勝者を眺むる者―1


 

「あっ……、ソウキさん。昨日振りですね」


「よぉ、コット。早かったな」


 レベッカが落ちてから一時間程だろうか。


 俺は錬成石オークラント目当てで戦闘ボットを探し回り、発見してはぶっ倒して安全エリアへと戻り、コットが来てないか確認しに来ていた。


 そんな行ったり来たりを繰り返すこと四度。安全エリアへとやって来ると、湖の前にはコットの姿が。


 昨日コットと出会った時間よりも、まだ二時間近くは早い。

 体感時間だからはっきりとした時間まではわからないけど。


「はい、わたしもちゃんと戦えないとなので、ソウキさんが来るまで練習しようと思っていました」


「練習って……。たかがゲームだろ? もっと気楽に楽しめよ」


「そ、そうなんですけど……」


 なんていうか、コットってスゲー変な奴。

 常にキョドってるし、受け答えもハッキリしねぇし、正直言ってまともに相手をするのが面倒なタイプだ。


「とりあえず、昨日のトカゲを狩りに行くぞ?

 狩りの練習したいって言うんならその後付き合ってやるしな」


「い、いいんですか?」


「あん? 別に構いやしねぇよ。どうせレベルは上がらねぇし、俺は俺で集めたいアイテムもある。

 一人でチマチマやるよか効率もいいだろ?」


「ありがとうございますっ」


 コットは深いお辞儀を向けた。ホント、変な奴。

 そのままパーティへと迎え入れ、俺はコットを引き連れてリザードサイスの近くまで向かっていった。


「よし、やることは昨日と変わらねぇ。コットは俺の回復に全力を注いでくれ。

 俺はコットの支援を受けながら、全力であのトカゲを叩く」


 戦闘準備を整えたら、一気にリザードサイスの元へと突っ込んでリベンジバトルに持ち込む……。持ち込みたい所なのだが。


「あ、あの……わたしはリザードサイスに攻撃しなくていいのですか?」


 なーんて言い出す娘っ子がひとり。


「おう。攻撃に回すよりは、回復にMPを使い切ってくれた方が助かる」


「でっ、でも……」


「……あのな。昨日俺とアイツが戦うとこ、見てただろ?」


 早くバトりた過ぎて、ちょっと言い方が強くなっちまってるかな? 大人げないと言われれば返す言葉もない。


「……はい」


「HPゲージが緑色の内は単調な攻撃しかしてこないし、動きもまぁ遅いと言えば遅い。問題は黄色に差し掛かってからだ。

 攻撃パターンはガラッと変わるし、攻撃のスピードだって上がる。黄色があるってことは赤色もある。

 ……ここからは予想でしかないが、赤色になればより攻撃的になるはずだ。わざわざ下手に攻撃を出して消耗しに行くか、アイツとの戦闘を俺に任せて回復に専念するか。

 どっちの方が賢いと思う?」


 考えるまでも無い。とは思うが、コットも悔しいのだろう。言葉にするのに時間が掛かっている。


 思春期、なのかねぇ。

 背伸びをしたい、必要とされたい、誰かに認められたい。


 そういった清濁混じった複雑な″想い″みたいなものが少なからずあるのかね?

 んま、それすらもゲームの中この世界じゃくだらない物だけどな。


「かっ、回復に専念する方……。です……」


 溜め息がひとつ、無意識の内にこぼれる。


「あのなコット。ここは学校の中でも、職場の中でもなんでもない。ただのお遊びの空間の中なんだよ。

 コットに回復に専念してもらいたいのは、それだけあのリザードサイスが強敵で、油断できない相手って事なんだ。

 回復しか出来ない、やらせてもらえないって自分自身に悔しさとかを感じてるなら、それは俺を甘く見過ぎだ。

 たかがゲームだからこそ、本気で勝ちたい瞬間がある。俺達は今からその瞬間を掴みに行く。そんだけの事なんだよ。

 俺とコット。それぞれにある強みを最大限まで引き上げて奴を倒す。わかったか?」


「……はい」


 まーだコットはいまひとつ納得出来てないっぽいけどな。それでも俺は、あのトカゲを倒した先に何があるのかを知りたい。

 別に何もなくったって良いんだ。とにかく奴を倒したい。奴がレアアイテムを持っているなら、それをぶん獲りたい。


 レベッカよりも先にリザードサイスを狩りたい。

 レベッカよりも先にレアアイテムをゲットしたい。


 あいつより先に、何それをどうこうしたって何かが変わる訳でもない。


 これは単なる張り合いだ。どっちが先にとか、どっちが上かとかで勝手に優劣を決め合って、勝手に喜んだり、悔しんだり。


 そうやって自分なりに『カラミティグランド』の世界を楽しんで、『カラミティグランド』の世界を好きになる。

 そういったプレイヤーに手渡された、無数にある楽しみ方の、ほんの一つに過ぎない。


「行くぜ、コット。集中しろよ? 本気で遊べ」


「わかりました。回復は任せて下さいっ!」


 そう言いながら、コットは杖を構える。

 コットにしちゃあ良い気迫じゃねぇか。そうでなくちゃな、ゲームってのは。


 俺は火の低級錬成石オークラントをショートカットへと登録した。もちろん武器種は短刃剣ダガーの一択。

 左手首のショートカットウィンドウに登録されているバフ毒虫のアイコンの隣に、赤色の石ころのアイコンが現れた。


 だがまだ火の低級錬成石オークラントは使わない。まずは無の低級錬成石オークラントから短刃剣ダガーを錬成し、それを左手に持ち替える。


 前回同様、まずは隙を見つつ顎へ掌打を加え、行動不能スタンを取りつつ全力攻撃。

 リザードサイスのHPゲージを黄色のゾーンへと減らすまで、コットのMPを極力使わないよう俺が被弾しない為だ。


「準備完了……っと。さぁ行くぜ、リザードサイスゥッ!!」


 リザードサイスへと突撃していく俺を捉えたのか、リザードサイスの手前をウロウロしていたブルーウルフ二体が俺の方へと駆けてきた。


「邪ぁぁあ魔だぁぁぁあっ!!」


 正面から突っ込んできたブルーウルフの頭へと飛び蹴りを加え、蹴りを加えた右足を押し込む。

 その反動を活かして後方へと大きく飛び退き、もう片方のブルーウルフを左手の錬成武器でお迎えする。


 コイツらとももう何度も会敵してるし、今握っているのは錬成武器。火力も段違いだ。

 自分でも拍子抜けするほど、あっという間に二体のブルーウルフを処理し、再度リザードサイスの元へと駆けていく。


「グムゥゥウッ!!」


 リザードサイスの怯む声。

 まずは昨日と同じ、振り下ろされる爪攻撃を避けて一撃、挨拶代わりの掌打を顎へと打ち当てた。


「……よぉ、昨日振りだな。今日こそはお前をぶっ倒すぜぇ!!」


 倒す気満々。自信も準備もバッチリ。今日こそはと、自分でも驚きな程、自然と声が荒いものへと変わる。

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