第8話 ギャッププロモーション

 魔王様、私、ワガハイ君と三人に増えたことで出来ることの幅が大きく広がった。

 日常の社会奉仕活動に加え、今度は人的資源の掘り出しを行いたい。地域おこしは人興し、と。


更生会。

 スラムにたむろしていたチンピラに向けて、更生会という構成員養成講座を開く。参加費無料だということと、ちょっと足の裏が痒かったので地面を軽く蹴って、3mのクレーターを作ったらその場に居た13名程が集まってくれた。

 会場は以前も使った廃墟。廃墟、だったのは以前の事で、今は私の魔法と魔王様の魔術、ワガハイ君のデザイン剣術で見違えるほど美しい……若干奇抜かな……建物に生まれ変わっている。

 なお、生まれ変わった結果、死蔵されていた所有権も正式に魔王様の名義に。


「君らは最初からチンピラになりたかったのか!そうじゃないだろう!小さい頃は、勇者に憧れたり、ダンジョンテイカーへの渇望を見たりしたことがあるだろう!」

「いや、俺達はスラムでも差別される、コートーアの出だ。生まれたときから、そんなもんねぇよ。」

「うるさい黙れ。」

「「「!!!(気不味げな様子が一切無いスゴイ!)」」」

「そんなマイナスイメージをプラスに!ギャップを演出して世間を見返すのだ!」

「君らは」

「おい!あんたは、あれだろ、いくら言っても、俺らを直接攻撃したり、できないんだろ?あの、よくわからねぇ魔術で指怪我させるくらいでよぉ。」


 魔王様が何かを言いかけたのに、にやけ顔でそうのたまう男。

 私はその前に立ち、頭のてっぺんからゆっくりと手刀をおろし、最後だけ加速する。

 股下から背後にかけて放たれた衝撃波で、地面をゴッソリと抉られる。

 私は、半分だけ笑う。


「いや別に、半殺しならできますよ。」

「「「ひ」」」

「あのさ、君らさ。」

「なんだよ、じいさ、ん?え、ヒト?」

「あのさ、あれだよ。諦めなよ。」

「なんだよ、諦めるって。」


 普段見慣れたツナギではなく(ツナギ姿でも顔は見えなかったが)、ボロボロのローブ姿の魔王様に、彼らは気付いていないのだろう。


「わしはもう諦めたよ。」

「ワレも諦めたナリよ!」

「だから何を……ああ、もう、なんなんだよ……」

「まあさ。」


 ぽん、と肩に置かれた手。

「(あ、やわらかい。そして丸い……丸い?)」

「ここらでゴロついてても、そのうちあそこの、君らみたいな崩れじゃない、商会牛耳ってる連中に目をつけられたら、どうにもならなくなるじゃない。コートーアなら、知ってるでしょ、ヤリバリの連中がどうなったか、さ。」

「ちょ、じいさん、なんで知ってるんだ?ヤリバリのことは、うちらの身内でも、殆ど……って、あれ!?あんた、廃墟の魔王か!」

「そうだよ、まぁ、こっちに出てきたのは最近だけどね。」

「ワレは一週間前くらいナリよ!」

「ワガハイ君、君のことは誰も聞いてないですよ。」

「ワレだけノケモノ!つまらないナリよ〜」

「はい、はい、じゃあ、そっちの金属片を線に沿って切断する遊びでもしててくださいね。」

「も〜ナリ〜も〜ナリ〜」


 ワガハイ君に金属加工の仕事を押し付けているうちに、なんだか魔王様とチンピラ連中が仲良くなっていた。


「だからさ、わしらが一緒に入れば、少なくとも手はだしてこないよ。あとは、砂理井さんの要求は凄いけど、無理難題ってほどではないし、まぁ、悪いようにはしないよ。」

「魔王様がそう言うなら、じゃあ、他の連中にも声をかけますわ。」

「うん、頼むよ。砂理井さん、これでいいかな?」

「魔王様の癖に生意気だぞ。」

「!!!」


 ん?いつもの感じ、と少し違う。何か、とても古い記憶を思い出したような、懐かしさと切なさと、苦々しさが同時に溢れ出したような気配。


「なんでもいいです。ここを拠点に、スラムを変えていきますよ。魔王様。」

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