第一章 冒険者 3話
登場人物の名前を変更しました。
アルフ=レイ
アーリン=ルシア
バート=ロイド
理由として主人公の名前がアドラで頭文字がアから始まる登場人物が三人になってしまうこと、アドラとアルフで微妙に紛らわしいことから変更することになりました。
いままで読んでいただいた方には違和感がでてしまうかもしれませんがご了承ください。
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「アアアアア!!!!」
「来るぞ!」
男が叫ぶと同時に離れた場所に居たルシアが、まるで獣のような姿勢から飛び掛かってくる。しかし来るぞと言われても俺にできることは特に無く、できることといえば男の後ろに隠れているぐらいが関の山だ。
「おらぁ!」
男は飛び掛かって来たルシアにカウンター気味に蹴りを放った、それは見事に空中でルシアの腹に命中してその体を壁まで吹き飛ばした。
男は緑色の短髪で足の長い引き締まった身体つきをしていた、特に武器は持っておらず動きやすい軽装をしており、その戦い方から見て格闘家か何かなのだろうか。
「チッ…あれで動けなくなりゃいいんだがそうもいかねえか」
うつ伏せに倒れていたルシアだったが、まるで操り人形のように不自然に起き上がり再びこちらに向かってこようとしているようだ。
「おい、お前なんとかできないのか!」
「いや無理ですよ」
「闇魔法が使えるんだろ」
格闘家の男がなぜ俺が闇魔法を使えることを知っているのかは謎だったが、今はそれを聞いている暇はなさそうだ。バレているなら闇魔法を使ってもいいが、現状で役に立ちそうなのは暗黒か破壊の魔法ぐらいだ。しかし破壊魔法は加減ができないので下手をすればルシアを殺してしまう。それに本に頼らなければ撃てないので、できれば最後の手段にしたい。ならばやることは一つだ。
「目くらまし程度ならどうにか」
「それでもいい、早くしろ…っと」
また飛び掛かって来たルシアに、格闘家の男は再度カウンターを食らわせ跳ね退けた。俺は今がチャンスだと暗黒の魔法を使い、闇の霧を発生させてルシアを包み込んだ。
「とりあえずお前は出てろ!」
格闘家の男は俺の手を掴んで外に連れ出そうとした。しかし急に暗闇からルシアが飛び出して来て、それに対応することができず倒れてしまう。
「ぐっ…やべえ…」
倒れた格闘家の男に対してルシアは手を突き出した、その手の平には黒いエネルギーが生成されていた、それは俺が人間に向けて使用するのを躊躇した破壊の魔法だった。
バチン!放たれた破壊の魔法はしかし格闘家の男に命中することはなく、横から差し出された光る盾によって阻まれていた。魔法を防いだのはレイだった、持っている剣も魔法なのか淡い光を帯びている。
「ヒューバートさん大丈夫ですか?」
「なんとかな…来るのが遅かったじゃねえかレイ」
「すみません見つけるのに時間がかかりました」
「ルシアはどうしちまったんだ?」
「ゴーストに取り憑かれていたようなんです」
「ゴーストとは面倒だな、とにかくルシアを捕まえるぞ」
「はい」
ルシアの様子がおかしいとは解っていたが、ゴーストに取り憑かれているとは思わなかった。
レイが助太刀に入ってからは戦闘は一方的な展開になった、格闘家の男ヒューバートとレイの連携によりルシアの攻撃は防がれ届かず徐々に抑え込まれていった。
「やろう、逃げる気だぞ!」
不利を感じたのかルシアは窓を突き破って外に飛び出していった。
「追うぞ」
「はい!」
それを追ってレイとヒューバートも窓から飛び出だしていった、俺は付いて行っても足手まとになるだろうと思い窓から見送ることにしたのだが飛び出したはずの二人がなぜかこちらに飛び込んで来て下敷きになるのだった。
なんでだ、と思った次の瞬間。何かが爆発する音とともに、部屋の中に居てもわかるほど外が明るく照らされた。
広場の前は剣呑な雰囲気に包まれていた、理由は二つの武装集団が睨み合っていたからだ。片方はこの広場を拠点とする冒険者達の集団、もう片方は教会の武力を司る聖騎士団だ。
「説明してもらおうか」
冒険者達の代表はキースこと受付のおっさんだった、そういえば昨日レイにそんな名前で呼ばれていた気がするが、昨日はいろいろと立て込んでいたので忘れていた。しかしキースは意外とギルドの偉い人だったのだろうか?この頃は慣れてきて、キースと話す時の口調がぞんざいになっていた気がするので、今度からは気を付けようと思う。
「説明?我々は聖騎士団の義務を遂行したまでだが?」
対するは誰だかは知らないが、聖騎士団の団長だと思われる人物である。他の騎士が全身フルプレートの鎧を装備しているのに対して、その男は白に金の刺繍が入った修道服のような装備だった。キースの質問に対して嘲笑したような態度で返答している。
「義務だと!ゴーストに取り憑かれた人間に対して殺傷力のある攻撃を放つだけでなく、その攻撃に数人の冒険者が巻き添えになりそうだったんだぞ!」
どうやら先ほど部屋の外を明るくなったのは、聖騎士団の攻撃によるものだったのだろう。
「あの冒険者に取り憑いているゴーストは教会でも祓えないほど危険な存在だ、被害がでる前に体ごと浄化するしかあるまい。浄化に巻き込まれそうになった問題については、急に現場に飛び出したそちらの落ち度ではないのかね?逆にこちらの浄化のタイミングが少々ズレてしまいゴーストを取り逃してしまったではないか。誇りある聖騎士団の任務を妨害した罪は重いぞ」
「なんだと!てめぇらがこっちの邪魔をしたんだろうが!」「そんな!ルシアを殺す気なんですか」
「よせ!ヒューバート!レイも落ち着け…」
激高して聖騎士団の団長に詰め寄ろうとしたヒューバートを、キースが肩を掴んで止めた。
「まるで狂犬だなぁ、一介の冒険者風情が聖騎士団に楯突いてタダで済むと思うなよ、あの薄汚い男を捕縛しろ!」
「このッ…」
数名の聖騎士がヒューバートを拘束しようとし、対する冒険者達も武器に手をかけ、まさに一触即発の状態だったが、そこにまったをかける人間が現れた。
「これは何の騒ぎでしょうかキース?」
二つの集団の間に現れた人物は初老の男性で、シャツの上にベストを着ているような恰好をして、腰にはサーベルを帯びていた。
「副ギルド長!」
どうやら冒険者ギルドで二番目に偉い人だったらしい、目上の人間がどんどん増える状況に、俺は一刻も早く逃げ出したい衝動に駆られたが、残念ながらこの状況で勝手に一人で逃げ出すわけにもいかない。
「はん、丁度いい。副ギルド長この冒険者達は聖騎士団の任務を妨害した疑いがある。しかもギルド員が率先しているそうじゃないか、ギルドはどう責任を取るつもりだ!」
攻める口調とは裏腹に聖騎士の団長は笑みを浮かべている。
「はて?それはおかしいですな、この者達にはギルドの仕事を任せたはずなのですが?」
「ギルドの仕事だと?」
「ええ、ゴーストに取り付かれた冒険者が居るということで、緊急の依頼としてギルドが依頼を出しました」
「なッ!たかだか冒険者一人の救助のためにギルドが動くと言うのか!」
「強力なアンデッドモンスターは緊急性が高いことはご存知でしょう?なので腕利きの冒険者に任せたんですよ。てっきりもう解決したと思っていたんですが…」
そう言って副ギルド長はヒューバートの方に顔を向ける。
「あと一歩のところまで追い詰めたんだが、横やりが入って逃がしちまった」
「なんだと貴様!我々が原因だといいたいのか!そちらこそ我らの浄化の邪魔をしたではないか!」
またも両者の間で緊張が高まり始める。
「まあまあ、落ち着いてださい。どうやら目的が被ってしまい行き違いがあったようですね」
「ならばアンデッドの討伐は聖騎士団の領分だ、冒険者風情になにができる。ギルドは即刻退去してもらおうか」
「いえいえ、アンデッドとはいえモンスター。冒険者はモンスター退治を生業にしている者が多い、中にはアンデット専門で狩っている者もいる。しかも今回の被害者が冒険者となると、こちらとしても引けませんな」
どちらも一歩も引かず議論は平行線になると思われたが、副ギルド長が一つの提案を出した。
「ならば早い者勝ちというのはどうでしょうか?」
「早い者勝ちだと?」
「ええ、いつまでもここで議論していても拉致があかない、いつモンスターの犠牲者が出るかもわからない状態でそれはまずい。お互いに邪魔をせず先に見つけたほうが対処するということで如何でしょうか?」
「先に見つけた方が手に負えなかった場合はどうする?」
「被害を出すわけには行きませんから、その時は手出し可能ということで」
「ハッ、いいだろう。しかし光魔法使いがほとんどいない冒険者に何ができる?」
「やってみなければわからないものですよ」
「なら、せいぜいやってみるがいいさ。くれぐれも我々の邪魔はしないようにな」
聖騎士団の団長はそう言うと部隊に号令をかけ、逃げたルシアの探索をするために去っていった。
「さて、まずは状況を整理したいので、関係者にギルドの中で話を聞きたいのですがよろしいですか?」
副ギルド長がそう提案するが、レイは一刻も早くルシアを探したいと申し出ていた。
「仲間が危機に陥って焦るのはわかりますが、そんな時こそ冷静に状況を判断しなければなりません。ギルドを出る前に捜索が得意な冒険者達に声をかけ、ルシア君を見つけるよう依頼してあります。彼らはプロですから、きっとルシア君を見つけて報告を持って来てくれるはずです。一人でやみくもに探すよりも彼らに任せた方が結果的には、彼女の元にいち早くたどり着く結果になるかもしれませんよ」
「ですが…いえ…わかりました」
「では行きましょう、他の方はルシアの探索に加わってください」
各々が行動を開始して散らばっていった、俺は端の方に立っていて何も言われなければこのまま帰る腹積もりだった。
「アドラも来い」
「はい…」
がやはりそんなわけにはいかず、俺はキースに呼ばれてギルドに向かうことになったのだった。
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