術後2日目 経口摂取からの挑戦状

 今日もベッドのギャッジアップを最上にして、座位でうとうと。ヨダレは昨日より多くて。

 2日間ほったらかしにしていたら、唇がガッビガビのピキピキになり、上唇が裂けてしまった…。うかつ、自ら痛み要因を増やしてしまったよ。


「軟膏出てたじゃん。よく見ておけよ」

 そうでした。でもラッセル先輩(主人公メグの医療指導官だ)、使っていいよって言われてないし!…良いに決まってるよね。


 反省して、乾く間を与えないほどこまめに塗ったくる。触ってみると、唇だけでなくその周りや鼻の周りまで大荒れだ。


 この日からうがいができるようになってね、痰をより出せるようになった。ガーッ!ペッ!ってオッサンがよくやってるやつ。なりふり構わず洗面所でも病室でも繰り返す。真っ赤な血だか痰だかを吐き出せると、気持ち悪いどころかしてやったりな気分。


 でね、洗面所で初めて見たのよ、自分の顔を。

 頬が腫れてるのは分かってたから驚きはしない。それよりも、まず寝てないからひどいクマ。そして血がこびりついた鼻周り。皮がむけて腫れあがっている唇。


 洗顔もしてなきゃ髪もとかしてない。けどねー、悔しいけど何もできずにベッドに倒れこむ。

 まず体力的に限界だった。まともに寝ていないうえに、経口摂取は無しで点滴の水分のみだもん。ノーカロリーよ。


「と思っていたら、昼からドリンク食開始になったよな。こんなに痰でゲロゲロしてるのに」

 ね。実際ドリンクを口に入れてみると、口が自分のものではなくなった感じがして。あれ、飲み込むのってどうやるの?正直分からなくなり。加えて喉の異物感もあってね。


 舌のうえにほんの少しずつ液体を載せて、一口ずつ喉の後ろに送って。

「120㏄のドリンクを飲むのに、休憩しながら30分くらいかかったもんな」

 そうそう。それもストローでは吸えなくて、哺乳瓶の乳首のところがチューブになってるやつを使ってね。経口摂取がこんなにも疲れるものなんだって、今までにない感想。


 そのおかげか、午後には少し元気が出て、術後初めて携帯をいじれる余裕が産まれた。もちろんギャッジアップ座位でもたれながら。

 手術することを伝えていたママ友が励ましメッセージをくれていて、嬉しい。言葉の掛け方が天才的に上手い人がいて、彼女にはいつも勇気づけられている。ほんと尊敬する。


「痛み止めはロキソニンだったな」

 生理痛と一緒かい?もっと強力なやつじゃないの?と思うでしょ。抜歯の延長みたいなもんなんだろうか…。


 しかも点滴ではなく錠剤。飲める自信ない。「点滴にしてもらえませんかぁ~?」って弱音吐いたら、あまり口が上手くなさそうな執刀医まで「乃木さんならいけるっ!」って励ましてくれた。


 はい、その笑顔見せられちゃやりますよ、やります。仕方なく、割ってつぶして水に溶いて飲んでみた。むせる。


 術後初めて子供と面会。会えて嬉しかった。腫れあがった母の顔にちょっとびびってたけど、笑顔を見せてくれた。

 手術の前、義父の仏壇で「ママのしゅじゅつがうまくいくように」って祈ってくれたらしい。翌日「うまくいってありがとう」とちゃんとお礼を言っていたと義母から聞かされた。


「それ聞いただけで泣けてくるな…」

 なんていい子なんだ…陰謀と裏切りが大好物のあたしの子とは思えない。あの子も頑張っているんだから、あたしも頑張らないと!


 これは拙作「ストライクアップ」次のエピソードで(まだ書くんかい)メグに経験させなければ。医療者の成長として自らの受傷経験はありだな。


「あのさ、退院したら同僚が肩代わりしてくれた仕事引き継ぐだろ。それに3月~4月ってメチャクチャ忙しいの知ってるよね?子供だって寂しいの我慢してんだよ。甘えさせてやるのが母親の務めだろ?遊ぶ暇無いのわかってる?」

 はい、ラッセル先輩の仰る通りです。


 下膨れで両頬とも2倍の顔。珍獣ハンターイモトでこういうサル見たことある。え?元顔より動物っぽくて今の方がかわいい説?まさか。

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