術後1日目 「選択の余地はない!(ジャックバウアーの口癖です)」

 ICUの窓からほっそり見える外が明るくなってる。朝が来た。

 執刀医と病棟主治医が来てくれる。鼻から入っていて、鼻血がダラダラ垂れてくるチューブを抜管。


 この時点ではまだベッド上安静で自分の顔を見ていない。けど、一晩中吐いては色んなもの垂らしてのたうち回ってたから、もう見られたもんじゃないはず。

 でもどうでもいい。


 なのに先生が顔拭いてくれたり、「頑張ったね、つらかったね」「これ(顔に貼りついた血の塊)落としてあげたいなあ」とか、こんな血みどろ汗まみれで顔2倍に腫れてぐっちゃぐちゃのオバサンに優しくしてくれる。惚れてまうやろー。


 そうこうしているうちに、入ってたのなんか全然気づかなかった尿道留置カテーテル(術中何時間も動けないわけだから、排尿するのに管を入れている)を抜かれ(これは別に痛くなかった)ICUから移動、離床しろと。まじか。


 歩いて移動を指示されるが足が立たず車椅子移動。

 相変わらず痰が苦しい。やっちゃいけないと言われた鼻まで自分で吸引できるようになってる。あたし1年中鼻炎だし、鼻水が溜まりやすくて。


「今は何が一番つらい?」

 これはキャラじゃなくて執刀医。痛みよりも血と痰と鼻水の息苦しさと答える。まだオエーッとなりながらの七転八倒と自己吸引は続く。


 執刀医より、痰だと思っているのは、挿管時にできた傷(喉チ〇コのところに口内炎のようなのができている)による違和感かもしれないよと。


 確かに吸引であまり痰が引けない割に違和感と苦しさを覚えるので、きっとそうだといいきかせて我慢。苦しさに耐える。耐えるしかない。限界まで来たらガバッ!!と起きて吸引。

 これに1日のほとんどを費やす。


 横になるともれなく痰と鼻水(血?)で一瞬たりとも休めないので、日中、ベッドのギャッジアップを限界に上げたほぼ座位で、うつらうつら。そりゃ手術中はずっと寝てたけど、でも感覚的にはもう24時間以上眠ってないジャックバウアーよ。


 痛くて口を閉じることができないので、ヨダレと鼻水まみれに。タオルが一瞬でびちょびちょになる。


「知ってる?人は1日1.5ℓの唾液を出すんだよ」

 主人公メグ。新人軍人で医療職の設定だ。へえ、そりゃタオルが何枚あっても足りないわけだわ。


 まだ飲まず食わずで、24時間持続点滴。従って時間構わず夜中も定期的にトイレに行きたくなる。眠れないから別に関係ないんだけどね。


 もはや羞恥心などという高尚なものを感じる余裕はなく、開き直ってダラダラ垂れ流しながら、点滴スタンドにつかまってフラフラとトイレを目指す。途中洗面所があり、鏡が見える。


「顔見てみれば?」

 …いや。見る勇気ない。ってぇ思ってしまったけどぉ、今思えば見とけば良かったなあ。顔はもう自分のものじゃない感覚で、触るのもちょっと怖いんだ。


「けど人間の体って不思議だよね、あれだけ苦しかった昨日に比べたらちょっとは楽になってるでしょ?」

 うん…そうだね。体の中で何が起こっているのかあたしには分からないけど、人体って確かにすごいと実感してる。

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