第3話 本当は満月みたいだって思った
あー、いたい
ありがとうございます。
いや、いや、わしが悪いんよ。というか、お兄ちゃんも、小指痛そやね。なんかごめんね。
そうかそうか、いや、まぁ、ね。あとで酒でも奢るよ。金ないけど。
え?ああ、いいの?それは助かるけど。
じゃあ、そう、彼女に会ったところから、ね。
いやぁ、それだと、ちょっとわかりにくいかね。
まぁ、わしぁなんやかんやあって、いやほんとなんやかんやあって、もうずうっと、あそこに居たんだけどね。
いや、それはちょっとわからない。数えてないから。
うん、ほら、子供らが迷って入ってきたり、狩人に撃たれたりしたり、そこそこコミュニケーションはあったんだけどね。
それでもまぁ、同じニンゲンと話すことは滅多になかったからね。
ううん?ああ、この服、そうか、この辺のにゃツナギしか見せてなかったものな。
これ自体は、砂理井ちゃんが用意してくれたものでね。
そう、それまでは、とってきた獣の革とかで服作っててね。そこらへんわし器用、あ!砂理井さんのことちゃん付で呼んでるのは記事にしないでね、これ約束ね。じゃないと、お兄さんみたいに綺麗に折られるんじゃなくて、なんかこう、すっごい嫌な折られ方するからさぁ。
へへ、ありがとう。なんだか、いいね、こういうの。そうでもない?
そうでもないか。。。まぁ、そう、だね。
ああ、ええと、どこまで話した?
ああ、ほとんど話してないな。
そう、まぁ、ズボラな生活を送っていたわけよ。毛皮も、縫い合わせるのは得意だけど、ほらノミとかダニとか、それこそ鞣しも適当でね。火炎術で適当にやってたら、まぁ、すぐに駄目になっちゃってねってそんなことはいいか。
そんなこんなで、いつのどおり城でぼおっとしてたら、
え?城、城だよね。え〜?城だよ、ちょっと崩れかけてるというか崩れてるけど。
うん、まぁ、そういうことにしておいて。じゃないと、わし困っちゃうから。
ほいでまぁ、なんか、入り口蹴っ飛ばして入ってくる、若いオナゴがきたわけよ。
あ、これ死ぬな、って思ったね。
うん、いや、だって、見た目はぼろっちい門、
そうよ、木でつくったって門は門、魔王城の門だからさ、強度としては、ほれ、中央に式典用の裏口門ってあるじゃろ。あれくらいかったいわけよ。
それ一発で蹴り壊すとか、ちょっとないよね。
そうそう、アダマンタイトの。あれってさ、ああいう鉱石があるわけじゃなくて、合金でさ、今でこそ採掘できるけど、そもそもは昔の実験で、
え?ああ、話ずれたね、ごめんね鉱石とか材質の話になると熱はいっちゃうからさ。
それでさ、うわぁもう死ぬかと。えーと。
鍛冶好きだけに熱入っちゃう!なんちゃって!
え、え?あ、面白くなかった?昔はよくウケたんだけどなぁ。
あー、はい、それで、あーこれしぬーって思って。でも、待てども待てども、何もしてこないわけよ。
そいだから聞いたわけよ。
どちらさまですか。って。
そしたら。
砂理井と申します。魔法使いです。あなたは?って。
そしたらしょうがないじゃない。
フンベルトです。昔の仲間からはベンキって呼ばれてます。魔王です。って。
え?いや、なんでかな。誰が言い始めたかわからないけど、フンベルトって言いにくいかね?
まぁ、ベンキの方が言いやすいやね。自分でもそう思うよ。
それでね、魔王なんですか、どんな悪いことをしているんですか、って。
だから、いや、特に、って。
そうしたらさ、なんかこう、右足をどん!ってしたわけ。砂理井ちゃんが。ちゃんじゃない。
そしたら、もう冗談みたいに、掘っ立て小屋にヒビが入るわけよ。掘っ立て小屋じゃないし魔王城だけど。すごい硬い掘っ立て小屋なのに。いや掘っ立て小屋じゃないけど。
いや、困るじゃない、寝泊まりしてたし愛着もあるし、掘っ立て小屋、ああ、もういいや、あの掘っ立て小屋壊されたら、ほんとに困るのよね。死んじゃうから。魔王だからね。
そうそう、魔王ってさ、こう、色々なもんに紐づけされててさ。条件が揃うとさっくり死んじゃうのね。逆にいうと、条件が揃わないと死なないんだけど。
あー、教えてもいいけど、いや、よくないけど、何にしても口には出せないんだけどね。禁則事項だから。
あ、ごめんごめん。
それで、今みたいなことを、この人生で多分一番早口でしゃべったね。いやほんと怖くて。
納得、はいってない顔だったけど、それでも、じゃあ話してみなさい、どんな悪いことしたのか、してないなら、なんでしてないのかって。
うん。だから、こう答えたのさ。もう疲れちゃったんだ、って。殺すのも殺されるのも、命令するのもされるのも。もう。
友達もみんな、先に逝ってしまったしね。かといって、自分じゃ死ねないしね。あ、死ねない、死ね!って意味じゃないからね。
あはは、そうだよね。わし、なんかこう、そういう言葉遊びみたいなの好きなんだよね。
ああ、それで、色々と話たんだよね。
うーん、結局、今思えば、やっぱり寂しかったんだと思う。やっぱり、ヒトと話してないとさ、心が腐るっていうかさ。
それから、どれくらい話してたかなぁ、色々と、お兄さんには悪いけど、あまり、お兄さんには話したくない昔話とかもたくさん。
喉が乾くし、唇から血は出るし、あー今息臭いかなぁとか、ちょっと不安だったけど、それでも止められずに、ずうっとずうっと、話して、そしたら。
ああ、そうしたら、あ、これでもう終わってもいいなぁって。なんとなくだけど、この子、きっとわしのこと殺せるんだろうなぁって思ったから、ほっとしたの。
そう、ほっと。いやぁ、死ぬのが怖い、ってのはわかりやすいけど、死なないのも怖いもんだよ。ほんと。
それでさ、なんかこう、穏やかになっていたら、急に、それまで3mくらい離れてた彼女が近づいてきて、もう目の前にいるわけよ。
わしもう口ぎゅってしたね。絶対臭いだろうし、いや、なんか殺されるのはいいけどこの魔王口臭いなぁって思われたくなくてさ。
うん、不思議よね。それでさ、彼女いうんよ。
私なら、誰よりもあなたをうまく使える。
これから、一緒に、世界征服をしませんか、って。
そう、世界征服。一度は捨てた夢、ってわけでもなくてね?そもそもわしらの存在って、って、それを君にいうても意味はないか。
要するに、寝耳に水、ってやつよ。
え?メジャーなコトワザだって砂理井ちゃんが言ってたけど。騙されたかなぁ。でも寝てる最中に水垂らされたら絶対びっくりするじゃない。
それもそうだねぇ。
ま、ま、とにかく、びっくりしちゃって。もうほんとびっくりしちゃって、はい、って言っちゃったのよね。
そう、そう。はい、って。
そしたら、もう契約されてて。
そうなの。記述式じゃなくて、浸透式のふるーい契約呪文。そんなの久しぶりに見たから、それもびっくりして。
で、びっくりして、今に至るっていう。
うん。でもさ。できそうじゃない、世界征服。彼女となら。
あっはっははは、ね、いやぁ、ね。はっはっはは。
え?印象?びっくり以外で?
うーん。
そうだね。
でっかいゲンコツかな。すごいでっかい奴。水玉模様の。
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