ep2「摸倣せし救世主の奇蹟《メシアクラフト》」

 薄暗い大聖堂を満たすのはパイプオルガンと聖歌隊の唄声だった。荘厳なステンドグラスから差し込む色とりどりの光は、この大祭礼に集った数十人分の教会関係者の人影をおぼろに浮かび上がらせている。


 照らし出された聖堂の中心には、赤い司祭と半裸の若者が一人。

 幾重にも重なる聖歌の旋律をその身に浴びながら、祭壇の前にひざまずくのはおよそ二十代半ばと思しき一人の男だ。救世主の血肉たる葡萄酒とパンを飲み下した彼は、ゆっくりと光の下にその顔を晒して行く。

 首から提げたガラスの小瓶が、顔の下できらりと反射した。


 ――――こうして祈るのは何度目だ。


 昏く淀み切った瞳が、神聖なガウンに身を包んだ司祭を捉える。

 彼の背には人ならざる証が生えていた。皮膚を突き破って伸びているのは三枚の出来損ないの翼、その先端からはまだ浴びられてもいないのに聖水が滴り落ちて行く。


 時間だ。

 ひざまずいた男の頭上には、いつしか司祭の振るう杖が掲げられていた。司祭が身に纏うガウンの色は血のような赤、それこそはこの世の受難を表す色だった。

 まさにこれから起こる事がそうである、とでも言うかのように。


「ニコライ=ユウキよ。主の御名の下にこれよりメシアクラフトの儀を執り行います。良いですね」

「はい」


 男は――――ユウキは、その場に膝をついたまま首を垂れる。

 洗礼名の由来は、かつて数多の奇蹟を成したと伝えられる聖ニコライ。何年も前に二つ目の名を与えられたユウキは、ほとんど無意識の裡に小瓶のペンダントを握り締める。かつて知りもしなかった儀式の手順に、今はそうしてすっかり変わり果てた身を委ねていた。

 変わらず繊細な聖歌が響く中、司祭は祈りの文句を唱え始める。


「天にまします我らの主よ。我らに罪を犯す者を、我らが赦す如く、我らの罪をも赦したまえ。我らを試みに遭わせず悪より救い出したまえ」

「剣を取る者は剣で滅びる。されど目には目を、歯には歯を」

「この者に主の加護があらん事を。アーメン」


 儀式で唱える言葉はいつも決まり切っている。直後に司祭から差し出された短槍を手にして、彼はぐっと歯を食いしばっていた。

 次の瞬間、堪え切れぬ悲鳴と血潮が辺りに飛び散る。


「……ッ!」


 てらてらと赤く艶めく短槍が貫いたのは、ユウキ自身の脇腹だった。新鮮な肉がのぞく聖痕からの流血は、彼の半身を真っ赤に染めてなお止まることを知らない。

 それは同じ聖痕から滲み出した血を浴びるまで、決して塞がらぬ傷だ。

 ふらつく足取りで祭壇の前から立ち上がったユウキは、祈りの言葉を唱え続ける司祭たちを引き連れて聖堂の外へ歩みを進める。


 ――――儀式はまだ終わってはいない。これからだ。


 分厚い扉を開け放った先に広がっているのは、ジャンボジェット旅客機をゆうに数台は駐機出来そうなほどの大閉鎖空間だった。

 整備服に身を包んだ数百人もの人々が行き交い、反響した甲高いエンジン音が耳を刺す。その喧噪の只中に鎮座しているのは、一目見ただけではおおよそ形状を把握できないほどに巨大な蒼い鉄塊だった。

 全長にしておよそ百m、ユウキの瞳はそんな機体を前にして暗い光を帯びる。


「カレン、俺は今日も行くよ」


 喧騒混じりの聖歌の音が、自然とユウキの背を押すように機体へと導く。

 彼は躊躇いなく鉄塊の下へと潜ると、小さく開け放たれたハッチから内部に身を滑り込ませていった。まるで棺のような閉鎖空間に収められた彼は、息苦しいほどに狭く圧迫された闇の中でようやく息を吐いていた。


 ぬるりとした流血でシートは生温かい。

 血まみれの両手で握り込んだ操縦桿、両脚をかけたフットペダルは共に小刻みに震え始めている。立派に備えられたそれらの操縦機器こそ、まさにここがコックピットである証に他ならなかった。


「聖体の搭乗完了。目覚めろ、メシアクラフト」


 音声認証、完了。

 一斉に灯った微光がコックピットシートのユウキを照らし出す。起動したメインモニターは格納庫内の景色へと切り替わり、まるで蟻か何かのように這いずり回る整備員たちと聖歌隊を映し出していた。


 この弩級戦闘機を稼働させるのは水だ。

 機体へと繋がれていた注水ケーブルも次々に外されて行った。機体の冷却剤は聖水、燃料も聖なる重水。動力源は直径5m ほどの人工聖杯二つを組み合わせてプラズマ閉じ込めに用いる、D-T反応型の球状トカマク型核融合炉だった。

 つまるところ、それは聖遺物で出来た神の心臓に他ならない。


「求めよ、さらば与えられん。かくあらん事をアーメン


 格納庫の奥へと退避した整備班と司祭たちが見守る中、遂に聖なる核融合炉へ火が灯る。

 信仰はとうの昔に死んだ。実用魔術体系としての神学だけが残って、神学者はエンジニアと同義の職業に成り果てた。あの六枚羽の化け物が現れた日を境にして、主に捧げるべき全ての願いはこの神学的決戦兵器の建造に注がれたのだ。


 世界にたった数機しかない超弩級戦闘機、その名はメシアクラフト。

 ユウキが起動に必要な最後の文句を唱えた直後、彼の四肢には文字通りに杭を打ち込まれたような激痛が走る。骨さえ貫通して釘が深々と打ち込まれていた。


「ぐ……ッ!」


 儀式の仕上げとして手首と足首に釘が突き刺さり、聖痕を刻みつけると同時に神経接続を行う。これも全てはメシアクラフトを操る為の魔術儀式だ。

 神の子が受けた受難の摸倣は、それ自体が類感呪術としての意義を持つ。

 ゆえにこうして初めて、生身の身体と鋼の肉体が魔術的に一体となる。

 もう何度目かも分からない受難の激痛を耐え切ったユウキは、汗を拭うことも出来ぬままにメインモニターを睨みつける。通信が入っていた。


『現在、当三沢基地は敵群との交戦状態にあります』

「数は」

『敵群の数は10でこれ以上の足止めは不可能です。そして第二波となる敵群も当基地へと向かって来ています、こちらの数は少なくとも30超』

「無理だな」


 機体のジェネレーターが稼働音を高めて行くにつれ、メシアクラフトを収めていた専用格納庫の扉が開け放たれて行く。

 扉から差し込む光は春のように穏やかで、やはりあの夜に東京を照らした光と全く同じ温かさがあった。


「いる……奴らの光だ」


 既に基地は敵に包囲されており、陥落を待つばかり。この戦いに勝とうと勝てまいと、今日で旧青森県太平洋側の地域は文字通りに地図上から消える事になる。これこそが世界の八割を失った人類の戦いだった。

 それでも構いはしない、とユウキは誰に聞かせるともなく呟く。


『メシアクラフトの出撃後、戦闘能力を失った当基地の全戦力を放棄。熱核弾頭の投下により周囲80kmを焼き払います。それまで敵群の足止めを願います』

「了解。ニコライ=ユウキ、出る」


 遂に起動を果たしたメシアクラフトの周りにはエンジェルハイロゥが浮かび上がり、強大な重力場を以て機体をふわりと宙に浮かせていた。

 進路クリアー。

 巨体からは信じられぬ滑らかさで格納庫から抜け出した機体は、ほぼ垂直に天を目指すように機首を向ける。まさに見上げんばかりの蒼い十字架となって聳え立つメシアクラフトは、爆発寸前にまで高まった稼働音を更にもう一段高めた。


 離陸。猛烈な衝撃波が辺りを殴り付け、光輪に引かれるように加速したメシアクラフトは瞬く間に雲を突き破ってみせる。


「交戦対象を発見、数は10。報告通りか」


 雲の上の世界には、神々しいまでの光に満たされる雲海が広がっていた。

 白く輝く海面を飛び交うのは、四枚羽の怪物/灰色の戦闘機編隊。未だ10匹が健在の敵群に対して、たった数機にまで減った戦闘機たちは健気に迎撃を続けている。直撃すれば人体など一瞬で蒸発するほどのレーザーが、秒間数発のサイクルで青空を切り裂いて行った。

 だが、四枚羽の化物たちは平然とレーザー照射を受け流す。


「あんなものじゃ奴らは墜とせない……」


 レーザーの発振元は、航空用重レーザーシステムを装備したF35-L型だ。本格配備から十年近く経ってもなお第一級の航空戦力が、こと四枚羽の敵を前にしては大した戦果も生み出せずに弄ばれているのが現実だった。

 通常の兵器では、聖なる物体をまともに傷付けられないのだ。


 そしてユウキが見ている間にも、灰色の戦闘機たちは次々に撃墜されて行く。

 炎さえ上げずに雲海へと突っ込んで行く戦闘機は、どれもこれもが塩の塊と化しているのだ。キャノピーを突き破って伸び行く白い柱は、先ほどまで操縦席に座していたパイロットの成れ果てだった。

 四枚羽の怪物たちから発せられる光は、まるで天使のハシゴのような幻想風景を青空に描き出している。

 浴びせられれば塩の柱と化してしまう、あれは美しくも危うい光線だ。


 ――――あれのどこが神の奇蹟だ。


 もはや対等の勝負にさえなっていない。

 これではまるで一方的な天からの裁きだ。憎むべき仇を前にぎりりと奥歯を噛み締めるユウキは、杭に貫かれた両手で操縦桿を押し込んでいた。


「これよりイコン・・・の殲滅を開始する」


 敵の呼称は聖なる像を意味するイコン。

 ヨハネの黙示録に預言された獣と認定する学派もあるようだが、神の奇蹟を振りかざす化物たちはいつしかそう呼ばれるようになったのだ。


 馬鹿馬鹿しい、とユウキは心の底から思う。

 あの輝ける敵生物の正体は、聖書の文言を塩基配列に置き換えたDNAから生み出されてしまった生物だと言われている。ゆえに強力な魔術的特性を持ち、神の奇蹟を引き起こせるだけの化け物に過ぎない。


 どうでもいい、とユウキはトリガーボタンに指を掛ける。

 このメシアクラフトで撃ち落とせるのなら、悪魔だろうと天使だろうと神の成れ果てだろうと構いはしなかった。彼の網膜には既に、十匹の敵に対して百を超える照準マークが投影されている。


「レリック誘導弾、全て目標捕捉ロックオン一斉発射ファイア


 トリガーボタンが押し込まれた直後、蒼い十字架からは百を超える飛翔体が撃ち出されていた。その全てがレリック誘導弾と呼ばれる対イコン殲滅兵装、すなわち聖遺物搭載型の空対空ミサイルだ。


 聖人の遺骨が内臓されたミサイルは、敵を目指して空を突き進む。

 かつて聖剣と謳われたデュランダルは、柄に聖人の歯や血といった聖遺物を仕込んでいたという。それと全く同原理ともいえる聖なるミサイル数百発が、空におびただしい程の白煙を曳いて敵に吸い込まれて行った。


「砕けろよ」


 空を埋める爆炎と轟音の嵐。ただのミサイルでは傷付けられなかった四枚羽たちでさえ、一挙に炸裂した炎の中で羽を散らして行く。

 敵の二体ほどが急速に崩壊して行く様を横目に、蒼い十字架は煙を裂いて急加速していた。爆発に紛れての接近、30階建てビルにも等しい弩級の戦闘機がおよそ音速の5倍という速度で敵に迫る。

 そして失速寸前にまで機首を上げた蒼い十字架は、超音速飛行の最中にぱっくりと割れ始めていた。


 ――――変形開始。


 十字架型を成していた弩級戦闘機が、まるで途中からへし折れるようにして機体を組み替えて行く。およそ一秒と掛からずに出来上がったのは、四肢のバランスを間違えたかのような人型だ。

 前と左右へ極端に張り出した胸と肩からは腕が垂れ下がり、骨格が剥き出しの腰ブロックからはやはり華奢な脚が伸びている。


 蒼い十字架から異形の巨人へ。


 構造強度から考えれば自重を支えられるはずがない機体が、しかし白い雲を纏いながら変形を終えていた。

 白い筋繊維が剥き出しの腕先に閃くのは、きらりと陽光を反射する人工ダイヤモンド製の爪だ。

 刃渡りにして実に5mほど、人間よりも遥かに巨大な爪を振りかざしたメシアクラフトは、眼前に迫った敵へ向けて勢いよく腕を振るった。


「これで三匹目……ッ!」


 一閃、引き千切られた四枚羽からは鮮血が吹き出す。

 聖人の遺骨から作られた人工ダイヤモンド製の爪は、それ自体が極めて強力な魔術的効果を発揮する近接兵装だ。敵の三匹目を葬り去ったばかりのメシアクラフトは、自ら返り血を浴びるようにその場で滞空する。

 頭上のエンジェルハイロゥをすり抜けた血飛沫は、蒼い装甲表面をべったりと濡らしていた。真っ赤な血に濡れた頭部は次なる獲物を求め、レール上に六つ並んだカメラアイをせわしなく動かし続ける。


「まだ足りない、こんなものじゃ足りないんだよ」


 四枚羽の化物たちを相手に、このメシアクラフトだけが狩人足り得る。

 それは何故か――――この機体が聖遺物の塊だからだ。


 ジェネレーターには人工聖杯を、対空ミサイルにはクローン培養した不朽体を、そして爪には遺骨から作った人工ダイヤモンドを装備する人造の救世主。そもそも機体を駆動させる筋繊維からして、各地の教会に祀られていた聖体たちの合成体なのだ。


 神聖なモノを撃ち落とすには、自らが同格にならねばならない。

 そして十全に奇蹟を発揮するには、かつての救世主や聖人と同じく人型でなければならない。

 神の権能を宿した敵と、同格に渡り合う為に作られた人型マシンこそがメシアクラフト。神の似姿に象られた聖遺物のパッチワークは、ユウキの意思を反映して蒼穹を翔ける。


「次!」


 纏わりついた血を払いつつ、メシアクラフトが疾風の如くに加速する。空を貫く十本の光線を縫うようにして、ヴェイパーコーンを纏う人型は躊躇いも無く敵の懐へと飛び込んで行った。

 メシアクラフトが構えたのは腕だ。

 華奢な腕そのものがレールガンの加速砲身を兼ねている。ちょうど手首の辺りに開いた直径600mmの砲口からは、強烈なプラズマと衝撃波が迸って行った。


 発射した直後に、射線上の四枚羽がごっそりと抉り飛ばされる。

 地球に落着する隕石の落下速度はおよそマッハ20、それとほぼ同等の速度で撃ち出された弾体が眩いばかりの光線となって大気を貫いたのだ。ロンギヌスの槍を据え付けた徹甲弾は、撃ち出される度に聖なる化け物を葬り去って行った。


「――――発射ファイア!」


 およそ三十発目の聖ロンギヌス徹甲弾が発射された直後。あくまで穏やかに波打つ雲海へと、ちょうど十匹目となるイコンの残骸が沈んで行った。

 拭い切れぬ返り血を浴びたメシアクラフトは、真っ赤に穢された姿を蒼穹の下に晒したまま動かない。

 機体各部に設けられた排熱用スリットからは、蒸発した聖水が白煙となって噴き出す。光輪から放たれる光はちょうど儚げな虹を描き出し、霧に沈んだメシアクラフトを一幅の宗教画のように飾り立てていた。


 だが、救世主を体現するかのような姿から滲み出すのは、己の無力さを思い知らされた敗北感のようでもあり。


「こいつらの中にもあいつはいなかった……どこだ」


 ユウキは四肢と脇腹から湧き出す血に塗れながら、今にも失血死寸前のぼんやりとした意識で天を仰ぐ。

 杭に貫かれたままでは触れることも出来ないペンダントを想い、ユウキはクリスマスの夜に喪ったかけがえのない笑顔を脳裏に思い浮かべていた。それと同時に、カレンの笑顔と命を奪い去ったあの忌々しい六枚羽を思い出してもいた。


 ――――あの個体をいつかこの手で殺す。


 原種個体。それが世界で初めて確認された化物の名だった。

 世界のどこで生み出されたとも知れないオリジナルの一匹、それこそがカレンを塩と変えたあの個体に他ならない。そして最も欠損の少ない形でDNAに聖書の文言を刻んだ、この世で最も救世主に近い血液を持つ個体でもある。


 数多くの奇蹟を使うメシアクラフトでさえ、その僅かな組織片を解析して造られた劣化版に過ぎない。


 故に原種個体だけが持つ血を浴びれば、メシアクラフトはより上位の奇蹟を起こせるようになるはずだった。

 だからこそ、求めるのは原種個体ただ一匹のみ。

 この十年間、血を浴びる為だけに人体実験を受けてまで戦い続けて来たのだ。キリスト教系魔術として定型化された奇蹟などではなく、救世主の血がもたらす真の奇蹟を求めて身を捧げ続けて来た。


「いつか奴の血を浴びてカレンを蘇らせる、その為に俺はこんな……」


 全てはカレンの為に。

 ユウキが肌身離さず身に着けた小瓶に収めているのは、塩の柱と成り果てたカレンの一部だった。今や彼が求めるのはたった一つの奇蹟、死の支配を意味する『死者の蘇生』を成すことに他ならない。

 この身に宿る二重螺旋の全てを聖書の文言で置き換えた時、理論上はそれを出来るだけの力が手に入るはずだった。


 ――――この身体から羽が生えようが、何になろうが俺は構わない。


 イコンから噴き出す血を浴び、塞がるはずのない聖痕が塞がる度に、ユウキ自身の遺伝子が汚染されていることは分かり切っていた。およそ一年前から背に羽が生えて来たのは、度重なる戦いで身体が蝕まれている影響でしかない。

 今回も無事に塞がった聖痕からは、もう血は流れ出ていなかった。

 そしていずれはこの身そのものが羽の化物へと成り果てる。


「それでも俺はカレンの為なら何だってしてやる、神様にだってなってやる」


 ユウキが見つめるメインモニターには、遠方から飛来しつつある敵群の第二波が映り込んでいた。数は報告よりも多い40匹、メシアクラフトでさえ相手にするのが厳しいほどの大群相手に出来ることはただ一つだ。


「そろそろ時間か」


 見上げてみれば、遥か藍色の空に何本かの光跡が見えた。

 この地を目指して飛来する光点の全てが、大陸間弾道ミサイルに搭載された熱核弾頭だ。極超音速で降り注ぐ人工の流れ星たちは、ほんの数秒後に視界の全てをホワイトアウトさせていた。


 敵群に対しての目くらまし・・・・・

 都市を幾つも蒸発させてまで核弾頭を撃ち込む意味など、たったそれだけでしかない。膨れ上がる数百万度の火球は雲を消し去り、成層圏にまで立ち昇らんとするキノコ雲を伸ばして行く。

 炸裂した強烈な衝撃波面はドーム状に広がり、メシアクラフトの機体をも打ち据えて行った。だが、さしたる損傷も無しに爆心地を見下ろしていた機体は、やがて十字架型に変形するとその場を後にする。


 旧三沢基地からの撤退戦は現時刻を以て終了。

 メシアクラフトは脱出に成功した一万人規模の人員と共に、旧日本地域で最後の拠点である横田基地を目指そうとしていた。

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