第四十七話 無力感

 月日はあっという間に流れ、終業式の日がやって来た。

 今年も去年と同じく、大変な一年だった。

 私は今年一年の出来事を思い返しながら、大広間に入場してくる卒業生たちを見守った。

 ハインスとベルーナは今年で卒業だ。

 言うまでもないが、二人ともドラッケンフィールに残ることはできなかった。

 最初からその気がなかったベルーナはあっけらかんとしていたけれど、ハインスはどこかで少し期待していたせいか、かなり落ち込んでいた。

 そんなハインスを慰めるリディアさんの姿が印象的だった。

 ベルーナは普通にヘイグ村に帰り、魔術師として村人のために働くそうだ。

 水属性に適性の高いベルーナがいれば、ヘイグ村の水の管理はかなり楽になるだろう。

 一方のハインスは木属性の適性を生かし、薬師になるつもりだそうだ。

 これからもっと勉強しなければならないと張り切っていた。

 来年は二人が学校からいなくなってしまうけれど、私はもう寂しくなんてない。

 私には二人の親友、ユーリとアレクシアがいる。

 それに少しずつ同級生の友達も増えてきた。

 私たちのことを避ける生徒はほとんどいなくなった。

 最初の頃に比べると大きな進歩だ。

 きっとこれからもっと学校は楽しくなるだろう。

 私が来年以降のことに思いを馳せていると、ヴィルヘルム先生が挨拶のために壇上へと登るのが見えた。

 やはりその顔はいつもとは違い穏やかなものだった。

 その表情のままヴィルヘルム先生が口を開く。


「諸君、今年も一年ご苦労だった。そして卒業生諸君、卒業おめでとう」


 最初にそう前置きして卒業生に対する餞の言葉や在校生への激励の言葉を紡いでいく。

 そしてある程度挨拶が進んだところで、ヴィルヘルム先生は今年起きた事件のことに触れた。


「既に諸君らも承知のことであろうが、今年は六神教に関わる事件が起きた。中には直接被害を受けた生徒もいるだろう」


 そう、アナトリオスによる洗脳を受けていたのは私たちの同級生だけではなかったのだ。

 学年を問わず複数の生徒が神殿に足を運び、事件に巻き込まれていた。

 しかし彼らはほんの数回アナトリオスを飲んだだけですぐに解放されたらしい。

 洗脳の影響と言えば少し信心深くなったくらいで、特に日常生活に支障をきたすような状態にはなっていなかった。

 そのため周囲の人間も異変に気づけなかったようだが……。

 神殿関係者を除くと、明らかに性格に変化が見られるほどアナトリオスの影響下にあったのは、なのだ。

 彼女だけは洗脳部屋から長期間解放されることがなかった。

 一体それは何故なのか?

 私はこれにもウェインくんが絡んでいる気がしてならなかった。


「今回の事件はドラッケンフィールに留まらず、アシュテリア全土を巻き込んだものだった。被害は最小限に食い止められたものの、事件の規模で言えば先の対大戦以降では最大のものであったかも知れぬ。しかし、だ」


 ヴィルヘルム先生はそこで一旦言葉を切り、笑みを深める。

 私がヴィルヘルム先生の方へ視線を向けると、はっきりと目が合った。

 私はそれで先生が次に何を話すかを察した。


「今回の事件を解決に導いたのは他でもない、当校の生徒たちだ。ユーリとレイナ、勇敢な二人に拍手を」


 そう言ってヴィルヘルム先生は拍手を始めた。

 先生たちや他の生徒もそれに続く。

 周囲の生徒の視線を感じ、私は身を縮こまらせる。

 隣ではユーリが顔を真っ赤にしてうつむいていた。

 恥ずかしくってしょうがない。

 早く終業式終わらないかなぁ……。

 私はそんなことばかり考えるようになった。




 それから数日が経った。

 魔法学校は休暇に入り、私たちが家に帰る日が来たのだ。


「今年もいろいろ合ったけれど、二人と過ごせて楽しかったわ」


 今年もアレクシアは私たちの見送りに来てくれた。


「私も楽しかったよ! また来年会おうね!」


 私とユーリはアレクシアと抱き合うようにして別れを告げた。

 そしていざ馬車に乗り込もうとしたとき、


「おお、間に合ったか!」


 ヴィルヘルム先生が慌てた様子でやって来るのが見えた。

 一体どうしたのだろう?

 なにやら深刻そうな表情に見える。


「君たちに至急知らせておかねばならないことがある。ウェインに関係することだ」


 ヴィルヘルム先生の言葉にユーリが顔をこわばらせる。

 このタイミングでウェインくんに関する話とは、何事なのだろう?

 私も固唾を飲んでヴィルヘルム先生の言葉を待った。


「恐らく、いやほぼ間違いなくウェインを始めとする事件の関係者は、ドラッケンフィールからの脱出に成功している」

「えぇ!? そんな、どうやって?」


 驚きの声をあげたのはアレクシアだ。

 現在ドラッケンフィールでは、ライゼンフォート家と街の警吏が主導となって出入りする人間の検問を強化している。

 そのような状況下でどうしてこの街から脱出することなどできるのだろうか。

 しかしそんな疑問は直後のヴィルヘルム先生の言葉で解決することになる。


「どうやら魔法学校の生徒が一斉に帰省するこの時期を狙われたようだ。ウェインは魔法学校の生徒であることを証明する魔導具を持っているだろう? 変装がかなり巧妙だったこともあって、他の魔法学校の馬車と同様に簡単な検問だけで通してしまったそうだ」


 ヴィルヘルム先生は唇を噛み締めながら告げた。

 とても悔しそうだ。

 用心しなければならないとわかっていたはずなのに、みすみす事件の首謀者と思われる者たちを逃がしてしまったのだ。

 悔やんでも悔やみきれないだろう。

 ヴィルヘルム先生はさらに苦々しげな表情で、次の言葉を絞り出す。


「外に出た彼らがどのような行動をとるのかはわからないが、もしかしたら君たちへの報復を考えているかもしれん」


 その言葉を聞いて私ははっとする。

 確かに私たちの行動によって彼らの企みは挫かれた。

 そして特にウェインくんは、ユーリに執着している可能性もある。

 帰る途中で襲われることは十分ありうる話だ。


「道中も危険ではあるが、問題はそれだけではない。道中は護衛を増やすことで対応できるからな。心配なのは君たちが故郷にいる間だ。その間は護衛をつけるのも難しい」


 どうしたものか、とヴィルヘルム先生は頭を悩ませている。

 私たちのところへ慌ててやってきたのはどうやらこの相談のためだったようだ。


「最も安全なのは帰省を取り止め、魔法学校にとどまることであろうが……」

「そうですね……」


 ヴィルヘルム先生の提案を受け、私たちはしばし考え込む。

 私としてはヘイグ村に帰りたいという気持ちが強かった。

 一年もお母さんや村のみんなに会っていないのだ。

 特にお母さんには話したいことがいっぱいある。

 ユーリも同じ気持ちのようだ。

 すぐにはヴィルヘルム先生の提案に、首を縦に振ることはなかった。

 そんな私たちに救いの手を差しのべてくれた人物がいた。

 アレクシアだ。


「だったらライゼンフォート家から護衛を出すわ! 事件の関係者がもうドラッケンフィールにいないのであれば、彼らの捜索に協力していた護衛たちも手が空くでしょう? ねぇ、ゼノヴィア?」

「そうでございますね。それにユーリ様とレイナ様は今回の事件の解決にご助力して下さいましたから、我々が協力を惜しむ理由はございません」


 アレクシアの言葉を受けてゼノヴィアさんもうなずく。


「なんならライゼンフォート家の馬車を用意させてもいいわ!」


 アレクシアは得意気に胸を張っている。


「確かにライゼンフォート家の護衛はかなり腕がたつ。それなら安心もできるというものだが……」


 君たちはそれでいいか? とヴィルヘルム先生に問われた。


「私はそれでいいです」


 特に異論はない。

 そもそもヘイグ村には現在魔術師がたくさんいるのだ。

 ジルムントさんにベルーナ、ハインスも一旦は村に帰る。

 そして何より私のお母さんだ。

 魔法学校に来てからひしひしと感じているが、お母さんの魔術師としての実力は底知れない。

 それにライゼンフォート家の護衛が加われば、大抵の相手に遅れをとることはないだろう。

 最早過剰戦力とすら言える。

 となると残る問題はユーリの住むコンラート村であるが……。


「私も、家に帰ります」


 ユーリは悩んだ末にそう答えた。

 それを受けてわかった、とヴィルヘルム先生がうなずく。


「馬車と護衛についてはライゼンフォート家に頼んでも良いだろうか?」

「はい、任せてください!」


 アレクシアとヴィルヘルム先生がそんなやり取りをしている間に、ゼノヴィアさんが連絡用の魔導具を飛ばしていた。

 その後の打ち合わせのために出発が遅れることになったが、翌日私たちはライゼンフォート家の護衛と共にドラッケンフィールを旅立った。




 結局三人の護衛が私たちと一緒に馬車に乗ることになった。

 コンラート村に向かうのが二人とヘイグ村に向かうのが一人だ。

 お互いの村の状況と、どちらかというとやはりユーリが目をつけられている可能性が高いということから、こういった割り振りとなったのだ。

 ヘイグ村に来てくれるのはカーターさん、コンラート村に行くのがケイシーさんともう一人、フリードさんという二十代半ばくらいの若い男の護衛だ。

 ちなみにハインスとベルーナは別行動で、そちらには二人の魔法学校教師が乗っている。

 万が一のことを考えそちらにも護衛を増やすことにしたそうだ。


「お二人には重ね重ねご苦労をおかけして、大変申し訳ございません」


 馬車の中でカーターさんに深く頭を下げられた。

 結局ウェインくんたち事件の首謀者を発見できなかったのを悔やんでいるのだろうか。

 それにしても彼らライゼンフォート家の護衛がドラッケンフィール中を捜索しても見つけられないなんて、ウェインくんたちはどこに隠れていたのだろう?

 そしてこれからはどんな行動をとるつもりなのだろう?

 カーターさんたちはずっと馬車の周囲を警戒していた。

 そんな状況ではどうしても口数は少なくなってしまう。

 そしてドラッケンフィールを出て数日後、コンラート村まであと少しというところでは起きた。


 夕日が沈みかけてきた頃、いきなり馬車が止まった。


「どうしたのでしょうか。まだ野宿するには早いと思うのですが……」


 不思議そうに馬車から身を乗り出して前方を確認したカーターさんが表情を変えた。

 そして素早く馬車に乗る人全員に指示を出す。


「レイナ様、ユーリ様は決して馬車から降りぬように。ケイシーは二人の護衛を。フリードは私と共に来い」


 そう言い残してカーターさんは馬車を飛び降りた。

 フリードさんもその後に続く。

 一体何があったのだろう?

 好奇心に駆られたが、ケイシーさんが馬車から降りるのを許してくれない。

 私は二人の帰りを今か今かと待っていた。

 その時、外で耳をつんざくような爆発音が響いた。

 それと同時に私のペンダントが熱を発する。

 さらには剣と剣が激しくぶつかり合う音まで聞こえてきた。

 まさか戦闘が起きている?

 このタイミングでの戦闘など、ウェインくんたちあの事件の関係者が相手に違いない。

 私は恐怖のあまりうずくまり、その身を震わせていた。

 ユーリも青ざめた顔でうつむいている。

 ……どれ程の時間が経っただろうか。

 音が聞こえなくなった。

 戦闘は終わったのだろうか?

 私は顔をゆっくり顔をあげる。

 するといきなり馬車の扉が開き、一人の人物が倒れ込むようにして入ってきた。




「カーターさん!?」


 その人物を見た私は思わず大声をあげてしまった。

 それは他ならぬ、カーターさんであったのだ。

 そしてその体は、……血塗れだった。


「早く……、おに……、ごぼぁ」


 カーターさんは必死で何かを言いかけようとしていたが、言い終えないうちに口から血を吐き、そのまま言葉を発しなくなった。

 あぁ、まただ。

 また私の目の前で人が死んでしまった。

 天才だなんだと言われていても、肝心なときに私は無力だ。


「ユーリさん、レイナさん、いるんでしょ? 降りてきてくださいよ」


 呆然とする私たちに、馬車の外からそんな声がかかった。

 聞き覚えのある声だ。

 これは……、ウェイン君の声だ。


「いけません! 降りては!」

「僕はお話がしたいだけなんですよ。別に殺す気はありません。その人たちは邪魔をしようとしたんで仕方なく攻撃しましたけど、本当はこんなことしたくなかったんですよ? でも降りてこないのであれば、どうなっても知りませんよ?」


 ケイシーさんに静止されるが、ウェインくんは私たちを催促する。

 事実さっきまで感じていたペンダントの熱は弱くなっていた。

 本当に今は私たちを攻撃する気はないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、突如私の手が握られた。

 思わずびくりとしてそちらを振り向くと、ユーリと目が合った。

 何かを決意した表情だ。


「行こう、レイナ」

「うん」


 ユーリの言葉に私も短くうなずく。

 私たちは手を握り合ったまま、ゆっくり馬車から降りた。


 馬車から降りると、三つの死体が目に飛び込んできた。

 フリードさんのものと、誰か知らない人のものが二つだ。

 そしてそれらの中央に四人の人影があった。

 その中には一際背の低い人物がいるのを、私は目に止めた。

 蜂蜜のような明るい髪色の少年、ウェインくんだ。

 さらにもう一人見覚えのある人物がいた。

 マリアンヌだ。

 後の二人は見たことがない男性と女性が一人ずつであったけれど、女性の方はウェインくんとそっくりの髪の色をしていた。

 顔だちもどこか似ている気がする。

 マリアンヌと男性は腰から剣を下げているのも見えた。


「久しぶりですね、二人とも」


 ウェインくんがにこやかに私たちに向けて微笑みかける。

 どうして人の死体を前にして、こんな顔ができるのだろう?


「そんな怖い顔しないでくださいよ。少しお話ししたいだけなんですから」


 私はウェインくんを睨み付けたが、彼は悪びれもせずにそう言う。

 この子は、人が死ぬことをなんとも思っていないのだ。


「どうして、なんでこんなことしたの!? アナトリオスのことだってそう! 大勢の人を巻き込んで、ウェインくんたちは何がしたいの!?」


 そう大声をあげたのはユーリだ。

 そして私と同様、ウェインくんを睨み付ける。

 しかしウェインくんは表情を崩さない。


「だから言ったでしょう? 護衛の二人はユーリさんたちと話すのを邪魔したから仕方なく殺したって。こっちはそんなつもりなかったのに。それとアナトリオスの件はずっと前から計画されていたことで、僕は手伝っただけです。詳しいことはよく知りません。でも一年、いや半年お世話になったよしみで、少しなら質問に答えてあげますよ。他にも僕に聞きたいこと、あるでしょう?」


 ウェインくんは楽しそうだ。

 どうやら本当に私たちを攻撃する気はないらしい。

 私は素直に聞きたいことを聞くことにした。


「やっぱりウェインくんがアナトリオスの調合をしてたの?」

「そうですよ。そのために小さい頃から魔術を教わってましたからね」

「ウォーレンハイトで洗脳が解けかけたユーリを洗脳し直したのもウェインくん?」

「はい。あのときはいきなりユーリさんの洗脳が解けちゃって焦りましたよ。レイナさんのせいだったんですね」

「じゃあウェインくんたちはどういう人たちなの?」

「それは内緒です。といってもすぐに知られそうですけどね」


 ウェインくんは私の質問にすらすら答えてくれた。

 一体何を考えているのだろうか。


「ウェイン、いつまでそうしているの? あなたのわがままに付き合ったせいで二人も仲間が死んだのよ。それにここまでしておいて本人たちに手を出さないなんて、やっぱり納得いかないわ」


 蜂蜜色の髪の女性がウェインくんをたしなめるように言う。


「ちょっと待ってよお母さん。まだユーリさんの質問を聞いてないよ」


 ウェインくんがその女性に無邪気な表情で答える。

 どうやら二人は親子であったようだ。

 ならば残る男性はウェインくんの父親だろうか。

 死体のうちのどれかがそうである可能性もあるが、女性の言い方的にそれは無さそうか。

 ウェインくんはユーリの方に視線を向ける。


「ほら、ユーリさん。僕たちもう行っちゃいますよ」


 ユーリは少し考えたあげく、ひとつの疑問を口にした。


「どうして私だけ洗脳部屋から解放されなかったの?」


 その問いを耳にした瞬間、ウェインくんの表情に初めて変化が起きた。

 顔から笑みが消え、はっきりと怒りが感じられる表情になったのだ。

 そしてウェインくんが口を開いた。


「去年魔法学校に行く時に、ユーリさんが六神教について言ったことを覚えていますか?」


 それを聞いたユーリが息を飲むのが聞こえた。

 私にもウェインくんが言いたいことがわかった。

 確か去年、コンラート村に六神教の神殿ができたことで、ユーリが六神教の信者について言及したのだ。

 その内容は六神教の信者にとって決して気分の良いものではなかっただろう。

 そのときからずっとウェインくんはユーリに目をつけていたというのか。


「だからユーリさんには少し罰を与えようと思ったんですよ。失敗しちゃいましたけどね」


 ウェインくんの表情に再び笑みが戻った。

 しかしそれは十歳の子供にはとても似つかわしくない、邪悪なものだった。


「……これから私たちをどうするつもりなの?」


 その様子を見て不安に駆られたのだろう。

 ユーリが言葉を絞り出した。

 それを聞いたウェインくんは、やれやれといった感じて肩をすくめる。


「だから二人に手出しする気はないって言ってるじゃないですか。それにレイナさんのお守りがある限り、下手したらこっちが返り討ちになっちゃうでしょ? あ、だからってユーリさんが一人の時に狙うつもりもないですよ?」


 相変わらずウェインくんの意図が読めない。

 確かに今は私のお守りで私たちの身は守られていると言えるが、それでは私と別れた後のユーリを襲わない理由にはならない。

 彼の目的はなんなのだろう?


「ウェイン、もう行くぞ」


 男性がウェインくんを催促する。

 話し方的にやはり彼がウェインくんの父親なのだろうか。


「ですって。他に質問がなければこれでお別れですね」


 ウェインくんにそう言われるが、今の私たちは思考回路が麻痺しているようなものだ。

 咄嗟に質問など思い付かない。


「じゃあ、行きますね。さようなら」


 私たちが黙っているのを見てウェインくんたちは踵を返し、立ち去ろうとする。

 しかしそんな彼らに声をかける人物がいた。

 私たちよりさらに後ろからだ。


「あなたたちの持つその剣、ミスリームのものですね?」


 私たちは慌てて後ろを振り向く。

 声の主はケイシーさんであった。

 それを受けてマリアンヌが振り返り、その視線がケイシーさんとぶつかる。


「ライゼンフォート家の護衛、まだいたのですね。三人とも一度に出てきていれば良かったものを……」


 ケイシーさんが顔をしかめた。

 確かにケイシーさんも一緒に戦っていれば結果は違うものになっていたかもしれない。


「どうやら彼らは私たちの実力を見謝っていたようね。ウェインは戦力にならないし、魔術師は私だけだもの」


 勝ち誇ったようにそう言うのはウェインくんの母親らしき人物だ。

 しかしその指に本人確認用の魔導具は確認できない。

 彼女もまた、未登録の魔術師であるようだ。

 やはり私やヴィルヘルム先生の推測は間違っていなかった。

 しかしミスリームの剣を身につけているという、彼らは何者なのだろう?


「なぁウェイン、やっぱりこいつらは始末した方が良いと思うがな。こうして余計な手がかりを与えてしまったわけだし、それにあの金髪は気になる」


 ウェインくんの父親らしき人物がそう言って私を指差す。

 またしても私のペンダントが熱くなった。


「ダメダメ、そういう『お告げ』なんだから。二人を殺しちゃダメだよ」


 ウェインくんが慌てて男性を止めた。

 お告げ?

 一体どういうことだろう?

 混乱する私たちをよそに、彼らは仕方なし、というようにうなずいていた。


「じゃあそういうことで。またいつか会いましょう」


 最後にウェインくんはそう言い残し、他の三人と共に立ち去っていった。

 私たちは呆然とその姿を見送るしかなかった。

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