「FifthSongs」
第35話「かつての仲間たち」
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「あー……」
その夜俺は、自室にいた。
椅子に座って、ぼーっと天井を眺めていた。
正月が過ぎ、新学期が始まり、アステリズムは通常通りの稼働を始めている。
やる気になった
この調子でいけば、半年後に控えた全国アイドルキャラバンに完璧な状態で臨むことが出来るだろう。
それはいい、それはいいのだが……。
「くそっ、なんだってあの時、もっと上手いこと言えなかったかなあー……」
口から出るのは後悔ばかりだ。
あの日、クリスマスイブの夜。
俺はもう少しレンとの関係を深めようとしたんだ。
もう一歩踏み込んで、今まで呑み込んでいた言葉を伝えようと思ったんだ。
なのに出来なかった。
レンが綺麗すぎて、可愛すぎて、用意していた言葉は何ひとつ出てこなかった。
レンと共に照れっぱなしで、ただただ寒空の下に突っ立っていた。
「体はともかく、中身はいい歳こいた大人なんだから……。しかも自分からデートに誘っておいて……」
「お兄ちゃんお兄ちゃんっ、お・に・い・ちゃーんっ!」
ため息をついていると、後ろから
「んんー……? なんだ七海か……」
「なんだじゃないのですなっ。もうっ、何度も呼びかけてるのにひどいのですなっ」
七海はぷんぷんと怒っている。
「せっかくホームページを立ち上げたのに!」
「ホームページぃ?」
そういえば定位置である俺のベッドの上で、何やらノートPCをいじっていたようだが……。
「ほら、これですなっ」
そうして七海が見せてくれたのは、アステリズムの公式サイトだ。
トップページには
現代服飾文化研究部としてのコスプレ活動や、練習風景の動画も見ることが出来る。
いかにも女の子らしいキュートな画面構成で、見ているだけでほっこりしてくる。
七海が別個に開いている総合アイドル応援サイトとの相互リンクを辿ったお客さんが流れて来ているようで、作ったばかりにしてはけっこうカウンターが回っている。
「みんなに紹介したら興味を持ってくれましてなっ。何人か今度のライブに応援に来てくれるそうなのですっ、それで良かったら応援グッズも作ってくれるとかっ」
「おおー……そいつはすごいな」
さすが、こういったことに対する七海の情熱は凄い。
仕事が早く丁寧で、驚くほどの人脈を持っている。
応援者としてはこれ以上の存在もないだろう。
「ふっふっふ、なのですなっ」
ドヤ顔で胸を張る可愛い妹はさておきホームページのチェックを終えると、俺はアイドル総合応援サイトの方に飛んだ。
気になったのは、チラリと見えたアイドルキャラバンの情報サイトへのリンクだ。
公式サイトの情報は逐一チェックしているが、それ以外の部分についてはマークしていなかった。
当面のライバルであるとか、予想される傾向であるとかのチェックがおざなりになっていた。
「己を知るのも大事だが、まずは敵からだよな……」
ひとりごちながらサイトを巡回していると、やがて東京予選出場チームの実力分析をしているサイトに辿り着いた。
学祭での優勝や、学外で頻繁に行っているライブが高評価されているのだろう、アステリズムはかなりの上位に位置している。
「なるほどなるほど……うん?」
ひとつのチームの画像に、俺は釘付けになった。
東京都予選大会西ブロック。
つまりは俺たちと同じブロックに、俺たち同様に中学生のみで構成されたチームがいる。
黄金色のゴージャスな衣装を身につけたそのチームの名は『Shakeees!』。
「な……なんだこのメンバーは……っ?」
波打つ長髪にグラマラスボディ、貴族めいた高貴な顔立ちのセンター──世界に名だたる大財閥のお嬢様、
スラリと長身、短髪をワックスで固め、どこか男装の麗人じみた雰囲気のある右ウイング──宝塚のスターの娘、
小学生のようなロリ体型でアクロバットを連発する、元気印の左ウイング──サーカス団の花形曲芸師の娘、
見た目は幼いが間違いない。
いずれもチームガンマのフロントメンバー、未来のレンの仲間たちだ。
「ソアラもリンカもスカウト組だ。レミィはアイドルキャラバンに出場してたはずだが、たしか3回大会からだったはずだ。ユンユンいがいないのはこの当時海外にいたからで……や、そういう問題じゃない。いったいどうしてこの3人がチームを組んでるんだ?」
調べてみると、3人は別々の中学に籍を置いているらしい。
ということは部活動を通しての仲ではない。
生活範囲も異なるし、偶然というのも考えづらい。
つまり、あらかじめ3人の才能を知る何者かが意図的に集めたということになるのだが……。
「そんな……いったい誰がこんなことを……っ?」
冷たい汗を流しながら俺は、幼き3人の姿に見入っていた。
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