「遭遇」

「…しょうがねえ、バイクはここに置いていこう。」


そう言いながらも、剛は未練たらしく停めたバイクをスマホで自撮りする。


どうやらここから先は道も舗装されていないようで、

草に埋もれるようにして獣道が斜面の上に向かって伸びていた。


その先は歩きで、剛はスマホと道を交互に見比べながら、

貞治は汗を拭きながらひたすら道無き道を進んで行く。


「…あと数分で目的地に着くみたいだ。」


すでに30分は獣道を歩いていた。周囲には鬱蒼とした木々が広がり、

足元の草を踏むたびに名前も知らないような羽虫がうわっと舞い上がった。


そんな羽虫を振り払っているとき、貞治は気づく。


近くの木に何かが張り付けられていた。

それは一匹のヤマネ、樹木の真ん中にボロボロになったヤマネが死んでいる。


誰の仕業か、長い長い木の枝に串刺しにされ、

枝の先端には人の腕の長さはあろうかという銀色の長い毛がぶら下がっていた。


「お、おい見ろよ…。」


剛の声に周囲を見渡し…貞治は知る。

二人の周りの木々、その大部分に枝によって串刺しにされた動物がいた。

鳥も獣も関係ない。皆、樹木の真ん中に串刺しにされている。


…マーキング


動物のドキュメンタリー番組を頻繁に見ていたためか、

貞治の頭にそんな言葉が浮かんだ。


野生動物が縄張りを主張するとき何かしらの目印を残す。

これもその一種のように見えた。


しかしこの銀色の毛は何だ?

こんな毛を持つ生き物はこれまで一度も見たことはない。

…そして顔を上げたとき、斜面の向こう側で貞治は見た。


そこに銀色の長い毛を持つイノシシのような生き物がいた。


鹿のような左右の長い角を持ち、片方には今しがた殺したばかりと思われる

鳥の死骸がぶら下がっていた。しかし、その顔が異質だった。


…それは人の顔。赤い目を持つ人としか思われぬ顔がそこにはあった。

その両目は貞治と剛をじっと見つめている。


「あ、うわ…あ…。」


気がつくと剛が声をあげ、後ろを向いて駆け出していた。

貞治もこのままでは危ないと気づき、慌てて相手に背を向ける。


その時、背後で声がした。

悲鳴とも人の歓喜の雄叫びともつかぬ声。


そして何かが迫ってくる音が背後から聞こえた…

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