第九話 この夏の夜の出来事

「――や、やっと見つけたぞ……悠宇香……」


 ぜぇぜぇと肩で息をしながら、俺は目の前で呆けている幼馴染に言い放った。

 公園の乏しい街灯に照らされたその姿は、いつも以上に儚げに見える。

 悠宇香は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたまま、ぽかんと口を開いて、


「な、何で……? まだ帰ってくるには早いでしょ……デートはどうしたの?」


 震えた声でそう言った。

 愚問だ。


「……午後四時過ぎくらいだったかな。途中で切り上げてきたんだよ」


 そう、俺は無礼にも先輩とのデートを投げ捨てて、ずっと悠宇香のことを探していた。





 五十嵐先輩から展望台に行かないかと誘われたあの時。

『ぜひ行きましょう』と答えかけていた俺は、すんでのところで口を閉ざした。偶発的な閃きが頭の中を駆け巡ったのだ。

 きっかけは展望台という単語だった。俺はふと『そこからなら夜景も綺麗に見えるんだろうな』なんて思い、そこから夏の夜空を連想して、もしかすると今日は花火大会がある日なんじゃないかと考え至った。

 日程は知らなかったが、もし本当にそうだとすれば、悠宇香が同日にいなくなったのは何か深い意味があるのかもしれない。ただでさえ、この五年間ずっと離れなかったのだから。いつもと違うことが二つもあれば、それだけで嫌な予感が脳裏をよぎる。

 居ても立ってもいられなくなった俺は、五十嵐先輩の誘いを丁重に断り、すぐに悠宇香の姿を探し始めた。

 まず最初に探したのは水族館の周囲だ。俺は悠宇香の『キロ単位で離れられる』という発言をあまり信じていなかったので、いるとすればどこかその辺りだろうと高を括っていた。しかし近くにあるショッピングモールや広場、駅の中をどれだけ走り回っても、さっぱり見つからない。気配すら感じることができなかった。

 だから次はタクシーに乗り込み、広い範囲をぐるぐると巡回してもらった。運転手には怪訝な顔つきで見られたし、高い運賃で財布が随分と薄くなったが、まあ仕方がない。付近を探した段階でさっぱり手応えがなかったから、俺はもう焦りに焦っていた。もちろん、それも結局無駄だったが。

 俺は都心での捜索を諦めて、一旦地元の町に戻ることにした。

 もしかすると、悠宇香は一人で家に帰っているのかもしれない。のほほんとした顔で、俺の帰宅を待っている可能性もある。そう考えてこっちへ戻ってきたのが、つい一時間ほど前のことだろうか。

 しかし家にいたのは両親だけだった。すべての部屋をくまなく探し、無理を言って水上家にも押しかけたけれど、結局悠宇香の姿を見つけることは出来なかった。

 いよいよ焦りが頂点に達し始め、俺は外に出た。

 その時点でもう普段では考えられない程に走っていたため、運動不足の身体は筋肉痛で悲鳴を上げていたが、それでも足を動かした。

 近くの掲示板に貼られたチラシや、道を歩く浴衣姿の人たちを見て、今日が花火大会の当日であることを確信したという理由もある。嫌な予感は既に臨界点を突破していた。

 この交差点前の公園に足を運んだのは、あちこちを随分と走り回った後だ。

 可能性が高いとは思っていても、ここへ来ることには大きな忌避感があった。


 ――だが、どうやら間に合ったらしい。


 五年前と違って、今回の俺はぎりぎりのところで選択を間違えなかった。





「ば、馬鹿じゃないの……?」


 俺の一連の行動を聞いた後、悠宇香は泣きそうな表情で非難の言葉を口にした。


「五十嵐さんの大事な話って……そんなの、告白か何かに決まってるじゃん。何ですっぽかして来ちゃったのさ。そのままいけば、きっと上手くいってたはずなのに……」

「いいんだよ、そんなこと」


 それに対して、俺はぶっきらぼうに言い返す。


「そもそもお前、俺に黙ってどこかに消えようとしてただろ。そっちの方が何倍も重大で深刻だ。ふざけんなって怒りたいくらいだよ」

「消えようなんて……これは、あれだから。軽い散歩だから」

「嘘つけ。散歩で自分の死に場所になんて来るか」

「じゃ、じゃあ道に迷って……」

「じゃあってなんだよ。こんな近所で迷子とかあり得ないだろ」

「うぅ…………」


 上手い言い訳が思いつかなかったのか、しどろもどろになる悠宇香。

 もっとも、どれだけ巧妙な虚偽報告をされても、その表情を見ればすぐに嘘だと気づいただろう。なにせ、今の彼女はあの五年前の夜と同じ顔をしている。


『ごめん、ケーイチ。わたし死んじゃったみたい』


 そんな風に気丈に言って、無理して笑った時とまるっきり同じ雰囲気だ。


「……で、でもさ。わたしがいない方が、ケーイチは絶対幸せになれるんだよ」


 もうしょうがないと開き直ったのか。悠宇香は背筋を伸ばすと、腕を組んでやたら偉そうな姿勢を取り、逆ギレ気味に口火を切った。


「……わたしのことなんて忘れて、ちゃんと前を向いて生きるべきなの。わたし分かってるよ。ケーイチがずっと罪悪感を抱えて毎日過ごしてること。でも、本当はそんなの気にしなくていいんだ。余計な重荷を背負う必要なんて全くない。もっと自分のために、それから今を生きている周りの親しい人たちのために、これからの時間を過ごすべきなの」


 それは多分、ずっと前から抱えていた悠宇香の本心なのだろう。


「大体、いつもいつもケーイチは『俺なんか大した奴じゃないから』なんて口にするけどさ、じゃあ何なの。わたしの代わりにケーイチが死んでた方が良かった、とか言うつもり? 冗談じゃないよ。わたしは運悪く死んじゃっただけで、それ以上でも以下でもない。『もしこうだったら』なんて考えるだけ無駄なんだよ。昔のことを引きずり過ぎだよケーイチは。わたしなんてどうでもいいくらいの気持ちで、もっと楽に生きてよ」


 そこまで言って、悠宇香はようやく言葉を止めた。怒ったような顔つきで、こちらをじっと見据えている。

 そして悠宇香が捲し立てている間、俺はそれをずっと黙って聞いていた。

 この五年間。彼女がそんな想いを抱えていたなんて気づきもしなかった。

 悠宇香の言うことには一理ある。

 多分、俺はずっと責められたかったのだ。悠宇香は死んで、なのに俺みたいな人間が生きている。そんなことは間違っていると、誰かにそう言われたかった。その方が楽だった。悠宇香の眼前で人生を謳歌することに抵抗があった。

 しかし無気力に生きることで逆に悠宇香を傷つけていたなんて、そんなことは想像もできなかった。我ながら愚か者だ。

 とはいえ。

 悠宇香がそのつもりなら、こっちにだって言い分はある。

 彼女の言うことが百パーセント正しいだなんて、俺は微塵も思っちゃいない。


「悠宇香、ちょっとこっち来い」


 俺はふーっ、ふーっ、といまだ闘牛のような形相で臨戦態勢に入っている悠宇香の横を素通りして、公園内に置いてあるベンチの方へ手招きした。


「え、な、なにさ! 今のわたしの話ちゃんと聞いてた!?」

「聞いてたよ。いいから座ってくれ」


 先にベンチに腰を下ろし、左手で座面を叩いて催促する。

 悠宇香は渋々といった様子で、俺から少し距離を取って隣に座った。

 一周回って新鮮な距離感だ。物理的にではなく、精神的な意味で。

 さっきからずっと打ち上げられ続けている花火の音を尻目に、ゆっくりと口を開く。


「悠宇香、今からすごい恥ずかしいこと言っていいか?」

「…………別にいいけど、何?」

「俺さ、この五年間ずっと楽しかったんだよ。お前といて」

「……ほ、本当に恥ずかしいこと言ったね!? なんでそんな真顔で言えるの!?」

「いや茶化すなって」


 これは真面目な話だ。


「これまで自覚してなかったけど、今なら確信持って言える。俺は、悠宇香がいる毎日が普通に楽しかった。そりゃ、色々気にして落ち込むこともあったし、お前は『わたしがいない方がいい』なんて言うけどさ。むしろお前が幽霊として現れてなかったら、もっとひどいことになってたと思う」

「……もっとひどいこと?」

「ああ。お前が化けて出なかった場合、多分俺は今以上に五年前のことを引きずってたよ。もっとずっと暗ーい人生を歩んで、高校だってまともに行けたかどうか分からない。お前がそばにいてくれたから、俺は今こうして、割と普通に生きていられるんだ」

「……そうかなぁ?」

「そうだよ」


 力強く頷く。これだけは、誰にも否定させない。あの夏の夜のことを悔やんだとしても、この五年間の日々が間違いだったなんて絶対に言わせない。

 恥を捨てて、思いの丈を吐き出して。出来る限りの言葉を尽くして、悠宇香がここにいるべきなのだと納得させよう。


「そもそもさ。悠宇香は俺のことを買い被り過ぎなんだよ。お前、本当に自分がいなくなって、俺が平気でいられると思ったのか?」

「まあ、ちょっとは悲しむかなぁとは思ったけど……竹内君とか五十嵐さんもいるし、きっと大丈夫だって……ちゃんと乗り越えられるって……」

「はっ。甘い甘い」


 俺は肩をすくめて首を振り、心底呆れたという気持ちを顔に出しながら、自慢話をするような態度で言った。


「聞いて笑えよ? 俺は今日、お前がそばにいないことに耐えられなくて、ここに来るまでに六回は吐いた」


 これは嘘でもなんでもなく本当の話である。

 水族館で五十嵐先輩と別れて、悠宇香を必死に探し始めてから、俺は何度も嘔吐した。公衆トイレに駆け込んでは吐き、道端の茂みに思いっきり昼食だったものをリバースし、挙句の果てには胃液が出た。汚い話だが、まだ口の中には不快な臭いが残っている。

 それくらい、悠宇香がいないという事実が俺にとって精神的なストレスになっていたのだ。

 おそらくデート中に何度か転んでいたのもそのせいだろう。無自覚のうちに、身心が不安定な状態に陥っていたのだと思う。


「えぇ…………」


 それを聞いて、悠宇香は笑うどころかドン引きしていた。

『こいつマジか』という表情を隠そうともせずに、両腕で自分の身体を抱きしめて、少しずつ俺から後ずさっていく。

 冗談交じりだとは思うけれど、その反応は地味に傷つくな……。


「あー、とにかく。それくらい俺にとって悠宇香は必要不可欠なんだよ。発作持ちの人の常備薬くらい手放せない存在なんだ」

「……そうなの?」

「そうなの。というか、お前がいなくなったら俺は本気で死ぬぞ? 今度消えたりなんかしたら、その時その場で取れる最速の手段を以て死を選ぶからな。家にいたら手首切るし、学校にいたら屋上から飛び降りるし、駅のホームにいたら快速列車に身を投げてやる。俺のメンタルは兎並みに脆いんだ」

「……その発言は不謹慎じゃないかなぁ」

「『二トントラックに轢かれたらどれくらい痛いか知ってる?』なんて聞いてくる奴に言われたくない」


 この機に乗じて言いたいことを言った。

 自分が死人だからって、悠宇香は普段から不謹慎なことを言い過ぎだ。世の中には言っていいことと悪いことがある。ものには限度というものが――まあ、今その話はいいか。

 俺は口調を真面目なトーンに戻して、そのまま話し続ける。


「いいからずっとそばにいろ。俺が死ぬまで隣で見守っていてくれ」

「……ま、また恥ずかしいこと言ったね。というか何それ、プロポーズ?」

「大体合ってる。幽霊と結婚する法律がこの国にないことが残念だけどな」

「わ、わたしに対してそんなこと言うなんて、ロリコンなの? 頭大丈夫?」

「違え! まともに答えろ!」


 顔赤くなってないかなぁ、などと自分で言っておいて心配になりつつも、俺は真っ直ぐ悠宇香の目を見つめた。小さな街灯の下で、その瞳は困ったように揺れている。

 やがて悠宇香はふっと息を吐くと、茶化すのをやめて返答した。


「馬鹿じゃないの、ケーイチ。そんなの無理だよ。だってわたし、幽霊だよ? いつ消えちゃうか分からないんだよ?」

「そんなの生きてる人間だって一緒だろ。お前みたいに、いつころっと死んじまうか分からない。五年も大丈夫だったんだ。未練でもなんでも抱えてさ、あと六十年くらいは気合で成仏せずに頑張れよ」

「む、むちゃくちゃだ……」

「そうだよ、むちゃくちゃだよ。大体、幽霊になって化けて出てきた時点で、もう既にむちゃくちゃな話なんだよ」

「…………」


 どう言い返しても俺が折れないと悟ったのか、悠宇香は黙って俯いた。セーラー服に包まれた華奢な身体を折り曲げ、ベンチに体育座りをして、拗ねたように黒髪を垂らす。

 こいつのこんな姿を見るのは本当に久しぶりだ。いつも明る過ぎるくらいに快活だから、こうして項垂れていると何だか心配になる。


「…………」


 花火が何百発も打ち上げられている間、悠宇香はずっとそうしていたが、やがてすっと姿勢を整えて立ち上がった。

 公園の中心に向かって歩いていき、くるりと振り返ってこちらを向く。

 俺も筋肉痛の脚に鞭を打って立ち上がり、彼女の前まで近づいた。

 泣きそうな表情で、悠宇香が言う。


「……わたし、手とか繋げないよ?」

「ちょっとは触れるだろ」

「……抱きしめられないよ?」

「代わりに枕でも抱えるさ」

「……わたしなんかに構ってたら、ずっと独身のまま生涯終えちゃうよ?」

「独身でも幸せになれるだろ。まったく問題ないね」


 最後の反論――というか、確認のようなものだったのだろう。

 間髪入れずに放たれた俺の言葉を聞いて、悠宇香は「馬鹿だなぁ」と少し笑うと、


「じゃあ、仕方ないか。わたしがいなくなって、ケーイチに死なれても困っちゃうからね。あーしょうがないしょうがない。そこまで言うなら一緒にいてあげますよ」


 そんな風に、素直じゃない口ぶりで結論を出した。

 顔は少し――にやけていた。

 若干マウントを取られたような気もするけれど、まあ別に構わない。

 必死に懇願でもなんでもして、一緒にいてもらおう。


「ありがとさん。それじゃあさっさと家に帰ろうぜ。実は俺、全身筋肉痛で今にも倒れそうなんだ」

「うん。ケーイチ、ごめん――それから、ありがとう」

「あいよ」


 それ以上の言葉は不要とばかりに、俺たちは隣合って公園を出た。

 電信柱の脇に供えられていた花には目もくれず。もちろん車に轢かれるなんてこともなく、交差点の横断歩道を無事渡り切って。

 その頃にはもう、花火の音は止んでいた。





「しかし、さ。本当に五十嵐さんとのデート、途中ですっぽかして良かったの? 怒られたりしなかった?」


 公園からの帰り道。

 屋台料理の香り漂う蒸し暑い空気の中、悠宇香が心配そうに呟いた。


「大丈夫だよ。驚いてたけど、結局優しく許してくれた。あんな人格者は他にいないな。今度また、菓子折りでも持って行って謝ろうかと思う」

「そっか。でも、『大事な話』ってやつはそのうちちゃんと聞くべきだと思うよ」

「……そうだな。そうするよ」


 ぐらつく足でなんとかアスファルトを踏みしめながら、言う。当然けじめはつけるべきだ。それがたとえ本当に告白だったとしても。

 大通りを曲がり、住宅街へ続く道に入る。すぐ近くに雑木林があるせいか、蝉の鳴き声がやたら激しく聞こえていた。

 さっきまではずっと花火の音がしていたから、余計喧しく感じるのかもしれない。そんなことをふと考え、俺はついでに思いついたことを言った。


「なぁ悠宇香。来年は行くか、花火大会」

「……いいの?」


 悠宇香は驚いたように目を見開いた。多分、俺が花火を毛嫌いしていたことを知っているからだろう。


「いいよ。五年前のことを忘れようとは思わないけど、気にしなくていいことまで気にするのはもったいないしな。ちゃんとブルーシート持って河川敷まで行って、ばっちりくっきり花火を視界に収めよう」

「わー、本当? 楽しみになってきた。林檎飴――はもう食べられないから、ケーイチに二人分食べてもらおうかな」

「さすがにそれは勘弁してくれ。あの甘酸っぱさを想像するだけで、また吐きそうになってくる」


 うげー、と口をかっぴらいて、腹をさする。

 心配そうに近寄ってきた悠宇香を制して、俺は別の話題を口にした。


「それから、悠宇香にひとつ頼みがあるんだ」

「頼み? ピンポンダッシュしてきて欲しいとか?」


 すぐ近くの一軒家を指差して悠宇香が言った。いや違うよ。


「そんなしょうもないこと頼まないから。絵のモデルになって欲しいんだよ」

「絵のモデル……? 別にいいけど、わたしを描くのはずいぶん前にやめたんじゃなかったっけ? おばさんに心療内科へ連れて行かれたから」

「まあな。でも、もう気にしないことにした」


 狂人だと思われても構わない。何だかもう吹っ切れた気分だった。

 奇才だらけの絵の道に進むのであれば、多少頭がおかしいくらいで丁度いい。

 ――そして多分、描きたいものはずっと前からあったのだ。

 今日、五十嵐先輩に言われた言葉を思い出す。


『絵には描き手の理想とか、欲望とか、そういうものが少なからず現れるはずなんだよ』


 なら俺は、俺なりの理想を、欲望を、執着を描こう。

 みっともなくて青臭い願望を、キャンバスの上に叩きつけてやろう。


「明日から超特急で描き出すよ。締め切りには――まあ間に合わないかもしれないけど、それはそれでいい。竹内にでも相談して、教授を宥める方法を教えてもらうさ」

「わお、やる気だね。うん、ケーイチはそれくらい燃えてた方がいいよ」


 ふわりと宙に浮いて、俺の周りをぐるぐると回って。

 悠宇香が心底嬉しそうに微笑んだ。


「――ま、明日は日曜日だから、学校開いてないと思うけどねー?」

「げっ」


 出鼻を挫く発言をして、悠宇香がすいーっと俺の先を飛んでいく。


「ほらほら、早く! さっさと帰ってベットに入って、今のうちに英気を養った方がいいよー!」

「は、走らせたら余計疲れるだろうが!」


 ちきしょー、と思いながら、俺はその姿を追った。端から見れば、何もないところで急に走り出した精神異常者だけど、それでも笑みが込み上げてくる。

 筋肉痛や吐き気も吹き飛んで、身体が羽のように軽い。

 ああ、そうだ。楽しいんだ。お前といるだけで、俺は最高に楽しい。

 大袈裟ではなく、今ならどこまでだって行けそうな気になれる。


「ちょっと止まれ! 飛ぶとかずるいぞ!? 現世のレギュレーションを遵守しろ!」

「そんなの知りませーん。幽霊の特権ですー」

「くっそ!」


 笑いながら、夏の夜空の下を走る。

 渇いた汗が肌を冷やしたせいか、熱帯夜にしては妙に涼しい風が、俺の身体を吹き抜けていった。

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