魔法少女も楽じゃない!

桐華江漢

特大スクープ

 俺の名前は加賀山稔かがやまみのる浅世川あさせがわ中学に通う二年生だ。イケメンではないが、かといってブサイクでもない顔つきで、太ってもなければ華奢でもない。髪だって染めずに黒のままの短髪。どこにでもいるだろう男子中学生だ。


 中学生ともなると面白いヤツ、スポーツが出来るヤツ、色んな知識を持ち合わせている博識なヤツと、何かしら特出している人間が人気を集めているが、俺にはそれに当てはまる分野はない。クラスの半数は女子であるにも関わらず、彼女がいるどころか異性と話す機会すらほとんどない。というか緊張する。


 まあ、思春期に入る年頃で異性を意識してしまうのだから自然の摂理とも言えるだろう。俺が好んで読んだりしているラノベには学園ものの作品が多く存在するが、読む度に「あんな簡単に異性と触れ合ってる主人公なんなの?」といつも思う。あの分け隔てなく出来るコミュニケーション力を是非ともご教授してもらいたい……おっと、こんな事を考えている暇はないんだった。


 先程、俺には何も持ち合わせていないと言ったが、唯一自慢できるものがある。それは、真実を追い求める熱意と根性だ。


 小学生の頃に観たアニメで、スクープを求める新聞部の男の子が調査中に事件と遭遇し解決する探偵アニメがあった。俺はそのアニメに完全に没頭し、新聞部としての情報収集力に華麗なる観察眼を駆使する男の子に憧れたのだ。探偵役の男の子を真似するように図書館やネットで調べものをする内に、何かを知る、誰もが知らない情報を一番に得る事に快感を覚え始め、それが興じて今では中学の新聞部に所属している。


 スクープを求めるためならどんな苦難の中にも飛び込む覚悟があり、そしてそれは今も現在実行中だ。


「セェェェイヤァァァァァァ!」


 俺の目線の先で、空中に浮かぶ一人の女の子が高々と叫びながら大きなロボに向かってパンチを繰り出していた。


「ちょっとプリティーグリーン! 力任せに攻撃しないで!」

「ええ~? そんなこと言ったって私の攻撃は物理攻撃が主流なんだよ、プリティーピンク?」

「だったら倒す方向も考えて! あっちは――」

「ぎゃあ! 銀行が潰れちゃう!」

「だから言ったでしょうが!」

「あ~あ、まったく……プリティーブルー、頼む」

「お任せください、プリティーパープル。シャボン・シールド!」


 プリティーブルーが手を銀行に向かって振りかざすと、銀行の前に大きな水の膜のようなシールドが発生。巨大ロボがその上に乗ると反発して道路に倒れ、銀行は潰れるのを免れた。


「ふぅ~。ありがとう、プリティーブルー!」

「問題ありません」

「しかし、今日の敵は強いな。プリティーグリーンのパンチで壊れないなんて」

「どうやら、物理攻撃に強い耐性を持っているみたいですね」


 上空で倒れたロボを見下ろしながらピンク、ブルー、パープル、グリーンのコスチュームに身を包んだ女の子四人が話し合っていた。


 彼女達四人はミラクルプリティーズ。日本を脅かすゲルト団と呼ばれる悪の組織と戦う正義の味方だ。今戦っている巨大ロボはそのゲルト団が送り出したもの。


 フリフリの付いた派手な衣装で戦う魔法少女アニメとかでよく見られるが、まさにあれだ。ゲルト団が現れるとどこからともなく彼女達四人も現れ、人々を守りながら戦っている。日曜の朝に似たようなアニメが放送されているが、まさかこの現実でも存在するとは思わなかった。


 だがしかし、これはとんでもないスクープではないか? と俺の心が叫んだのだ。現実にはいないはずの魔法少女が現れた。宙に浮き、その華奢な体からは信じられないパワーを発揮し、あらゆる属性の魔法を自らの意思で繰り出す。特大スクープ中の特大スクープだろう。


 そう思った俺は初めて目にした時から彼女達を追っており、今日で五回目の遭遇だ。本当はそれ以上にミラクルプリティーズは戦いをしていたが、その時間や場所でタイミングが合わないこともしばしば。だから、数少ないこのチャンスを逃すわけにはいかず、今もこうしてビルの陰に身を潜めつつこの愛用のビデオカメラで捉えているのだ。


「う~ん、たしかにさっき殴った時はスゴく固かった」

「となると、他の攻撃手段を選ぶべきですね」

「相手は機械だから、電撃とかどうですか?」

「となると、ボクの出番だな!」

「待ってください、プリティーパープル。あなたの攻撃は広範囲過ぎます。巻き添えを招いてしまいます」

「ええ~? ボクもプリティーグリーンみたいに思いっきり暴れたい~」

「暴れてどうするんですか。敵を倒せても周りに被害があっては意味がないでしょう」

「だったら、被害が出る前に倒しちゃえばいいんでしょ?」

「それはそうですが……ああ! プリティーパープル!?」


 何やら作戦を話し合っていたようだが、プリティーパープルが一人で巨大ロボに向かって飛び出した。


「いっくよ~! エレキ・バースト!」


 両手を頭上に上げると、そこにバチバチッ、と電気を走らせた玉が現れた。プリティーパープルはそれをロボに向かって放つ。


「ロボォォォォォ!」

「おわっ!」

「きゃっ!」

「あぶないっ!」


 プリティーパープルの攻撃を食らったロボは、激しい電気を受けながら悲鳴を上げたが、電気が枝分かれするようにあちこちに延びて……って、こっちにも来たぁぁぁぁ!。


「よし、効いた!」

「効いた、じゃないわ! こっちにも電気が飛んできたわ!」

「えっ? あ、ごめ~ん」

「ごめんちゃうわ!」

「でも、これであのロボも撃退でき――」

「いえ、まだです!」

「……ロ、ロボォォォォォ!」


 倒したと思われたロボの赤い目が光りだすと、ボディーの色も銅色から赤い色へと変化し始めた。


 これは……パワーアップというやつだな。


 バトルにおいてのお馴染みというか、敵には奥の手が隠されており、瀕死に近くなるとそれを発動させる。あのロボもその奥の手を使用したのだろう。間近で見るその光景を俺は一瞬も見逃さないようカメラを回し続ける。


「大変だよ! ロボットが真っ赤っかだ!」

「これはあれですね。パワーアッ――」

「風邪でもぶり返したのか?」

「風邪!?」

「えっ? じゃあ、あのロボットはお熱?」

「あの悪のゲルト団だからな。体調不良の部下を無理矢理働かせるブラックであってもおかしくないな」

「可哀想……」

「三人は何の話をしてるの!? 敵に同情してどうする! というか風邪違う! あれはどう見てもパワーアップしてるでしょうが!」


 敵の変化したにも関わらず、ミラクルプリティーズは余裕のようだ。あんなボケをかまして……いや、ボケじゃないな。あれはマジで言ってる。ずっと追ってる俺だからこそ分かる。


「ええい、あんた達いい加減にしろ! さっさと倒すわよ!」

「あいよ~」

「了解です」

「は~い」

「プリティーブルー、まずはあのロボの熱を下げて。あんな熱気を出していたら近付けないわ」

「イエス、マム」

「それが終わったらプリティーパープル、あなたの出番よ。もう一撃さっきの電撃を」

「なるほど、水は電気を通しやすい。しかもボディーも金属。二重にダメージを与えられるな」

「でも、制御はしてよ?」

「分かってるよ」

「そして最後にプリティーグリーン、あなたの拳で叩きのめして。ダメージを与えても動けるかもしれないから、私があのロボの動きを封じる。そこに飛び込むの」

「オッケー!」


 どうやら作戦が決まったようだ。四人は身構え、プリティーピンクの合図で一斉にロボに向かって飛んでいく。


「シャボン・シャワー!」


 プリティーブルーの魔法でロボの頭上に雨雲が発生すると、水と氷の混ざった雨が降り注ぐ。


「ロボォォォォォ!」


 急激な冷却をされたからだろう、ロボの動きが鈍る。


「お次はボクの必殺技! エレキ・バースト!」


 先程と同じ電気玉をプリティーパープルが炸裂させる。水を纏っているからか、電気はロボに集中して留まっていた。


「ローズウィップ・ホールド!」


 今度はプリティーピンク。技名を唱えると、地面から紫のバラが出るとそれに次いで無数のトゲのある大きな蔦がロボに絡み付いていった。


「今よ、プリティーグリーン!」

「ニャニャニャニャニャニャニャニャァァァ!」


 距離を取っていたプリティーグリーンが奇声を上げながらロボの中心目掛けて猛スピードで突っ込む。拳には魔を込めているのだろう、淡くグリーンの光を放っていた。


「ロ、ロボ……ロボォォォォォ!」

「ワンダフル・ブロォォォ!」


 反撃に出ようと動いたロボだったが、それよりも早くプリティーグリーンの拳が届き、その勢いのままボディーを貫いた。やられたロボは目の部分の光が無くなり、その後大爆発を起こした……って爆風ぅぅぅああああああ!


「よし、敵撃退!」

「任務完了ね」

「今日も平和を守ったぜ!」

「でも、町は少しめちゃくちゃ……」

「大丈夫っしょ。クー助がなんとかしてくれる」

「あっ、そうだよ。クー助が元に戻してくれるんだから、別に銀行を守らなくてもよかったじゃん」

「よかないわ! 後味悪くなるでしょうが!」

「お喋りはそこまでにして、そろそろ引き上げませんか?」

「えっ? あ、そうね。じゃあ皆、帰りましょ」

「了解」

「はぁ~、メロンパフェが食べたい~」


 任務を終えたミラクルプリティーズはどこかへ飛んで行った。


「……くそっ、また突き止められなかった」


 爆風で飛ばされ、道路の植木の中から這い出た俺は悔しさで拳を地面に叩きつけた。


 俺の目的はただ魔法少女の勇姿をビデオに収めるだけではない。もちろん、それもスクープではあるが、俺はさらなるスクープを求めていた。それは……。


「あいつらの正体は一体誰なんだ……」

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