ACT05 どんなパンツ穿いてるかを知ってどうすんの?
「ん?」
放課後の帰り道、朱実と歩いている最中、真白は自分のスマホのSNSメッセージの着信音を聞いたので。
スマホを取り出し、アプリを開いてみたところ……その内容に、真白は首を傾げることになった。
「どしたの、シロちゃん」
「いや、これなんだけどね」
隣の朱実が訊いてくるので、ひょい、とそのスマホの画面を見せると。
「……うっわー」
朱実、ドン引きしていた。
それもそのはず。
差出人は見たことのない名前。
本文は、
『ハァハァ どんな パンツ はいてんの? ハァハァ』
この一行のみである。
随分古典的な内容の、いたずらメッセージもあったものだ。
しかも、『ハァハァ』を書き文字にする必要あるのだろうか? などと、真白は考えたりもする。
「シロちゃん、なんか、嫌なもの見ちゃったね」
「たまにあることよ。こういうのは、粛々とブロックすればいいだけ。いちいち気にしてたら身が保たないわ」
「おお、シロちゃんってば鋼鉄メンタル。カッコいい!」
朱実がキラキラとした眼で見てきた。
「道端に酔っぱらいのゲ■が散ってても、避けるだけで何とも思わないでしょ? それと一緒のことよ」
「……なんだか、例えがオゲレツだね。さっきのカッコ良さからの、この落差は一体」
「?」
朱実がどよーんとした眼で見てきた。
そちらこそ、この落差は一体。
それはともかく。
「しかし、よくわからないものね。そんなにも女の子の下着を知りたいものなのかしら」
「うーん、単なる嫌がらせだろうし、あっちはそこまで深く考えてないと思うよシロちゃん」
「そんなものかしらね」
真白は思い出してみる。
小学校の頃、同級生の男子数名から、よくスカートめくりに遭っていた時期がある。
真白自身、特に恥ずかしいという感情はなく、『なんで、こいつらはそんなにスカートをめくりたいんだ?』と疑問に思っていたが。
何度も繰り返されると流石に鬱陶しくなったので、反撃で彼らの股間を一人残らず踏んだり蹴ったり(物理)したら、二度とされなくなった。
そのエピソードを話すと、朱実はひきつった笑みを浮かべていた。
「シ、シロちゃん、えげつないね……」
「懐かしい記憶よ。総合すると、当時のあの子達は、あたしの下着を知りたかったんじゃなくて、単なる嫌がらせでやってきてたのね。蹴っておいて正解だったわ」
「あー……でも、その子達は、多分、シロちゃんのこと好きだったのかも知れないね」
「? なんで?」
「ちっちゃい子っていうのはね、好きな子ほどいじめたくなるものなの。さすがシロちゃん、ちっちゃい頃からモテモテだねっ」
ふんす、と可愛くかつ鼻息荒く得意げに朱実が言うも、真白にはいまいちピンと来ない。
好きな子ほどいじめたくなるとは、どういう心理だろうか?
好きなら、素直に思いを伝えればよかっただけなのでは?
よくわからない。
「~♪」
「…………」
真白が考えている間にも、朱実は上機嫌そうに隣を歩いている。
そんな彼女を見て。
ぴら
「は……いぃっ!?」
「……おお」
「ちょ、ちょ、ちょっと!? シロちゃん、なんでわたしのスカートめくってんの!?」
朱実がスカートを押さえて、バッと身を引く。
真白の行動から朱実の後退まで、その間、一秒もなかったのだが、その淡色の縞模様は、真白の記憶にしっかりと刻まれていた。何故か。
「いや、好きな子ほどいじめたくなるのが、どういうことなのかを考えてたら、なんとなく」
「す、好きな子……い、いやいやいや、それはどうでも良くて! 良くないけど、今は良くて! わたしもシロちゃんも、もう高校生なんだから、もうそんなことしなくていいからねっ!?」
よほど恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしながら朱実がぷりぷり怒っていた。
膨れっ面の怒り顔も可愛い、などと思いつつも。
怒らせてしまうのは流石にいけないことなので、真白はすぐに頭を下げた。
「ごめんね。朱実のことは好きだけど、あたしもこれはどうかと思ったわ。この通り。反省してる」
「うっ…………もう、しない?」
「この身に誓って」
「……じゃあ」
「だからお詫びに、あたしも朱実にパンツを見せるわ」
「いや、そこまでしなくていいから!? ……っていうか、体育の着替えの時、シロちゃんいつも下はスパッツだったような?」
「うん。だから、見せるためには半分くらいズラして……よいしょっと」
「待って!? それは視覚的にマニアックすぎるっ!? と、と、とにかく、シロちゃん、躊躇なく早まらないで!?」
滅茶苦茶制止された。
……とまあ、いろいろあって、朱実には許してもらえたものの。
このドタバタで思うことは、好意はやはり素直に伝えるのが一番ということだ。
真白、反省である。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
シロちゃん、危うすぎる。
急なことだったんで、ついつい、止めちゃったけど。
…………見たかったなぁ。くっ。
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