第16話
潮騒が聞こえる中、心地よい潮風に当たりながらレンガ道を歩いていく。東屋にたどり着いたのだが、あるのは金属で作られた椅子とテーブルだけだった。テーブルにもユリのレリーフがある。確かにここには沢山のユリの花が咲いている。けれど、なぜユリなんだ?不思議に思いながらそっとテーブルに刻まれたレリーフをなぞる。ふと視線を感じ、後ろを振り返る。すると、1人の少女が立っていた。ユリの花と同じくらい白い、ワンピースとロングヘアー。瞳は澄んだ海のようなライトブルー。頭にはユリの花が付いている麦わら帽子。年齢は、僕と同じくらいだろうか?一つ奇妙なことに気づいた。今の僕と顔や体つきが似ているのだ。髪の色や瞳の色などの差異はあるが。
じっと見つめていると、彼女は雪のように白い頬を少し赤く染めた。
「あの……わたしの顔になにかついていますか?」
「いえ、何も。ただ……その……僕と顔が似てるなって思って……」
「僕?ボクっ娘なんですか?」
「うん。」
つい自分のことを僕と呼んでしまったが、勘違いしてくれたお陰で見破られずに済んだ。
「ここ、どこなんですか?僕、初めて来たんでよくわからないんです。」
「よくわからないのに来たの?どうして?」
「それもわからないんです。気がついたらあの建物の中にいて……」 指差して気がつく。何もないのだ。レンガで舗装された一本道がただ続いているだけだ。
「何も見えないけど……」
少女は、じっと指を指した場所を目を凝らして見ている。
「ごめんなさい。なんでもないです。忘れてください。」
帰れないという事実に対して途方に暮れていると、少女が話しかけてくる。
「何か困ってることがあるんでしょ?」
「なんでわかったの?」
「顔見れば判るよ。さっきからずっと暗い顔してるから。」
確かに、近頃色々なことが起こり過ぎていて心が疲弊している。
「あなたの運命、占ってあげようか?不安なんでしょ?」
僕の顔を心配そうに覗き込みながら少女が話しかけてくる。
「お願いしてもいいかな?」
それで心が軽くなるなら万々歳だ。もし良い結果でなかったとしても、この先の運命について何もわからずに暗闇の中を彷徨うよりはマシだ。
「座って。」
言われた通り、椅子に腰を下ろす。同時に僕の手を取り、帽子についていたユリを外し、水滴を僕の手の甲に一滴垂らした。すると、瞬時に植物の蔓にも見える幾何学模様が浮き出てきた。ぼんやりと虹色に光っていて、光が鼓動に合わせて脈を打っている。少女は、その幾何学模様をじっくりと観察したり撫でたりしていたが、しばらくするとため息を一つついて僕の手をテーブルにそっと置いた。そして、重々しく口を開けた。
「あなた、何か一つ、大切なものを失うかもしれないわ。」
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