第2話 かつて花だったもの

ええ、はい。このまま話せばいいのですか?


そうですか。いえ、インタビューは魔王様が先だと聞いていたもので。


ああ、はい、急にゴネ始めたのですね。それは、申し訳ありませんでした。


いえ、いえいえ、これが終わり次第、叱りつけてこちらに。


はい?ああ、あまり気になさらず。言葉の綾です。


はい。では、そうですね、この活動の、

はい?私の過去、ですか。そういったことは、質問表にはなかったかと。


そこでゴネ始めた、と。そうですか。では、私も話さないとなると、アレは調子に乗りますね。


言葉の綾です。よ?


いえ、怒ってはいませんし、怒っていたら腕の一本でももらっています。


はは、これは、冗談です。まだ。

そう、ですね。まず私の出身から。あまりこの辺りには無い名前ですからね。

ここからかなり遠くなります。


ええ。そうですね、海は超えますし、この国と国交があるわけではないですから。

私が居た国は、こちらよりも工業的に進歩していまして。緑が少なく、工房が多い。

私はあまりそれに馴染めなかったものですから、ずっと旅をしていました。


あまり、年齢の事を、そうストレートに聞くのは感心しませんね。蓄積2です。


ああ、これが5単位で積み上がると、躊躇なく指を折らせて頂きます。


はは。これは冗談じゃないですよ。

まぁしかし、そうですね、実年齢よりも若く見られることが多いです。旅は、とても長かったですから。

旅を始めた頃は、私も若く、理想に燃えていました。花盛り、とでも言いましょうか。


ああ、あまりこういう言い方はしないのですね。

ともかく、旅の道中、あまり良いことはありませんでした。そこで、大分、私という人格は冷めてしまったのだと、思います。

ですから、こちらに着いたときも、さっして期待していなかったのです。実際、周辺地域と政治的な部分では大差なく、目立った特産品もありませんでしたしね。


ええ、そうです。魅力的だと思ったことは、いえ、それでも治安は悪くない、その部分はだいぶましですね、西側諸国よりは。


はい。普段でしたら、そのまま通り過ぎる、特に観光する趣味もありませんしね、通り過ぎようとしたら。あったわけです。あの、古城、


ええ、ええ、あれは古城なのですよ。図書館に資料が残っていますよ、是非、読んでみてください。地下の保存用倉庫の右3列目あたりにまとまっています。中でもわかりやすいの、そうですね、題名が“度を越した悲劇は喜劇に見えることがある”という戯曲の解釈本です。


いえ、大真面目にかかれているもので、内容はわかりやすく、地図やイラストも使われている、当時、恐らく60年ほど前の書籍ですが、当時としては画期的なものでしょう。同年代の書籍も見てみましたが、あまりに読みづらい。


ふふ、そうですね、書籍のこととなると、少し熱くなる性分でして。

まぁ、そうですね、旅に疲れていたのは、実際そうなのでしょう。宿をとって、一息ついたところで寝てしまって。起きたら、まだ薄闇の時間。そのまま出立するにも、少々早すぎて。しかし寝すぎてしまったため、じゃあ、少し散歩しようかと。


よくわかりましたね。この取材も、もしかして女将さんが?


なるほど、合点がいきました。

そうです。中央からは離れていましたが、湧き水近くで料理の評判も悪くない、女将さんの声が大きいのと、名前が“馬鹿力引き引き亭”なんていうキチ、、、失礼、きっちりしていない名前というところを除けば、静かでゆったりできるところです。


そうなのですか?ああ、いえ、母国語ではないですからね、私の翻訳ミスでしょう。失礼しました。

まだ朝晩は寒さの残る季節、朝の仕込みをしていた女将さんからローブを借りて、おすすめだという、近くの湖まで向かうことにしました。

しかし、寝ぼけていたのもあり、まぁ、当然土地勘もなかったですからね。迷ったわけです。


ええ、居ましたよ盗賊。居ました。


ええ、そうです。居ました。

まぁそれで、薄闇も晴れて、日が昇り始めて、そうすると森がとても綺麗で。ぶらぶらと歩いていると、湖が見える、三頭山の中腹にでたのです。

そこに、あの、


ふふ、そうです、掘っ立て小屋があって。石垣も残っていたので、こう、すごく違和感があって。


まぁ、特に怖いものは無いですからね私。

そこで、出会ったのです。

なんというかもう、どうしようもない、薄汚れたタヌキの化物みたいなのに。

それでも、いえ本当に何故そう思ったのか不思議なんですが。こう、感じたのです。

このタヌキ、きっと、元々はとても綺麗な、この薄闇が晴れた森のように透き通った、綺麗な花だったんだろうな、って。

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