ミラクルプリティーズの謎

 家に帰った俺は自室のパソコンの前で作業をしていた。今日、ビデオカメラに収めたミラクルプリティーズの映像を改めて確認するためだ。


「我ながら完璧なアングルだな。顔もバッチリ映ってる」


 タタタタッ、とキーボードを打ち込み、パソコンに読み込ませたビデオカメラの映像を確認しながら、ミラクルプリティーズについての情報をまとめていく。


 時計の針は夜中の一時十分を指しているが、俺は眠るどころか新たな情報を手にした興奮から逆に目が冴えていた。


「よし、こんなもんだろ」


 今日まで手に入れた情報を整理し、ミラクルプリティーズ専用に作成したフォルダが更新される。一息ついた所で凝り固まった体を伸ばすと、また画面に目を向けた。


「う~ん……」


 画面にはアップの状態でミラクルプリティーズ四人の顔が映し出されており、俺はそれをじっくり眺めている。

 

 プリティーピンク。

 プリティーブルー。

 プリティーグリーン。

 プリティーパープル。


 必殺技を繰り出す際や敵の攻撃を避けようと慌てる表情と、戦闘中に収めた様々な顔がある。そんな顔を眺めている内に、俺は以前から抱いていた結論を口にした。


「……やっぱどう見てもあいつらだよな~」


 四人の顔は見覚えのある顔だった。それもつい最近、というか今日も目撃している。その人物とは、俺の通う学校の同級生四人だ。


 二年一組、金居桃子かないももこ

 二年三組、倉瀬川青葉くらせがわあおば

 二年四組、皆見澤翠杞みなみさわみどりこ

 二年三組、浜村紫音はまむらしおん


 パソコンの画面に映る四人のミラクルプリティーズの顔は、今挙げた四人の顔とそっくりなのだ。他人の空似レベルではなく、双子の姉妹がいるとかの話がない限り、どこからどう見ても明らかに同一人物。もし百人に訊ねたとしても、百人が同じ人間だと答えるだろう。それぐらいにミラクルプリティーズと四人は似ているのだ。


「髪型は変身しているからか学校にいる時とは違うけど、顔の輪郭、目や口や鼻の形から判断すれば間違いないよな」


 ドラマで警察の科学捜査班が、パソコンに容疑者の顔を表示させ隣のテレビで防犯カメラに映った人物との顔認証を行い、合致するかどうかを調べているシーンなんかを観たことがある。これまで調べたミラクルプリティーズの情報が入ったこのUSBを警察に持っていけば、その科学捜査で真実を導いてくれるまろうが、たかが中学生一人の頼みを警察が素直に受けてくれるわけもない。それに、他人に任せるより自分だけで最後までやり通す方が面白いし達成感が違うだろう。


 新聞部としては今手元にある情報だけでも十分に面白い内容の記事が作れる。『ミラクルプリティーズ、またまた活躍!』とでも銘打っておけば大半の生徒が目を向けるだろうし、読者が付けば新聞部としても大変嬉しい。だが、俺にとってそんな内容では物足りない。やはり誰もが知らない情報を提示することこそスクープであり、それに当てはまるのはミラクルプリティーズの正体だ。


 ミラクルプリティーズに似ているのだから『プリティーピンクは金居桃子だった!?』と表題を付けて公開しても良いように思えるが、それは間違いだ。SNSといったものを始めとし、ネット上で曖昧な情報、根拠のない内容を公開すると炎上しかねない世の中になっている。ホンの些細な発言が大事に繋がりかねないし、情報公開には慎重にならなければならないだろう。一歩間違えば俺に火が回ってしまうのだから。


 ミラクルプリティーズは金居達四人に似ているというだけで、まだ本人である決定的な証拠は掴んでいない。戦闘中に互いを本名で呼び合ったりしてくれるのを期待したが、今日もそれはなし。いまだ「コレ!」という情報が手に入らないのだ。


「まあ、それはまたこれから取材して行けば手に入るだろう。スクープに焦りは禁物だ」


 情報欲しさに過度な行動は命取りだ。今日も俺が隠れながら問題なくビデオに収められたのは、いまだにミラクルプリティーズに俺の存在が気付かれていないからだ。もし知られてしまえば、二度と情報が手に入らなくなるかもしれない。一に忍耐、二に忍耐、三四がなくて五にゲット、がジャーナリストの心得だ。


「それより、あと二つ気になる方を考えてみた方がいいだろうな」


 これは最初に出会った時から抱いている疑問。その一つは彼女達の技だ。


 これまで観たことのある魔法少女アニメでは、そのキャラ達の色に合わせた技が基本だったように思える。例えば、赤い魔法少女なら火系の魔法を使い、黄色なら電撃系の魔法を使う、といった感じだ。


 しかし、ミラクルプリティーズは違う。今日の調査でも見たことだが、プリティーピンクは紫のバラの蔓を操り、プリティーグリーンは魔力を宿したパンチ、プリティーパープルは電撃を操っていた。プリティーブルーだけは色の通り、水系の技を発動させていたが。


「あのカラーなら、普通ピンクがパンチとかキックじゃないの? 敵にとどめを差すのも主人公の立ち位置のピンクなのに、何でグリーンなんだ? パープルはまあ紫電なんて言葉があるのだから分からんでもないが、だったら紫のバラの蔓は何なんだ? 何でそれがピンクの技なの?」


 所詮はアニメから得た知識であり、架空の物語を基準にするのもどうかと自分でも思うが、一度気になってしまうと中々頭から離れないのが人の性。アニメとは違う現実の魔法少女の世界には、もしかしたら俺の知らない法則や事情があるのかもしれない。となればそれも解明、公開する対象ではあるが、当然教えてくれる人間がいるわけでもないので知識も得られず、いまだに未解決のままだ。


 そしてもう一つ。実はこれが一番頭を悩ませている問題だ。その内容は……。


「……ぜんっぜん性格違ぇんだよな~」


 そう。魔法少女になった金居達の性格がまったく合っていないのだ。ミラクルプリティーズに人物を当てはめると以下になる。


 金居桃子→プリティーピンク

 倉瀬川青葉→プリティーブルー

 皆見澤翠杞→プリティーグリーン

 浜村紫音→プリティーパープル


 となる。名は体を表すというように彼女達の名前には色が含まれ、そのままの色の魔法少女に変身している。それは間違いないのだ。プリティーピンクに「お前は金居桃子だな?」と質問して「何で気付いたの!?」と言われたとしても、いや何でそれでバレないと思った? と逆に聞き返すぐらい。


 だが、金居達はミラクルプリティーズになるとなぜか性格がガラッ、と変わるのだ。まずは金居桃子からおさらいしてみよう。


 【金居桃子】活発な明るい女の子。誰とでも分け隔てなく接し、いつも笑顔に溢れている女の子だ。少し天然な所もあり、言うならば魔法少女アニメの主人公をそのまま引っ張ってきたような性格である。


 【倉瀬川青葉】男勝りな女の子。運動神経が高くスポーツ万能。男の子相手でも互角に戦え、カッコイイと評判で男の子よりも女の子から人気を集めている。その反面勉強はからっきし。


 【皆見澤翠杞】学年委員長を務める真面目な女の子。円い赤眼鏡を掛けているのがチャームポイントで、挨拶や規則に厳しい性格の持ち主。廊下を走ろうものなら注意やお叱りの声を撒き散らし、説教の嵐だ。その姿から周りからは同い年のお姉さん、なんて呼ばれている。


 【浜村紫音】お嬢様の雰囲気を漂わせる女の子。あまり自分から交流する性格ではないが、立ち振舞いや喋り方が気品ある振る舞いで、髪を撫でるだけの動作でも一際目立つ。クラスのただの机と椅子も、浜村が座ればそこは豪華なお城の来賓室のような錯覚を起こすこともしばしば。


 以上が俺が集めた金居達の性格。それぞれ全く違う性格であり、区別も付きやすい。だが、ミラクルプリティーズの彼女達は違った。


 プリティーピンクになった金居は冷静沈着。的確な観察と指示を他のプリティーにする司令塔のような立ち位置。


 プリティーブルーになった倉瀬川は無駄な行動はせず随時必要な行動をし、男勝りな性格とは逆に寡黙な表情でいつも戦っている。


 プリティーグリーンの皆見澤は猪突猛進。我先にと果敢に攻め込み、逆に事態を悪化させてしまった事も何度かあった。


 プリティーパープルの浜村はめちゃくちゃ明るい性格になる。お嬢様の雰囲気が嘘のように喜怒哀楽が激しく、普段見せない笑顔が盛り沢山。


「何なのあれ? 学校にいる時と別人じゃねぇか。それとも、本当はあれが本性なのか?」


 他人の前で素直になれない人間も世の中にはたくさんいる。だが、四人はそれに当てはまらないと思うのだ。普段から全開にさらけ出しているだろうし、むしろあれが仮の姿だというならハリウッドに行ける名女優レベルだろう。


 あと考えられるのは、魔法少女になったことで新たな境地を開いたか、だ。イベント等でアニメキャラのコスチュームに着替えるコスプレイヤーなる者がいるが、日常は地味で暗い性格の女の子がそのコスプレをすると明るい性格に変わるというのも聞いたことがある。もしやそれかと考えてみたが、やはりイマイチしっくりこないのだ。


「もしかして……ミラクルプリティーズは金居達じゃないのか?」


 

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