第一章 冒険者 6話

 倉庫の中は様々な物や、それを入れた木箱が多数あるため歩ける場所は限られており、通路の幅は二人並ぶのが限界だった。そのため先頭をヒューバートが務め、中央が魔法使いである俺とロイド、そして背後を警戒するためレイが最後尾という隊列で進むことになった。


「物が多いな、奇襲に気を付けて進むぞ」


「「はい」」


静寂に包まれた倉庫のなかに俺達の足音だけがコツン、コツンと鳴り響く。

倉庫を半分ほど進み、木箱が左右に高く積まれている場所に差し掛かった所でヒューバートが叫んだ。


「上だ!」


釣られて上を見た俺が目にしたものは、大型の魔法兵器が飛び降りながら蟹の手のようなアームを振り下ろしている姿だった。


(避け…)


避けようと体を動かしたが到底間に合うスピードではなかった。強い衝撃を受けて俺の体は宙を舞った。


ドゴン!


地面が砕ける音が周囲に響いた。俺は後方に吹き飛ばされて木箱に背中を強かに打ち付け、その痛みで立ち上がれなくなっていた。背中の痛み以外にたいしたダメージは受けてなかった、理由は魔法兵器の攻撃が当たる前にヒューバートに蹴り飛ばされていたからだ、蹴られた場所が全く痛くないのが不思議だ。

ちょうど中央付近に落下してきた大型機によりパーティは分断されて、ヒューバートが一人孤立した状態だ。大型機を挟み込んだ状態なので、こちらが有利になると思いきや、更に頭上から小型機や外では見なかった人型の中型機が現れて、俺達に向けて攻撃を仕掛けてきた。


「この魔法兵器達は外に居た機体より強い」


「ヘンテコな見た目の割にやりやがる」


現れた魔法兵器達は所々パーツが今までの物とは異なっており、見た目は適当な部品や武器防具をつぎはぎして作られた急造品のようだったが、ヒューバートやレイ達に一方的に倒されていない様子から、確かに性能は上がっているようだった。



「オラ!オラ!オラァ!」


四本のアームが増設された大型機械はヒューバードに向けてアームを次々と叩きつける。対するヒューバートはそのアームを右足一本だけで叩き返していた。ガン!ガン!ガン!ガン!アームと蹴りがぶつかり合う轟音が周囲に鳴り響く。

 レイ達の方は幾分か苦戦していた、魔法兵器達はパーツがバラバラで機動性が低いが代わりに遠距離攻撃ができる機体が多く、近接戦闘が主体のレイはなかなか近づくことができず、ロイドも魔法で水の膜を張り防御するので手一杯で、反撃する余裕が無い。アドラはロイドの後ろで魔法に守られていることしかできない。じりじりと数に押され徐々に形成は不利になっていた。


ガン!ガン!ゴキャ!


大型機のアームとヒューバートの蹴りは、もう幾度となく激突を繰り返ていたがそれも終わりを迎えたようだった。アームの一本はすでに動かなくなっており残りの三本も動きがぎこちない。


「いくぜ!」


一気に駆け出し間合いを詰めるヒューバートに大型機は残ったアームを向けるが、機能不全に陥っているアームではとても間に合わず接近を許してしまう。そのまま大型機の懐に入り込むと、すくい上げるように蹴り上げる。


「オラァ!」


ドン!という大きな音とともに、小型の車ほどの大きさの魔法兵器が浮き上がる。そのまま後方にひっくり返るように落ちていき、他の中型の魔法兵器を巻き添えにしながら倒れこむ。


「いまだ!」


大型機が倒されたことでヒューバートに対処する機体や、大型機に巻き添えになった機体があったことで、レイ達三人に対する攻撃の勢いが目に見えて落ちた隙を見逃さず、レイは果敢に前に出た。ロイドも防ぐ攻撃が減ったことで余裕ができたのか、水弾を単発で撃ち小型機を落とす。

こうなれば後は倉庫前の戦闘とさして変わらず、次々と魔法兵器は破壊されていった。



魔法兵器の襲撃を退けて更に進んだ倉庫の奥で俺はルシアを発見した。こちらに背を向けており、小屋ほどの大きさの四角い建築物の上で何かをしていた。


「いた!」


「ルシアですか?」


レイ達は暗視ができないので、ランタンの明かりが届く範囲までしか見ることができないようだ。


「はい、四角い建築物の上で何かしてるみたいです」


「四角い建築物?…!きっとそれは遺跡の最奥に居た巨大魔法兵器です!」


「小屋ぐらいの大きさがあるように見えますけど…」


「ずいぶんでけえな、だがまだ動いていないなら今がチャンスだ、ルシアを助けるぞ」


「はい!」「…(コク)」


「俺達三人でルシアを捕まえる。アドラはその後に来い。本を準備するのを忘れるなよ」


「はい」


「いくぞ!」


駆け出した三人を見送った俺だったが、ルシアの確保は思ったよりもすぐに終わった。三人が近づいてもルシアが巨大魔法兵器の上から移動しなかったため、ロイドの水魔法で作ったロープによって縛り上げられ、簡単に捕獲されたようだった。

俺は急いで三人の元へ向かった、巨大魔法兵器が置いてある場所は他の場所と違い広かったが、様々な物が散らばっていたため足を引っかけて転ばないように走るのに苦労した。


「アドラさんお願いします」


「わかりました」


魔法で縛られたルシアに黒の本を開いて向ける。


「ワタシノサイコウケケッサク…ワタシノサイコウ…ワタシノケッサク…ワタシノ…ワケケケケケ…マリョク…ク…ガ…」


何事かを呟きながらもがいていたルシアだったが、急速に力を失っていき電池が切れたようにカクンと動かなくなる。


「ルシア!ルシア!」


「うぅ…ぅ…レイ?」


「ルシア!よかった意識が戻ったみたいだ」


「ここどこ?…なんだか体中が痛いし…」


「ルシアはゴーストに取り憑かれていたんだ」


「ゴーストに…?」


「しゃべれるみたいだし、とりあえずは大丈夫そうだな」


「あれ?ヒューバートさん」


ルシアは少し混乱しているようだが、ひとまずは安心だと皆は肩の荷が下りたようだ、俺も上手くいってホッとしている。


「そういやゴーストはどうなったんだ?アドラ、ゴーストが見えるようになる魔法はねーのか?」


「確かそんな魔法が本に載っていたような気がします。けど俺は覚えてないです」


「なんで覚えてないんだ?」


「いや、ゴーストが見えても怖いじゃないですか」


「怖いってお前…闇魔法使いだろ?」


闇魔法使いだとなぜゴーストが怖くないのか教えて欲しい、一回目の人生からホラー系はNGである。トイレに行けなくなるほどの怖がりではないが、トイレに行くのが嫌になり、トイレに着いたあとに妙にキョロキョロしてしまう程度には苦手である。


「とりあえず魔力の検知で見てみますね、ええと…ルシアさんいいですか?」


「はい?…ええと、あなた確かどこかで会ったような?」


「今日の朝早くに、ギルドでキースさんに紹介してもらったアドラさんだよ。覚えてない?」


「うーん。そんな気もするような、あー、記憶がぼやけてて」


「まあとにかく見てもらえ」


「あ、はい、お願いします…」


魔法を発動してルシアを見てみるが、他の人と比べると微妙に多いかな?といった感じで誤差の範囲だ、少し多いのは疲労などのストレスが原因だと思う。


「たぶん大丈夫です。疲れてるからかほんの少し多く感じますけど」


「まあ念のため教会に見てもらうべきだろうが、あんなことがあったんだ、この国ではやめておいた方がいいな」


「そうですね。いずれ他の国にも行こうと思っていたんです。いい機会ができたと思うことにします」


ルシアにポーションを飲ませて少し休憩をとったあと、俺達はギルドに戻ることに決め、各自で思い思いの休憩をとることになった。俺はもう一歩も動けないほど疲れていたので、その場に崩れるように座るのだった。



 レイはルシアと一緒に座って休憩しながらこれまでのことを話していた。ロイドは巨大魔法兵器の周りをウロウロして観察している。ヒューバートはみんなが見える位置に立って休んでいた。

少し経つといよいよ出発するようでヒューバートがみんなに声をかけた。


「よし、そろそろ出発するぞ。ロイドも降りてこい」


ロイドはいつの間にか巨大魔法兵器の上に乗っていたようだ。


「古代の魔法兵器と現在の魔法兵器の融合は見てて面白い」


「俺にはガラクタにしか見えねえな」


「ガラクタ…」


ガラクタそう言った声はこの場に居る五人のものでは無かった、しかしそれは聞いたことがある声だった。


「ゴースト…!」


「ガラクタダト…」


レイの言う通りこの地下から響くような暗い声は、ゴーストが発していた声と同じだった。その発生源はロイドが乗っている巨大魔法兵器から響いてくるのだった。


「ロイド離れろ!」


ヒューバートの声に反応してロイドは空中に飛び出し、着地地点に水のクッションを作り出して無事に着地した。

巨大魔法兵器は一部を光らせながら変形を始め、やがて要塞のような特徴がある巨大な人型になるのだった。


「ワタシノサイコウケッサクハ…ダレニモマケナイ!」


巨大魔法兵器の肩から赤い宝石のような部分が無数にせり出し、次の瞬間…大量の火球が発射された。

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