テュリオスの憂鬱

 

 ……マズい。非常にマズい。

 何がマズいというと、そんなものは簡単に説明出来ること。アルマトから発表された唐突なゲームルールの変更だ。


 元々予定されていた区域レギオンの争奪戦を経験し、柏木に競うことの楽しさ思い出してもらい、ディランとの熱い闘いを繰り広げてもらうことが俺の目的だった。


 もう一つ、俺には狙いがあるが今は言えない。


 ところが、アルマトの口から言い渡されたこの大幅な変更点によって、俺の目的へと続いていくロードは大きく逸れてしまった。

 現状では正直言って、これの修正は極めて難しい。


 この目的を達成とする大前提に、まずは柏木にはこの『カラミティグランド』をプレイしてもらう事が最低条件だった。これはクリアしている。

 その為にわざわざ柏木専用のUPCまで手配したんだからな。


 幸運な事にも奴はユニークルーツを引き当て、このゲームをプレイする義務が理由へと置き換わった。

 これは嬉しい誤算且つ、俺にとっても柏木にとっても損のない追い風となった。


 チュートリアルでは一般プレイヤーには全く勝算のないエリアボスをいとも簡単に撃破し、柏木は『カラミティグランド』の世界にのめり込んでいく。

 ここまでは実に好調な滑り出しだった。だが……。


(ディランめ、一体何を考えている……!)


 エルドを操っているのはディランだ。奴めわざわざ柏木の目の前に姿を現しやがって……。

 驚いて柏木に怪しまれる所だったぞ。全く。


 互いにフレンドになってしまったおかげで、エルドとソウキはいつでもコンタクトを取れるよう関係となってしまった。

 エルドの向こう側には誰が居るのか。柏木であればすぐにわかってしまうと俺は予想している。


(あぁ……クソ! 何で俺がこんな事を考えなきゃならないんだ!)


「すまない、ソウキ。少し待ってくれ」


「ん? おぅ、構わんぞ」


 俺はマニュアリングのA.I.N.A.を起動せずにメニューを操作し、エルドへとメッセージを送った。


『暫く柏木との接触は控えろ。まだ正体を明かしていい時ではない。』


 エルドからの返信はすぐに返って来た。


『どーせそのうちバレるだろ? 遅いか早いかの差だ。』


 あいつめ……。再開にはドラマというものが必要だろうが。


 ……しかし俺にだって、ディランが柏木と遊び回りたい気持ちはよくわかる。

 そして俺もそれを叶えてやる為に、俺に出来うる限りの尽力を注いできたつもりだ。

 だがこんな所でエルドがディランだと、柏木にバレてしまってはつまらないと言うもの。


 何か良い手立ては無いだろうか……。


「よし、待たせた。行こうか」


 メッセージを閉じてソウキへと声を掛けると、ソウキも何やらメニューを操作していた様子だったが、俺の呼び掛けに気付くと即座にメニューを閉じてしまった。


「おし、行くかテュリオス。あいつの後を続けばフィールドに出られそうだぞ」


 前を歩くソウキに続き、俺もフィールドへと駆り出していく。

 ソウキの引き当てたという結晶士の力、ようやくこの目で見られる時が来たな。


 ……それで少し、気分転換とでもさせて貰おうか。

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クリスタル・ブレイド~武器が装備できないけど文句ある?~ 磯山いそ @parume08

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