「箸落とし」
二階の箸に埋もれた二十畳ほどの部屋。
窓が閉まっているはずなのに、中を暖かな風が吹き抜けていく。
そして、真弓は気づく。
部屋に隙間なく積まれた箸の山。
その山が少しずつ、少しずつ動いている。
まるで流砂のようにそれは部屋の中心部へと集まっていく。
「箸を落として。」
おばあさんの言葉に、目の前の光景に見とれていた真弓は
慌てて箸入れから箸を取り出し、山の中に放り込む。
おばあさんも同じように数本の箸を放り込み、
箸は流れる山の中へと吸い込まれるようにして落ちていった。
箸の山の流れはますます勢いを増し、中心部に渦のような穴が開く。
穴の向こうへと箸はジャラジャラと音を立てながら流れ込んでいき、
真弓は吹きすさぶ風の中に春の匂いを感じ取った。
その時、穴の中から人の声が聞こえた。
「やあ、橋がかかったぞ。」
「やれ、本当だ。」
「助かった、助かった。」
「これで向こうに渡れる…」
…はて、これは?
そう思った時、ジャラリと音がして箸の山は崩れ去った。
後には、半分以下になった箸の残骸と、ようやく見えた畳のヘリがあった。
「…終わりましたね、さあ、帰りましょう。」
気がつけば、先ほどのおばあさんが嬉しそうな顔をして微笑んでいる。
真弓も何が何だかわからないままも、小さくうなずく。
そして、おばあさんにうながされるまま、真弓は「箸の家」を後にした…
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