確率を越えた存在《ヒロイン》―1


「せっかく拾った武器が装備出来ないなんて悲しすぎるぞ……」


 悲しみに暮れながら俺は暫く、適当にフィールドを歩み進めては目に入るモンスターを狩りながら出口らしき場所を探していた。


 歩けど歩けど一向に出口っぽい所は見つからないが、狩りはそこそこ楽しい。


 基本的にこの辺りで出現するモンスターは三種類。

 狼と、子熊とは違うであろう小さな熊、そして何やら制御の利かなくなったような戦闘ボット。


 この三種と戦闘を重ねる内に、メニュー画面に[図鑑]の項目が追加され、倒した三種のモンスターからドロップするアイテムや、詳しい生態について読めるようになった。


 狼だけはモンスター名がわかるようになっていた。図鑑にはブルーウルフと記載されている。

 小熊と戦闘ボットについてはまだ名称はわかっておらず″???″としか記されていない。


『カラミティグランドでは、エネミーに関する情報を自分で集める仕様となっています。戦闘を重ねて敵をよく知り、有利に立ち回りましょう』


 図鑑が追加された瞬間に、こんな感じで図鑑に関するTIPSヒントもご丁寧に表示された。

 ただこの仕様、ゲーム初心者にはかなり厳しいシステムだと俺は感じた。


 周辺に出現する、所謂ザコモンスターと呼ばれるだろうこの三種のモンスター相手ならば、戦っては倒して……ということを繰り返していれば勝手に図鑑に詳しいデータが刻まれていく。

 が、これが相手がボスモンスターなんかの強敵だとすればどうだろう?


 そりゃ低レベル帯のボスモンスターなら、初めて出会ったけど倒せましたー、図鑑に情報が載りましたー、って流れもあるだろうけど……。

 まぁ、レベル上がんない内からそんなこと考えてもしょうがないんだけどね。


「んん? あれは……プレイヤーか?」


 少し距離が開いているが、奥へと真っ直ぐ進んだ突き当たりに、プレイヤーが戦っているのか、武器を取り出して振り回しているような姿が見える。

 描写が追い付いてないのか、この距離からではモンスターがそこに居るのかすら見えないが。


「ちょっくら行ってみるか」


 俺はプレイヤーらしき人の居る場所へと走った。


「おいっ! 手助けいるかー!?」


 見えていた人の元へはもう少しという所で俺は、そこに居る女へと聞こえるよう、大きめの声で声を掛けた。

 キャラの見た目やテキチャの喋り方が女でも、中身が女の子だとは限らない。これオンゲの鉄則よ?


(へぇ、魔法職もあんのね。意外)


 女魔法使いはぶんぶんと杖を振り回しては、デタラメに雷の魔法をぶっ放している。あーこれ多分手助け要るやつだわ。俺の声も聞こえてないみたい。


「ひぃぃぃいっ!! 来ないで下さいぃぃぃいっ!!」


 なんて情けない声を上げながら、女……というより魔法少女は六体のモンスターに囲まれている。

 俺はチュートリアルリッパーを引き抜き、背後がお留守な狼と小熊へと奇襲をかけた。


「だぁぁぁぁぁいっ!! っと。大丈夫かー?」


 魔法使いへと向けて声を掛けてやる。

 狼も小熊も、そこまで耐久力のあるモンスターではない。ここらで一番厄介なのは戦闘ボットだ。防御力が高いのか、とにかく堅い。

 ともあれ二体を瞬殺し、残りは四体。


「だだだだ大丈夫じゃないですぅ!」


 とは言っているものの、魔法使いは敵の数が減って冷静さを取り戻したのか、放つ雷の魔法で小熊を倒したところ。

 お見事お見事。これで残る敵は狼三匹だけとなった。


「うぉぉらぁっ! もうちっと頑張んな! 油断すんなよ!」


「は、はいぃぃ!」


 魔法使いのHPがどれほど残ってるかわからない為、なるべく被弾はさせないようにしたい。


 魔法使いへと襲いかかった狼の一匹の頭へと飛び蹴りを咬ます。

 勢いつけて体重を乗せた飛び蹴りを喰らった狼は吹っ飛んでいった。あれは恐らく行動不能スタン確実だろうな。


 目の前に残った狼をそれぞれ倒し、最後の一匹を処理した俺はチュートリアルリッパーを鞘に仕舞う。

 うひー。アイテムうまうま。


「あ、あの……。ありがとう……ございました」


 魔法使いの少女はこっちを向きながら、ぺこりとひとつ、お辞儀をした。

 翠色の髪がふわりと揺れる。


「あー、うん。プレイヤーらしき人影が見えたからこっちに来ただけなんだ。

 それより聞きたいんだけど、出口知らない? 街とか、ロビーみたいな所に行きたいんだけど」


「ふぇ……?」


 少女は驚いたような表情をしている。

 これは凄いな……。本当に目の前のキャラクターがまるで生きているかのように、細かい表情の動きを再現している。


 少女の格好は魔術師というよりは、魔法少女といったような動きやすそうな服装だ。

 シャツワンピのようなダボつきのある黒の羽織りものは、その中央をボタンのような物で留められ、ローブ感を少し出している。


 下はシャツワンピと同じ色のキュロットを履いていて、インナーはよくは見えないが、ローブのスリットから赤い布が下へと伸び、更にその下には細い腹部とへそが晒し出され、ちょっとばかし目を引くものに感じた。


「カラミティグランドの世界には街はありませんよ? アルマトさんから説明されてませんか?」


 とても柔らかな口調で少女はそう言った。

 街がない、だと……??

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