勝者を眺むる者―2
「……っし、あともうちょいでイエローゾーンだ」
ここまで難なくリザードサイスのHPを減らすことが出来た。残りの体力は、ゲージが黄色くなる六割にそろそろ差し掛かるか、という所。
難なくといっても、ここまで来るのに既に五分以上はリザードサイスと戦闘している。
それほど時間が掛かっているのも、ノーダメージでHPを行動パターンの変化する黄色まで削りたかったが為に、
「グモォォォァァァアッ!!」
顎へと向けて放つ掌打にも、錬成武器のパラメータ加算でもあるのか、HPをちょこっとだけ減らす事が出来る。斬った方がそりゃあ減りは大きいけどね。
ともかく、今の掌打でリザードサイスのHPゲージは黄色のゾーンに入った。
「コットッ!! 奴の動きが変わる、回復のタイミングをよく見極めて頼むぞっ!」
俺は後ろに控えているコットに対して、視界はリザードサイスへと向けたまま声を上げた。
「は、はいっ!」
ここからがある意味、戦闘のスタートラインと言ってもいいだろう。
二手二足の人型ではあるが、こんなにも肉体に厚みのある身体を持った奴は『in world』でも戦ったことはないし、ましてや今目の前に居るのは人間ではない。
挙動、攻撃のパターン。そしてその後に見せる僅かな隙。一瞬一瞬、そのどれもを見逃すことは出来ない。
「だけど、所詮はデータ。一対一だろうが、必ずお前を攻略する糸口はあるはずだ」
両腕の先にある、えらくご大層な膨らみを含んだ鋭利な爪を活かした引っ掻き。
そして膨大な厚みを持つ筋力から生み出される、一般的な成人男性では到底真似の出来ない真正面への右腕の突き攻撃。
大振りの突き攻撃の直後には、ほんの僅かな硬直があるものの、即座に飛んで来る正面への蹴りが、俺に攻撃の暇を与えてくれない。
前回とは打って変わり、リザードサイスの攻撃パターンを一通り覚えるまで俺は攻撃を加えず、リザードサイスの攻撃を避けることに専念していた。
そして回避に専念すること数分。だいたいではあるが、リザードサイスの攻撃パターンを覚えることが出来た。
……が、思った以上にコイツは隙が無い。
左側からの攻撃が薄いと感じた俺は、ちょっと攻めてみようとリザードサイスの左側へ回ってみると、右足を軸に、一歩引いた左足の横薙ぎ一閃の蹴りが飛んで来る。
そこまで本気で攻撃しようとは思っていなかったが為に、この蹴りを避けるのは難しい事では無かったが、いざ攻める側に回ろうとした場合、これを避けるのは困難極まりない。
(さて……どうしたもんかねぇ)
リザードサイスの得意とするであろう、一メートル以内程の間合いの中へと入るまでは、奴の動きはそこまで早いものではない。
寧ろのろのろと近付いてくる分、そこそこ考える余裕がある。
「っとぉっ!!」
あっぶねぇ。忘れてた。
リザードサイスは蹴り攻撃が届くか届かないかの距離に居ると、助走を付けての横蹴りをしてくることがある。
因みに前回はこの横蹴りでとどめを刺された。
(……待てよ? ここが一番隙があるか?)
この横蹴り攻撃が終わった後、妙な硬直がある様な気がした。
とりあえず、もう一度横蹴りを誘発させるため、俺は距離を取った。
「グッ……!!」
「なるほどね……。ここか、お前の隙は」
横蹴りで硬直したリザードサイスの足裏へ、右手に構えた錬成武器での突き攻撃を加えた。
呻き声を上げながら、リザードサイスのHPがグイッと減る。
「なるほど。まーだノーダメで行けるなぁ!!」
明らかな隙を見つけた俺は、込み上げてくる笑みを堪えきれない。
二度三度と、横蹴りを誘発しては攻撃を加える度に、一度の攻撃サイクルでどれくらいまで俺がリザードサイスに対して攻撃を加え、どれだけのダメージを与えられるかまでのだいたいがわかるようになった。
そんな作業にも似た攻撃を続ける内、とうとうリザードサイスのHPは三割ほど……つまりは赤色になった。
ここまで何とか被弾することなく来ることが出来た。コットのMPを消費させずにここまで来られたのはかなり大きい。
「グォォォォオオッ!!」
「すっ……げぇ……」
これが初のボスモンスターなのかと、俺はちょっとした感動の中にいる。
リザードサイスは最早、別モンスターと言っても良い程の変貌っぷりを見せていた。
深い緑色だった鱗は黒みがかった赤色へと変わり、まるでリザードサイスの怒りを体現したようなものとなっている。
背中からは、まだ未成熟なのか折り畳まれた翼が顔を出し、今の今まで戦っていたトカゲ人間のような見た目だったリザードサイスは、ドラゴン一歩手前の立派なボスモンスターへと成り変わった。
体力が減っていく毎に行動パターンが変わるのはまぁよくあることだが、こんな序盤のボスで形態が変わるってうのは結構珍しいんじゃないかな。
なんていうか、こういった細かい部分でも楽しませてくれる『カラミティグランド』の世界が、より一層好きになりそうだ。
だけどこれで、余裕をこいて居られなくなったのも事実。
より攻撃的になったリザードサイスの、両腕の届く範囲の中での隙は皆無と言っていいだろう。
とりあえず先程同様、横蹴りの隙を狙うしかなさそうだな。
錬成武器と、リザードサイスの挙動に対処出来るよう姿勢を構えるのだが。
「なっ!!」
……なるほど。イエローゾーンでの横蹴り後の硬直は、ここを意味していたのか。
HPゲージが赤色になり、姿形を変えたリザードサイスの横蹴り。さっきまでは中段への横蹴りだったものはハイキックへと変わり、硬直は高速のかかと落としへと変化していた。
手を出す寸前だったから被弾はしなかったものの、ここの隙が無くなったかと、すっげぇ惜しい気持ちになる。
いよいよ以て、攻撃する隙のないリザードサイスに対しての
……さてさて、その
「待たせたなコット。暇してたか?」
リザードサイスから逃げるように大きく距離を取り、俺はコットと並び立つような位置で声を掛けた。
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