ACT22 離れていても大丈夫?
「緑谷さん、今日はあたしと組みましょ」
体育の時間。
最初の二人一組になる準備運動の場で、真白は友達の奈津にそのように呼びかけるのだが。
当の奈津は、とてもびっくりしたようだった。
「ど、どうしたのですか、真白さん。いつも朱実さんと組んでたのに」
「んー、たまにはこういうのもいいと思って。仁科さんも他の子と組むようだし」
「に、仁科さん? ……いやいやいやっ、本当にどうしてしたまったんですか! そ、そんな他人行儀なっ」
「他人行儀とかそんなことないわ。少し、ほんの少し距離を置いてみてるだけ」
「え、ええ? もしや、朱実さんと喧嘩をしたとか、そんな感じですか?」
「そうじゃないわよ。普通にお話だってするし、お昼ご飯も一緒にするつもりだしね。ま、細かいことはいいから、さっさと準備しましょ」
「はあ……」
まだまだ要領を得ない奈津ではあったが、承諾してくれた。
ちなみに、朱実は結構迷った様子をしながらも、最終的には桐子と組んだようだった。一安心。
ともあれ、準備運動であるのだが。
「あだだだだだだだっ、真白さん、もう少し優しくお願いしますっ」
真白がほんの少し力を加えて奈津の身体を曲げただけで、奈津は悲鳴を上げていた。
「結構身体固いわね、緑谷さん」
「自分、果てしない運動音痴でして。それに普段から原稿などもやってますから、どうにもデスクワークが多くて、運動をする暇が無く……」
「ダメよ。朱実も言ってたけど、適度な運動は美容にもいいって話だから、緑谷さんも、綺麗になるためにちょっとは身体を動かしとかないと」
「はい、それは自分も思うところではある……って、真白さん、今、『仁科さん』ではなく『朱実』と呼んだような?」
「……あ」
ついつい、素がでてしまったようだ。
いけないいけない。もっと形を整えないと。
「大丈夫、大丈夫よ」
「何が大丈夫なのかはわかりませんが……っとと、真白さん、交代です。座って、両手を上げてください」
「ん、わかったわ」
ともあれ、交代である。
座ってバンザイする真白に対し、後ろに立った奈津が真白の手を取って背中にグッと膝を入れて胸部を反らすストレッチを行う傍ら、
「んー、真白さんは流石といいますか、柔らかいですな」
「そう? もうちょっと力を入れても大丈夫よ」
「……あと、よくよく見ると、真白さんも結構ありますね」
「? なにが?」
「い、いえ、なんでもないです……よいしょっ、このくらいですか」
「ん。次は緑谷さんね」
そのように談笑しながら、準備体操の各メニューをこなしつつ。
いつもと違う感じではあるが、これもこれでなかなか新鮮な感覚で、身体もほぐれて、新たな気持ちで真白と奈津は一息。
「ふぃ~、いい感じです。こりゃ今日の体育は優勝ですなっ」
「何に優勝するかはわからないけど、満足いただけようで何よりだわ」
「はい、ありがとうございます、真白さんっ」
「こちらこそありがとね、朱実」
「……え?」
「あ……」
ついつい、奈津のことを朱実と呼んでしまった。
「ち、違うのよ」
「……真白さん、もしかして、禁断症状とか出てきてません?」
「そんなことないわよ。あるでしょ、先生のことをお母さんと呼んでしまうとか。そういうアレよ、アレ」
「高校生になった今となると、流石にそれは苦しいと思いますが……うむ、つまり真白さんにとって、朱実さんはお母さん同然であると?」
「違うんだってば。それに朱実は、お母さんというよりお姉ちゃんなんだから……っ!」
「そういうことを強調されましても……というか真白さん、どんどんボロが出てますな」
「くっ、ぐ、ぬぬ……!」
顔が熱い。
恥ずかしい気持ちがどんどん湧き上がってくると共に、どうしても朱実のことを考えてしまう自分がいる。
距離を置こうと朝に言ったばかりなのに、これでは、本末転倒ではないか……!
どうやら、思っていたよりも、真白にとってこの試練は難敵のようである。
「距離を置いてても、イチャついてるんですね、このお二方……」
あと、奈津がどこかの方角を見ながら何かを呟いてたようだが、生憎、真白には聞こえなかった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
うー、シロちゃん、おなつさんとなんだか楽しそうだよ……。
でも、これもシロちゃんの言うところの試練ならば、乗り越えなきゃ、わたしっ。
がんばるぞ、わたしっ。
「よーしいくぞっ、アカっち!」
「ん……って、いたたたたたたっ!? もっと優しくだよ、シロちゃんっ」
「アカっち。ボクはシロっちじゃなくて桐やんだぞ?」
「う……」
「ははは、これで間違えるの三回目だぞっ。アカっち、今日はおっちょこちょいだなっ」
「…………そうだね」
訂正。
大丈夫か、わたし……!?
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