「見送り」

朝、大輔が目をさますと、笑い声とともにハサミを使う音が聞こえた。


障子を開けるとそこは縁側で、向こうの畑で二人の人間が楽しそうに

話をしながら夏野菜を収穫している。


一人はこの家の主である日々子さん。

そして、農家スタイルで慣れた手つきでトマトを収穫しているもう一人は…


「翔太、何やっているんだよ。」


パジャマの充が必死に眼鏡をかけ直しながら畑にいる翔太に声を掛ける。

すると今日まで土いじりなんてしたこともなかったはずの翔太は、

鼻に泥を付けながら、こちらに向かって笑いかけた。


「いや、『あの人』が見ているから。俺、こうやって仕事をしているんだよ。」


翔太はそう言うと嬉しそうに農作業に戻る。

日々子さんもその様子に大きくうなずき、収穫したトマトをカゴに移す。


その様子に、大輔と充は顔を見合わせた。



そして2時間後。

大輔と充はバスに揺られていた。


…朝食後、翔太はこの村に残ると言った。


「俺、『あの人』に見られているからさ、ここにいなきゃいけないんだ。

 これからはこの村の人たちと同じ『あの人』のために生きることにするよ。」


日々子さんと翔太の笑顔に見送られ、大輔と充はバスに乗った。

バスの車窓から外を見ると…村の人たちだろうか、翔太の周りに老人たちが

集まり、何やら楽しげに話をしているのが見えた。


充の察した通り、そこに翔太を除く若い世代や中高年の姿はない。

そこは、翔太が来るまで老人だけしかいなかった村であり、

今も『あの人』に見られている村で…


その時、窓の外を見ながら充がポツリと言った。

「怖いな。あの人たちの笑顔、全く同じ顔に見えるよ…」


その時、満面の笑みでこちらを見つめる村人たちが大輔の目に映った…

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