自称、トレジャーハンター


 

「……居たな」


 ミニマップを眺めつつ、適当にモンスターを狩りながら探索していると、今日のお目当てを容易く発見出来た。


 まぁそんなお目当てであるリザードサイスは、前回遭遇した場所からそれほど離れてはいなかった。


 相変わらず直立で不動なその姿には若干の奇妙ささえ覚えるものの、この区域レギオンは常に昼間だ。恐怖心を煽るようなものではない。


「流石に一人じゃ勝てねぇよなぁ。ヒーラーの存在ってデケェな」


 いくらリザードサイスのHPを六割まで、一人でノーダメージで削ったとしても、問題はその先。

 変化する行動パターン、上がる攻撃速度。


 一人だけで攻略方法まで組み立て……ってやるにはあまりに効率が悪い。

 せめてもう一人居りゃあねぇ……。

 とまで思わせるコットの存在。やっぱしあいつの回復はこのゲームでの鍵になりそうだ。


「無いもん言ってもしゃあなしか……ちっと一回ログアウトするか」


 安全エリアへと小走りで戻って来た俺は、コットが居ないのを確認すると、メニューを操作してログアウトした。


 無事に『カラミティグランド』の世界からだいだいの部屋へと戻って来た俺は、記憶を便りに真っ暗な部屋を進み、冷蔵庫から適当に紙パックのジュースを取った。


 ちゃんとは見てないけど、リンゴジュースな気がする。


「部屋が暗いんだよ。アホかっ」


 だいだいの部屋は今、UPCのモニターが光源となっている。


 部屋の電気をなんとか探し当てて付け、部屋全体が明るくなったことにより紙パックの中身が何なのかわかるようになった。


 残念ながらリンゴジュースではなく紅茶だった。俺はあんまり紅茶は好きじゃないヨ。

 まぁ渇いた喉だったら、冷たい飲み物は大抵の物は美味く感じるよね。


 紅茶の封を開けて一息つき、喉を潤した俺は再度UPCへと向かう。因みに紅茶は無糖だった。死ねる。


「アイナ、起きてる?」


 UPCに腰掛けた俺は、AINAを呼び出してみる。


「私に睡眠は必要ありません。何かご用でしょうか?」


 AINAの機械音声混じりな女の声が、俺の問いかけに応える。


「コットがログインしてるかどうかってわかる?」


「コット、というものが何かを私は存じ上げません」


 なるほどね。『カラミティグランド』でフレンド登録がされていても、UPC間でフレンドリンクされてなければ、AINAを通じてオンラインステータスを知ることは出来ないってことか。


「そっか。『カラミティグランド』を立ち上げてくれ」


「畏まりました」


 ……目を閉じ、開けばもう『カラミティグランド』の世界の中に居るほど、UPCから行われる意識の切り替えはスムーズなものとなっている。

 どういう技術なんだろうな本当に。


(さて、どう時間を潰そ――)


 ――響く銃声……のような、何かが炸裂するような大きな音が、エリアインした俺の左側から鳴る。


「うわっ! 何だぁ!?」


 ここは安全エリアだから、多分俺には攻撃は通らない筈だけど……。

 それ故に、油断していたのもあって、突然に鳴り響いた大きな音にビビってしまった。

 チクショウこんなの誰だって驚くよね!?


「あいやーっ! 何だきさまはっ!」


 左側へと顔を向けて見れば、銀色の光沢を放つ銃をこっちに向けた赤い髪の少女がひとり。


 なんだ貴様はって、こっちが聞きたいよ。そのチャカで一発、たった今俺へ向けて撃ってないだろうな? 現実なら死人が出てるよこれぇ?


「……人に銃向けて、なんだ貴様とは無いだろ?」


 流れる沈黙。どうして黙るんだ。


「……す、すまん。敵かと思った」


 赤髪の少女はそう言って銃を下げた。


「それ、まさかとは思うがさっき一発俺に向けて撃ったか?」


 人差し指を下げられた銃へと向けながら、俺は少女へ問い掛ける。


 少女の服装は、上から茶色いカウボーイハットに白いシャツ。

 黄色のネクタイ、ちょっとダボ感のあるピンクのベスト。

 デニムなホットパンツにいかにもなレザーブーツ。


 これが初期装備、って考えるとやっぱコットもそうだけど、かなりこう……職業クラスに沿ったコンセプトを感じられる衣装を与えられてるんだな。


 俺にもそういうの欲しいんだけど。……見てないだけで実はあったとか? まぁいいけど。


「ま、まっさかそんなわけないだろう!? い、威嚇射撃というやつだっ!!」


 怪しい、実に怪しい。なんだかわかりやすく視線も逸らしてるしな。


「ふーん、まぁいいや。俺はソウキ。昨日からここに居る。そっちは?」


「私はお宝ザックザク!! このゲームにある全てのレアアイテムをぶん獲る、トレジャーハンターになるのだ!!」


 少女は両手を大きく広げながら自己紹介し、最後に天へと向けて三度、銃弾を放った。


 先ほど鳴り響いた音と同じ、バカみたいに大きな音を鳴らしながら銃弾を吐き出した銃口は、今にも消え去りそうな煙をシュウゥ……と上げている。


「おたから……ザックザク……? っていうプレイヤーネーム?」


「そうだぞ! 覚えておけっ!」


 ……あれだ、コイツはだいだいみたいな奴だ。ロール入っちゃってる系の奴だわ。


「呼びにくい。なんか他の呼び方よこせ」


「なんだとぉ!? きさま私の名前をバカにするのかぁ!?」


 コイツ……中身何歳だろうな? 多分声がキンキンしてるから中学生位だと思うけど……。友達居なさそうだな……。


 見た目や何やらはキャラエディットで幾らでもいじくり回せるけど、声だけはまんま自分の物を使う。

 だから余程判別のつきにくい声でなければ、性別を誤魔化すことは出来ない。


「そういう訳でもない。ただ、例えば今からお前とパーティを組んだとしよう。

 そこで毎度お前を呼ぶ度に、お宝ザックザクじゃあ呼びづらくて連携が取りにくいだろ?

 俺とお前の間での愛称くらいは決めておこうぜ」


「むむむー……。確かにきさまの言う通りだ。

 クラスの無能どもは私のことをレベッカと呼ぶ。きさまもそう呼ぶが良い!」


 あぁ……本当にコイツはリアルでも痛い子なパターンだ。あまり触れないでおこう。


「そうさせてもらうよ、レベッカ。俺は今からモンスター狩りに行くけど、お前はどうする?」


「私はそろそろご飯の時間なのだ! おろかなきさまとは時間の流れもその価値も違うのだ!」


 なんだか酷い言われようだが、否定は出来ない。それを悔しいとは思わないが。


「んじゃあ、せっかくだしフレンドになろうぜ」


 フレンドの項目から、近くのプレイヤーを検索し、レベッカへとフレンド申請を送った。

 本当にキャラネームがお宝ザックザクだったことに俺は驚いているよ。


 正確には『お宝3ッ939¥¥』っていう名前だった。スッゲー頭悪そう。


「仕方ない、フレンドになってやろう。ありがたいと思え!!」


 とだけ吐き捨てて、レベッカはソッコーログアウトしてった。

 なんか一癖ある奴だったけど、可愛らしい部分が無いとは言えない。憎めないキャラって言えばいいのかね。


 とは言えこれで、確認出来たユニークルーツ持ちは俺を含めて三人。

 ここに来た、ってことはユニークルーツでいいんだよな、アイツ。


 まぁ銃とか持ってたし、一般的な職業クラスでは無さそう。


 せっかく新たなプレイヤーを連れてリザードサイスに挑めると、少しばかりテンション上がったが、トカゲとお遊戯するのは残念ながら今日もコットと俺の二人だけになりそうだ。


 またしても適当にモンスターを狩りながらふらふらする事になった。この辺りの敵じゃあリザードサイス位しかまともに相手になる奴は居ない。

 ……早く来ねぇかな、コット。

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