「境」

悲鳴、怒号、パニック、村から上がる様々な声を聞きながら

貞治と剛は必死にバイクを走らせる。


どうしてこうなったのか、何がいけなかったのか。

そんなことはわかりきっている。


自分たちが入ってはいけない場所に行ったのだ。

あの獣の縄張りに入ってしまったのだ。

ゆえにこうして怒りをかっている。


…だが、生きたい。こんなことでは死にたくない。


二人のバイクはすでに村を離れ、田んぼ道を走っていた。

目の前に信号が見え、そこを曲がれば馴染みの街へと出る。


街へ出れば被害が拡大するかもしれない、でも、ここで捕まれば…

二人は必死にカーブを曲がり…と、そこで貞治は気づく。


不意に、相手が動きを止めたことに。

角を曲がってこようとしないことに。


「え?なんで?」


貞治はスピードを緩めバイクを停める。

剛もバイクを停めて後ろの光景に見入っている。


巨大な廃棄物の塊。冷蔵庫や信号機、テレビやコードに絡まった獣は動かない。


何かに阻まれているかのように動かない。

その道の端には小さな石碑があり…


「あ…境界線、『道きり』か。」


剛の言葉に合わせるかのように獣は廃棄物のあいだをくぐり抜ける。

積み重なったゴミはその場で崩れ、石碑もゴミの中に半ば埋もれる。


そして白銀の毛を持つ獣は一つ体を震わせると、

二人に襲いかかるでもなく貞治と剛の顔をじっと見つめた後、

山へと引き返して行った…

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