第17話
「……どういうこと?」
少女から突然、訳のわからないことを告げられ、思わず聞き返す。
「言葉通りよ。多分、避けられない。」
「避ける方法はあるの?」
困惑を隠しきれず、彼女に尋ねる。
ユリの花が一輪、テーブルの上に置かれる。特にこれといった特徴のない普通のユリの花だ。これが「避ける方法」なのだろうか?ユリの花をまじまじと見つめていると、少女は口を開いた。
「あなた、大切なものを守るためにどんな力が欲しいの?」
その質問はあまりにも唐突なものだった。何を失うかもわからない状態でそのようなことを聞かれても困る、というのが本心だ。そのことを少女に伝えると、少し呆れた顔で「ここにいる意味はないわね、力が必要になったらいつでも来なさい」と言われた。次の瞬間、意識が暗転した。
目を覚ますと、学校の図書館だった。橙色の西日が人のいない図書館の中を暖かく照らしていた。時計を見ると、5時を過ぎている。体を起こすと、頭の跡がついた腕の下から、一番最初の問題番号だけが書かれたほぼ白紙のノートが顔を出した。図書館もじきに閉まる。ため息をひとつ、教科書とノートを片付ける。あとは真っ直ぐ家に帰るだけだ。鞄に荷物をまとめて図書館を後にした。
「大切なものを守るためにどんな力が欲しいの?」
この言葉の意味をずっと考えていた。そもそも自分にとって大切なものとは何か。まずは、そこから解決する必要があった。しかし、風呂に入っている間も、ベッドに入った直後も考えてみたのだが、何も思い浮かばなかった。おそらく、一日では答えが出ないものなのだろう。そう割り切ることでいったん考えることをやめ、就寝することにした。その夜は、あの夢を見なかった。
朝が来た。今日は自然と目が覚めた。夢を見なかったおかげかぐっすりと眠ることができたようだ。すぐに支度をしていつもよりも早めに学校へ行くことにした。
教室へ向かう途中、マルチメディア部の部室前を通り過ぎた。ふと中を覗き込むと、カメラやモニターなどがたくさん置かれたデスクの前に小百合さんと木下さんが曇った表情で座っていた。聞き耳を立ててはいけない。理性はそう考えた。だが、好奇心が勝ってしまった。そっと近づき、扉の近くにある柱によりかかり、スマホをいじるふりをする。耳を澄ませると、二人の会話が人のほとんどいない廊下にかすかに聞こえてくる。
「……そうか……思い出してしまったのか……」
「ええ……あの子の顔……本当に……夏美そっくりなの。」
「確かにそっくりだな……僕も初めて会ったときは驚いたさ。」
やはり、そういうことだったのか。しかし、ここまでの会話の内容はは今まで得てきた情報をつなぎ合わせることで簡単に導き出せる内容だ。もっと得られる情報はないのか。二人の会話にさらに集中して聞くことにした。だが、聞いたことを後悔した。
「もう、あの子とは会わない方がいいだろう」
木下さんが、そう、はっきりと言ったのが聞こえた。
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