ACT23 傍目から見てどう思う?



「…………」


 昼休み。

 今日は両者ともお弁当ではなく食堂での昼食だったのだが、隣り合った席で、真白と朱実はギクシャクとした食事を行っていた。

 今日の定食メニューはカルボナーラにサラダ、デザートにカップゼリーという洋風の傾向にあり、それを元に話題も広がりそうなものなのだが。

 ……距離を置いた友達の話題って、どうすればいいの?

 それを考えるのに手一杯で、真白、昼食の味がわからなかった。


「…………」


 隣席にいる朱実も朱実で、席に着いてから一言もしゃべっていない。

 パスタを小分けにして口に運んでは、もくもくと租借している。小動物みたいで可愛い。

 可愛いけど、話しかけづらい。

 一体どうすれば。

 ……とりあえず、食事を、早く済ませちゃおう。

 真白、そう思い立ち、テーブル中央にあるドレッシングを取ろうとしたところ、


「あ」

「あ」


 同じタイミングだったのか、ドレッシングに手を伸ばしていた朱実と、その手が重なった。

 二人とも、一瞬驚いた後、すぐに手を引っ込めた。

 ……なんだろう。

 ちょっと重なっただけなのに、朱実の手が、すごく温かく感じて、それだけで真白は自分の顔を熱くなるのを感じた。


「えっと……乃木さんから、どうぞ」

「え?」


 見ると、朱実も少し顔を赤くしたまま、触れた方の手をもう片手で押さえていた。

 その仕草もまた可愛い……ではなく、固まってる場合ではない。


「いいわよ、ここは仁科さんに譲るわ」

「ううん、乃木さんが先にするべきだよ」

「いやいや仁科さんが」

「いやいや乃木さんが」


 そんな風に押し問答をしていたところで、


「……二人とも、何やってるの?」


 長テーブルの対面の席から声。

 真白と朱実、そろってその方角を見ると、


「あっちゃん先輩」

「藍沙先輩」


 小柄な体躯、セミロングの髪に青い星の付いたヘアピンがトレードマークの女生徒で、真白にとっては中学時代からの先輩、戌井藍沙が怪訝な顔でこちらを見ていた。

 この空気で尊敬する先輩に会えたのに、ホッとしたような、複雑なような。

 それはともかく。


「あっちゃん先輩、今日は食堂ですか?」

「ええ。昼休みの最初に、ちょっと用事があって。それで、遅めの昼食に来てみたら二人のことを見かけたから声をかけたんだけど……なんだか二人とも、普段とは雰囲気が違ってるわね」

『う……』


 揃ってうなり声をあげる。

 やはり、第三者から見ても、真白と朱実の間の空気が微妙に見えるらしい。

 一歩引いた友達付き合いをしているつもりが、もしや、距離が開きすぎてしまったのでは?

 もっと仲良くなるつもりが、実は逆効果で悪く見えてしまったとか?

 まさか……あたし達は、この、試練を乗り越えられない、とでも?

 そんな風に、悶々とした気持ちを、真白が抱えていたところ、



「まるで、わんことにゃんこが種族間を越えてイイ仲になり始めたみたいで、微笑ましかったわ」



『……へ?』


 ちょっとわくわくしたように、優しい笑顔で藍沙が言うのに、真白と朱実は、揃ってお間抜けな声が出てしまった。

 

「なになに? 二人とも、付き合い始めたの?」

「い、いえっ、藍沙先輩っ、決してそういうわけでは……!」

「? 付き合いって……?」

「そうなの? それにしては妙に空気が初々しかったから、てっきり」

「これには理由がありましてっ。ほんのちょっと距離を置いてみようって二人で話し合ってそうしてたんですけど……!」

「え? 私から見て、全然開いてないように見えたけど? むしろこう、縮まりすぎて逆に距離感に困っている感じだったような。付き合い立てのカップルには、よくあるのよねー」

「あ、藍沙先輩……!」

「冗談よ。でも、本当にそうなって困ってしまったら、いつでも私のところに来て頂戴。異性間だけでなくそういう相談も結構慣れてるし、別に変とも思ってないから」

「だから、違うんですって!」


 顔を赤くしながらムキになって否定している朱実と、ふふっと小さく笑って年上の余裕を見せる藍沙。

 そんな二人の会話に付いていけず、真白はボーッと見守っていたのだが。

 一つ、真白の中で改めて思うことがある。


「あの……あっちゃん先輩」

「ん? なーに、真白ちゃん」

「あたし達……こんなでも、ちゃんと、仲良く見えてますか?」

「!」


 その思ったことの確認として、真白が藍沙に問うと、何故か隣の朱実が真っ赤のままで驚いていた。

 それについては理由がわからないのでさておくとして、当の問われた藍沙はというと、


「もちろん」


 ウインクで、そう返してくれて。

 真白の中で、悶々とした気持ちがふわふわと軽くなっていくと共に、改めて、藍沙に敬意を表したくなった。

 

「あっちゃん先輩……!」

「これからも、ずっと、もっと、仲良しな二人で居てね。応援してるわ」

「ありがとうございますっ!」

「あ、あの、二人とも、わたし抜きで話を進めないで……!?」


 尊敬する先輩にお墨付きをもらえて、ホッとした。

 大丈夫。

 朱実と、もっと仲良くなれる

 自信を持ってイイ。

 その想いだけで、真白は、未来がパッと明るくなった気がした。


  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★


 ……前から思ってたけど。

 わたし、藍沙先輩がちょっと苦手だ。

 でも。


 ――この人の応援が、とても心強い。


 そう感じてしまうことが。

 ちょっと悔しいし、心地いい。敵わないなぁ、とも思っちゃう。

 だからこそ。

 わたしも、藍沙先輩のような、素敵なお姉さんになりたいな。

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