「決め事」

「…まあ、ここまでのところ確かに普通だったな。」


そう言うと、風呂から上がった大輔はバスタオルで髪を拭く。

翔太も充もすでに風呂から上がっていたので広い座敷で布団に寝転がって漫画を読んだりノートに何か書き付けたりしている。


「うーん…一応、日々子さんから『あの人』の単語が出る場面を随時メモして

 みたんだけどさ、食事の前に『「あの人」に感謝しなきゃ』とか、お風呂の

 順番の時に『私は最後でいいです。「あの人」もきっとそう思っていますよ。』

 とか、とにかく生活に密着した形で使っている気がするよ。」


充の話を聞いた翔太が、コロンと転がって漫画本を閉じた。


「ま、いいんじゃね?飯はうまかったし、それに日々子さんも言ってたじゃん。

 『夜は早めに寝てください。でないと「あの人」が見にきますよ』って、

 子供に向かって言うセリフみたいだけど、何か説得力あると思わね?」


すると、その言葉を聞いて充はパタンとノートを閉じた。


「そういえば、この村に来るまで子供って見た?

 夏休みなら親子連れで来ていてもおかしくはないはずなんだけど。」


その言葉に、大輔も翔太も顔を見合わす。


「確かに、見てないかも。バスで来る時にジジババしかいなかった気がする。」

「そういえば、中年世代とか俺たちくらいの人間もいなかったような…」


きゃはは、 きゃはは、 きゃははは、


その時、閉められた障子の向こう。窓の向こうから遠い声がした。

同時にガサガサと何かが近づいて来る音もする。


「え、ちょっと。何かいるのか?」慌てたように障子を見る大輔。

「怖くなってきたから先寝るよ。」ノートを放り出し、慌てて布団をかぶる充。

「いやー、きっと俺たちがさっき言っていた子供っしょ。」障子を開ける翔太。


きゃはは、 きゃははは、 ぎゃははははは! バンッ!


大輔はギョッとして翔太の方を見る。


…翔太は窓に手をやっていた。

その手に合わさるかのように、一回り大きな手の跡が窓の向こうについていた。


「おい、翔太…大丈夫か?」


大輔は起き出した充とともに恐る恐る聞いた。

すると、翔太は静かに障子を閉め、どこか放心したようにこう言った。


「俺、わかったかもしれない『あの人』が何なのか…」


その言葉に大輔と充は顔を見合わせ、

ともかく寝ようということで、全員で布団に入ることにした…




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る