、スマホで送っておくわ。参考にしてね」
せ、せ、せんぱ――いっ!?
そんな気遣いをされましても……って、本当に送られてきたっ!?
どうすんの、これ……!
…………とりあえず、サイトのブックマークの片隅に置いとこう。
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