久し振りだね!―2
「へぇ……。中身の無かったチュートリアルとは大違いだな」
アルマトの説明を流し聞きしながら、
因みに、装備を開くとわかるのだが、この
こいつは取り外しも可能だった。親指に表示されているマークをタップするだけでマニュアルを見れるお手軽な物だから、しばらくは装備してようと思うが。
こいつが現れた時、俺はマニュアリングが出現した親指に目を取られて気付かなかったが、マニュアリングはアイテム化されていて、ちゃんとアイテムパックに押し込められていた。
マニュアリングをタップしたことにより開かれたのは、
一応、このアルマトの音声を聞かないプレイヤーでも、プレイングマニュアルを読んでいけば自分が何をしたらいいか。どう楽しんだらいいかが何となくではあるけどわかるようになっている。
「なるほど、あって当然の物だがこれはありがたいな」
だいだいもマニュアルを開きながら、俺と同じ考えを口にしていた。まぁ確かに、チュートリアルは色々と無さすぎた。
「あぁ、バリトン各所の使い方やクエストの進め方、
メニュー画面も一新されていた。
アイテムパック、装備、スキル、フレンド、図鑑しかなかった肉の薄いメニュー画面だったのだが、そこにはルーツツリー、クエスト、プレイングマニュアルの項目が追加されていた。
代わりにスコアボードと実績が無くなっていたが。
プレイングマニュアルも、一応メニューから飛べるようになっているみたいだ。
これは後々、アクセサリを入手した時にマニュアリングを外す人の為のものだろうな。
「ここで、『カラミティグランド』のゲーム進行に関する重要な変更点をお知らせするよ!」
「ほぅ」
スキルやルーツツリーは、後でフィールドに出たらじっくりと眺めようと思っていた俺は、メニューを閉じてアルマトの声に耳を傾けていた。
「突然だけど、八つに分けた
プレイヤーは皆、互いに協力し合って各
とんでもない爆弾をアルマトは投げつけてきたな。投げ付けてきたのは『カラミティグランド』を制作したゲーム会社だけど。
……しっかし、ここに来ての大幅なゲームルールの変更か。あのスカスカチュートリアルだったからこそ出来るこの初動。
「さて、プレゼントしたマニュアリングを気に入って活用、駆使して貰いたい僕から、更に皆にプレゼントがあるんだ! 優しいでしょ、僕!」
確かに、マニュアル配ったりプレゼントを施したりと、このゲームのラスボスがやることではないな。優しいって自分で言うことでもないけど。
「皆はもう、アイナと『カラミティグランド』のリンクは済ませてるかな? 済んでいるプレイヤーにはマニュアリングにアイナが待機していると思うよ! 使ってあげてね!」
うぉ、まじだ。親指にあったマニュアリングの本のマークだったものは、いつの間にかAの文字に変わっている。
アイナと言えば、AINAしか居ないよな?
「アイナ、聞こえるか?」
俺は試しに、口元に右手の親指を近付けてアイナの名前を呼んでみる。もしかしてもしかするとだが――。
「お呼びでしょうか?」
脳に直接語りかけてくるように響いてきたのは当然の如く、アイナの声。
……なんという粋な遊び心。正直鳥肌が立ったぞ。
「いや、悪い。呼んだだけだ」
「畏まりました」
――Augmented idoling near assistant――。
それが、マニュアリングに組み込まれたアイナの『
だけどもきっちり、略して
このマニュアリング、思ってる以上の高性能アイテムの筈だ。当然だが防具としてではなく、システム面での性能の事を言っている。
……何が出来るかは後で色々と試してみよう。
「テュリオス。俺はもうフィールドへ出ようと思う。お前はどうする?」
ラスボスとなったアルマトくんの話を聞くのもこれくらいでいいだろう。これ以上は時間のロスだ。
まずは拓けた場所へと駆り出して、ひとつひとつゆっくりと確認していきたい。
そのためにも、俺はテュリオスへ外に出ようと声を掛けた。
……つーか、俺これからだいだいのことテュリオスって呼ばなきゃいけないの? 凄い違和感なんだけど!
「ここでアルマトの話を聞いていても出遅れてしまうだけか。となれば早速フィールドへ行こうじゃないか。ソウキ」
「もはや何も言うまい。行くぞ」
俺とテュリオスは、ミニマップを見ながらバリトンの町の外へと続く道を歩いた。
町なのか街なのか、怪しいラインの規模だ。でも都市って付くくらいだし、ここにいるプレイヤーの数を見たら、やっぱ街なのかねぇ……。
「おっと! 悪ぃね!」
脇の小道から、急にプレイヤーらしき人が飛び出してきた。
危うくぶつかる所だったが、すんでのところでそいつは軽やかに俺の目の前で立ち止まってみせる。
「気を付けてくれよ。ヘンないちゃもん付けて粘着してくる奴とか居るかもしんねぇからな」
ぶつかったところで何ともないだろうが、俺はそいつに対して軽く注意だけはしておいた。
「っへへ! 悪かったな! ここで会ったのも何かの縁だ。フレンドになろうぜ!」
全く悪びれた様子は見せないが、嫌な感じはしない。
ファンタジー世界の貴族風な高級感のある青い礼服と、マントや金髪といった王子様的な要素を含ませた風貌と、雑そうな性格とが上手く噛み合って、寧ろ爽やかで気持ちのいいものと言っていいかもしれないな。
「構わんぞ。ほい。俺達は今から狩りに行くが、一緒にどうだ?」
俺とテュリオスはそいつにフレンド登録を申請し、受諾された。正式サービスが始まって初めてのフレンドになった(テュリオスはノーカンな)そいつの名はエルド。
「いや、ちょーっち一人で試したいことがあるんだ! また誘ってくれ」
「そうか、残念だ。またな」
……何て言うか、俺は初めて『カラミティグランド』で普通のプレイヤーに会った気がする。
言っておくが普通の性格の、プレイヤーだからな。
だからこそ誘いを断られた事が本当に残念でならないが、一人で色々と試したいっていう気持ちはわからんでもない。
「まったな! ソウキ!」と片手を振ってそう言い残したエルドは、えらい早さでフィールドへと駆け去っていった。
「人の話を聞いちゃあいねぇ……」
フィールドに出られれば広いだろうから、突っ走ってても誰かにぶつかる心配はないだろうけど。
「すまない、ソウキ。少し待ってくれ」
テュリオスは俺を呼び止め、メニューをいじくり出した。
「ん? おぅ、構わんぞ」
「よし、待たせた。行こうか」
本当に少しだったな。防具を装備する暇も与えてくれなかった。
まぁいい。戦闘前になったら準備する時間もあるだろう。その時に装備させて貰うとするか。
「おし、行くかテュリオス。あいつの後を続けばフィールドに出られそうだぞ」
テュリオスを引き連れ、俺はバリトンを後にした。
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