第9話 とりあえず高級ほうきを50本注文した

「象徴、道具、人足、ここまで手に入りました。」


 拠点化した廃墟、もとい、“魔王城2”2階の一室で会議が開かれている。

 ここ数日で、建物外観の偽装的増築と内部の空間圧縮がかなり進んだ。陰影とだまし絵を使った前期バロック様式。エントランスから談話室、応接室まではそれを踏襲したが、作業エリアや実務室、貯蔵庫など空間拡張した内部の大半は実用的かつシンプルな部屋構成。廊下のつくりといい、部屋名が“1年1組”といった風になっており、さながら……まぁ、そこはいいか。


「魔王様。」

「はい!」

「どうしましょうか。」

「はい!……はい?」

「いえ、このあとどうしましょうか、と。お聞きしているのです。」

「え、ちょっと、え、、、」

「なんナリか、おねいさん、実はノープランだったナリか?」

「そういうわけではないのですが、よくよく考えてみますと、魔王様のご意見を賜ったことがなく。」

「そういえばそうだね。」

「ざっくり、書き出しますと。」


 黒板が張り出た壁に、ここまでのひと月の活動内容を箇条書きしていく。


 スラムの掃除 洗濯受注 介護(失敗)

 人生ゲーム販売(直売)

 パンの配布と販売(委託)

 偽札づくり(少量ずつ流通中)

 便利な道具作成(契約書封印済み)

 鉄砲玉育成(育成期間中)


「あれ偽札づくりだったんだ!」

「ワレも便利な道具欲しいナリ!」

「はい。ここまで、世界征服の土台を作ってきたわけですが。」

「うん……うん……」

「しっかりしてください魔王様。ここまでくれば、次の段階に……」

「砂理井さん、砂理井さんこそ、どう、したいんだい。これから、というか、その、ボクたちと。」

「私ですか?私は、」


「別にこれといった主張はないのですが、そうですね。世界中のみんなを笑顔にしたいです。」


「(そんな暗い顔でいわれてもなぁ……)」


「こほん。そこで、魔王様、魔王様はどう、世界征服をしたいのですか?」

「(そこは笑顔なんだ。)」

「ええと、そうだねぇ。うーん。。。」


「そうだ。ちょっと、聞きに行っていい?」


〜〜〜


「このような席を設けて頂きありがとうございます。まずは、こちら、ご存知魔王様です。」

「ん。」

「こちらの小さいのが、ワガハイ氏。食客、まぁ、用心棒のようなモノです。」

「今日も朝からたくさん斬ってきたナリよ!(金属を)」

「改めまして。私、社会福祉法人魔王協会 エグゼクティブエグゼキューショナーの砂理井です。」

「えっ、砂理井さん怖っ肩書こわっ。」

「かっこいいナリ!ワレも欲しいナリ!」

「ワガハイ君は、もっともっとお金を積んでくださいね。ちなみに現在、魔王ぐ……魔王協会は私とこのワガハイ氏、それと、両手で数えるよりも若干多いくらいの社員が居ます。」

「えっ、わしは?」

「魔王様は象徴なので、とくに魔王軍に所属しているわけでは。給料もありませんし。」

「そうなの!?」

「くっくっくっく、いや、まぁ、久しぶりにオジキが来てくれたと思ったら、いや、本当に、変わらないですなぁ。」


「!アポなしで会っていただけたことからすれば、当然ですが……本当に、お知り合いなのですね、オジキ、ですか、」


 ひと呼吸。


「国王様。」

「おお!このヒトお殿様ナリか!」

「はっ、知り合いなんて、そんな薄い関係じゃあねぇよ。このお人は、俺の、そうだな、命の恩人で、ひいては、」

「ーーー」

「ん、そうか。いやスマンスマン、それはまぁおいておいてだな。なんだい、君らは、うちに何をして欲しいんだい。協会の肩書ぁ置いといて、むかーしむかしみたいに、正々堂々、対決しにきたんか?今どき、宣戦布告は流行らねぇぜ?」

「いえいえ、王様。現代の社会では、魔王も勇者もおとぎ話。これからどうこうしようと、そんなだいそれたことは何も。ただ、私達は、そういった、そうですね、ロールプレイをしている組織、と考えて頂ければ。」

「ほう!こりゃあまた、古い言葉を持ち出したね。ロールプレイか。懐かしい。」

「?ああ、いえ、我々は、先程お見せした活動内容の通り、補助制度を利用せず、独自の社会奉仕活動を行う、慈善団体だと思って頂きたいのです。」

「それで、なにかい、公認がほしいと。」

「はい。無くとも支障はないのですが、ありますと、これから先動きやすく、」

「いいよ。ウェスター、ほれ、ギルドに出す書類をくれ。」

「なるので、暗黙の、え、はい?」

「陛下、こちらです。」

「よし、えーと、魔導印でいいよな。勅令とかいるかい?」

「い、いえ、そこまでの、」

「じゃあ、ほれよ。商業ギルドに出しときゃ、ギルド連所属んところにゃ、すぐ出回るさ。」

「ありがとう、ございます。……しかし、よろしいのですか、と、こちらが聞くのも失礼な話ですが。」

「いーんだよ、オジキが居れば、そう悪いことたぁ起きないだろう。そこのホビットの噂も、いやまさか、こっちに来ているとは知らなかったが、一応、噂ではきいてたしな。」


 一方、蚊帳の外のまるっこいのふたりは、というと。


「ねぇ、ワガハイ君。君いくらもらってるの?」

「そういうこと聞くの失礼ナリよ。」

「あのさ、わしパン2個なんだけど。」

「ずるいナリよ〜〜じゃあワガハイも言わないと不公平ナリよ〜〜」

「いくr」

「月13金貨ナリよ。福利厚生として公衆浴場の無料券が月5枚、国立院での治療は自己負担3割、装備消耗品は月額1金貨までは無負担。」

「なにフクリコウセイって!わしそれ知らない!」

「そこはハッキリ交渉したナリよ。木工所やめる時も、日割でちゃんとお給金もらってきたし、都市税も王都に所属移管したときに還付申請済みナリ〜」

「ああ!どうしよう、ワガハイ君の言ってることが半分もわかr」


「ははは、まぁ、偽名なのですけどね。」


「「偽名なの(ナリ)か!?」」


「急に、会話に入ってこないで下さい。厭らしい。」

「ふっはっはっは!まぁ、なんだ、オジキもこれなら、退屈はしないだろうな!」

「国王陛下。そろそろお時間です。」

「ん、よし。では、うまくやってくれな。慌ただしいがこれでな。……オジキ、いつでも会いに来てくださいね。息子らにも、紹介します。近いうちにまた。必ずですよ?」

「わかったわかった。はよう次の予定にいきなさいな。」

「基調なお時間を割いて頂き、ありがとうございました。」

「トノ!お達者で!」


「砂理井様。これを。」

「これは?と、かなりの大金、ですね。」

「ご安心を。陛下のポケットマネーです。それと、家臣一同からの心積もりです。流石に、そちらは少額なため、私の方で金貨に調節させて頂きました。」

「よろしいので?」

「はい。確実に。魔王様のなさることです。お会いするのは皆初めてですが、家臣一同、この機会をお待ちしていましたから。」

「そう、ですか。それでは、有り難く頂戴致します。」


 魔王様が突然王城に行こうと言い出してからここまで3時間。怒涛の展開過ぎて、少し頭が追いつかない。

 丁重に迎えられ、丁重に出ていく。


「魔王様。明日は、お休みにしましょうか。」

「お休みかぁ……オヤスミ?ナンダッケ、オヤスミッテ。」

「オヤスミやったナリ!ドヤ街のドワーフんとこいってくるナリよ!」

「明後日、頂いてきた資金のことと、諸々整理しましょう。」



「オヤスミ、オヤスミ、オヤ、スミ、オオ、オオオ、、、あれ?砂理井さん?ワガハイくん???」

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