第一章 冒険者 5話
登場人物の名前を変更しました。
バート=ロイド
ヒューバートとバートでまたまた名前が被っていることに気づき変更しました。人は過ちを繰り返す。
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「残念ながら、それは少々厳しいと思いますよ」
俺が思いついた魔道具によりゴーストの魔力を吸収する作戦は、副ギルド長により難ありと判断された。
「他人の魔力を動かすというのは非常に難しいもので、よほど強力な魔法であるか相手が弱っていないとまず成功しませんね」
「しかし坊主は魔道具なんて持ってたんだな、ベテラン冒険者でも数個持ってるかどうかだぞ」
「通りすがりの人がくれました」
「何者だそいつ?魔道具を子供に渡すなんて」
たぶん悪魔です。とは俺の立場が悪くなりそうなので言えず、変な恰好をした人でした、と適当に言っておく。
「とりあえずその魔道具を見せてみろよ、もしかしたら何かの役に立つかもしれねえだろ」
「興味がある」
興味津々なヒューバートの言葉に、存在をすっかり忘れていたレイの仲間の魔法使いも加わる。
魔道具を使う作戦を立てた手前、見せないのは不信感を持たれるだろうし、このメンバーになら見せてもたぶん問題ないだろうと思い。布で包んで背中に括りつけていた黒い本を取り出す。
「本の魔道具なのか」
一番興味を示していたヒューバートだったが、本だと判ると興味が失せたようだった。いかにも体育会系なので本などが苦手なのかもしれない。
「中を見てもいいか?」
逆にレイの仲間の魔法使いは目を輝かせ落ち着きを失っていた。
「すみません、ロイドは魔道具のことになると熱中してしまって」
レイの言葉でようやく魔法使いの名前を思い出した、俺が対人関係が苦手な理由の一つがこの人の名前をなかなか覚えられない所である。他の人の名前を憶えられたのは単に衝撃的な事件の最中で意識に深く残ったせいだろう。
「いえ、いいですよ。開くと勝手に闇の魔力を吸収し始めるので気を付けてください」
「いや、誰も闇の魔力なんか吸収されても困らねえだろ」
確かにヒューバートの言うとおりである。
「開くぞ」
ロイドの手により黒い本が開かれた、闇の魔力を吸収されても困らないはずなのに皆が微妙に身構えているようだった。まあ得体のしれない魔道具だから仕方ないと思う。
「何か変わったか?」
「いえ、僕は特に何も感じません」
「そうですな、特に異常はありませんな」
安心したような拍子抜けしたような表情で皆が話し合う、やはり闇の魔力を吸収されても特に問題は無いようだ。
「なにも書いてない」
「空白のページなんてあったかな?」
、
若干残念そうなロイドの声を聞いて本を覗き込むと、確かにそのページにはなにも書かれていなかった。
「他のページもなにも書かれていない」
ロイドが俺の言葉を聞いて他のページもめくってみるが、どうやら他のページも空白のようだった。
「ちょ、ちょっと貸してください」
自分で確認するため俺が本を触った瞬間それは起こった。
「おっ!なんかスッキリした感じがするぞ」
「そうですね、焦っていた気持ちが落ち着いたような気がします」
「坊主が本を持った途端、部屋の雰囲気に透明感がでた気がするな」
俺は特に何も感じなかったが他の人は何やら感じたようだった、俺にもよく分かる変化は本に書かれた紋章が浮かび上がって読めるようになったことだ。
「本の中身も見えるようになりました」
「見せて欲しい」
「どうなってんだ?本当に何かの紋章が書いてあるぜ」
数々の不可解な現象に皆が驚いている。俺も何が起きているのかよくわからない。
「魔道具の中には正当な持ち主にしか使えない物があるのです。契約の魔法と呼ばれる光もしくは闇の魔法が使われているそうですが、使える魔法使いは滅多にいないので現存する数はごくわずかだそうです」
この副ギルド長は本当に色んなことを知ってるなと感心する。しかし副ギルド長の言葉を信じるなら、この本はかなりの貴重品であるらしい。
「すごい物なんですね」
「そうですレイ君、そして得てしてこの手の貴重品は強大な力を持っている場合がります。先ほどヒューバート君がスッキリしたと感じたということは、他者の闇の魔力も容易に奪える可能性があります」
「それって…」
「大変です副ギルド長!」
レイの期待に満ちた言葉をかき消すように、慌てた様子のギルド員が部屋に入ってくるのだった。
「ずいぶん慌てているようですがノックぐらいはしなさい。それで要件はなんですか?」
「す、すみません。ゴーストに取り憑かれた冒険者についての報告がきたのですが…」
「何か問題があったのですか?」
「町外れのギルド倉庫の周辺で目撃情報があったそうで、冒険者が調べに向かったのですが倉庫の中で魔法兵器に襲われたそうです。魔法兵器は現在も暴れていて徐々にその数が増えていると報告が上がっています」
「魔法兵器ですか?」
「はい、新しい物もあるそうですが、ほとんどは先日発見された遺跡で回収した物だそうです」
「ふむ…なるほど、周囲に被害は出ていますか?」
「いいえ。現在は警備員と居合わせた冒険者で持ちこたえています。ですが徐々に増える魔法兵器にいつまで対応できるか…」
「では、手が空いているギルド員を応援に送り、それから緊急依頼で冒険者にも魔法兵器破壊の依頼を出してください」
「わかりました」
入って来た時と同じく慌ててギルド員は部屋を出て行った。
「魔法兵器が暴走したんでしょうかね?」
「そんな、ルシアがその近くに居るかもしれないのに…」
「推測にすぎませんが魔法兵器が暴れているのは、ゴーストの仕業ではないかと考えられます」
「ゴーストがですか?」
「ええ、ルシア君の体調が悪くなった時期から考えて、遺跡探索中にゴーストに取り憑かれたと考えて間違いないでしょう。あの遺跡はその後の調査で魔法兵器の作成者の工房だったとの報告を聞いています」
「つまりゴーストの正体はその工房の持ち主で、魔法兵器を起動させて暴れさせているということですか?」
「その可能性が高いです。それならゴーストが倉庫付近で目撃されたこと、遺跡で回収した魔法兵器が暴走したことにも合点がいきます」
「魔法兵器の相手をしながら、ルシアの救出をしなければならないな。ギルドの敷地内で聖騎士団はちょっかいを出せないのが唯一の救いか」
「魔法兵器くらい物の数じゃねえよ、早く現場に向かおうぜ」
「では冒険者の四人は現場に向かってください、私の名前を出せば倉庫に入れてもらえるはずです。キースは先ほど指示した応援部隊が集まったら、それを引率して向かってください」
「よし、行くぞ」「はい、今度こそルシアを助けます」「…(コクリ)」「了解しました」「はい」
副ギルド長とキースとはいったん別れて、俺達は町外れにあるというギルドの倉庫を目指して出発する。
外はもうすっかり暗くなっており、レイ達はランタンを点けていたが、俺は夜に出歩くことがなく、明かりになる道具は持っていなかったので、暗視の魔法を使っていた。
(まずい、死にそう。というか死ぬ。)
町外れにあるギルドの倉庫まで急いで向かうことになったのだが、馬車など用意されているわけもなく走って向かうことになった。
毎日の仕事で薬草取りをしていて、多少は体力が付いたかなと思っていた俺だったが、その考えは甘かった。久しぶりの全力疾走で数分もしないうちに体力の限界を迎えていた。
ヒューバートとレイのランタンの光はすっかり見えなくなっており、ロイドともかなりの差が開いてしまっている。このままではいずれロイドも見失ってしまい、ギルドの倉庫までの道のりを知らない俺は迷子になってしまうだろう。
下を向き汗だくになりながらも何とか走るが、もはやそのスピードは歩いているのと変わらない。
「おい、お前が来ないとルシアを助けられないんだから急げよ」
いつの間にか見失っていたヒューバートがすぐ近くに居た。どうやら俺が遅れているのに気が付いて見に来たようだ。俺とは違い息も乱れず汗一つかいていない。
「す、すみません…」
「おい、お前はなんでルシアを助けるのを手伝ってんだ?」
ヒューバートは突然そんなことを聞いてきた。なぜ。なぜかと言われれば。
「知り合いだからです」
「知り合いだから?」
「大変なことになっているって知って、自分にできることがあるので手伝ってます」
「そうか、そんだけか?」
「はい」
「ずいぶん気の抜けた理由だな」
「他に特に理由はないですし、そんなものじゃないですか?」
「そうかもな。よし、急ぐぞアドラ」
そう言うといきなり俺を抱えて、すごいスピードで走り出した。
「ちょ…あの…」
「黙ってろ、舌噛むぞ」
途中でヒューバートはロイドも捕まえて走っていく、それでもほとんどスピードが落ちないのだからすさまじい身体能力である。ほどなくして先行していたレイにすら追い付いてしまった。
「見えてきた」
レイの言ったように前方の倉庫らしき建物が並ぶ場所に、武器を持った冒険者や兵士らしき人が集まり、ものものしい雰囲気を漂わせていたのだった。
「おう、メイジーじゃねえか」
「ああ、ヒューバートか、君が来たならもう大丈夫だな」
「おう、ちゃちゃと終わらせてやるぜ」
気さくにヒューバートに話しかけてきた女の人は、どうやら恰好からして兵士のようだった。
「一緒に居る子達も連れて行くのか?少々若い気がするが」
「レイ達の腕は問題ねえよ、副ギルド長の許可も取ってある」
「そうか、なら私から言うことはないな。気をけつけろよ」
俺達は簡易的に作られた検問を抜けて、問題になっている倉庫に向かう。倉庫の前ではすでに魔法兵器と、それを敷地内から出すまいとする冒険者達とで戦闘になっていた。魔法兵器は土偶のような見た目で空を飛び、火の玉を撃ってくる小型の物と、蜘蛛のような見た目で、足に鋭い刃が付いた大型が見てとれた。
「まずい!抜けられたぞ!」
機動力のある小型機が二機、冒険者の包囲を抜け出し飛んで来る。そして俺達に近づくと火球を放ってきた。
「しゃらくせえ!」
ヒューバートはその場で回し蹴りを放つ、ブォンと空気が唸る音が聞こえて飛んできていた火球が分断され霧散した、更に遠くに居た小型機が真っ二つに寸断される。
「ロイド頼んだ」
「撃つ」
もう一機は火球をレイの盾で防がれ、反撃に放たれたロイドの水球の魔法によって撃墜された。
「突っ込むぞ!」「わかりました」「…(コク)」
そのまま冒険者と魔法兵器が戦っている場所になだれ込み、またたくまに魔法兵器を破壊していった。ヒューバートは蹴りの一発で大型機さえ砕いて次々に破壊していく。レイもヒューバートのようにはいかないが、剣と盾を上手く使い非常に安定感のある戦いをしていた。大型機は足を切り裂いて動きを止め頭を破壊し、小型機はジャンプして切り裂いていく。ロイドは小型機を集中して狙い、多数の水球を発射して次々に命中させ墜落させる。
優勢になったことで他の冒険者も一機に対して複数人で戦い撃破していっている。
(すごいな…)
俺はもちろん少し遠目に眺めているのが精一杯だった、まるで別の世界に迷い込んだようなそんな現実離れした光景だった。剣と魔法の世界で生きて前世と合わせて三十年くらいだが、こんなに本格的な戦いを見るのは初めてのことで、魔法があるくらいで地球の昔の時代とそんな変わらないだろう、という認識を改めさせられる。
ほどなくして倉庫の外にいた機体は全て破壊された。
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