第15話

 結局、眠気はあったのだがあいつに殺されるかもしれないという不安のせいで何度も目が覚めてしまった。

 月曜日を迎えた。電車も乗り過ごしてしまい、危うく遅刻するところだった。授業中、船を漕いでいたようで何度も注意された。


 昼休みになった。いつも通り睦月と一緒にごはんを食べる。なんと今日はお弁当だった。土曜日に料理を教えた甲斐があったものだ。しかし、上達するのが早過ぎる気がする。

「お母さんに作ってもらったの?」

「なんでわかったの?!」

 彩りが非常によく、どのおかずを見てもとても野菜を炭化させた人間が作るようなものとは思えない。根拠はそんなところだ、と、睦月に伝える。すると睦月はしょんぼりしながらも弁当を作ってもらった経緯を話し始めた。

「日曜日のお昼に、土曜日に教えてもらった野菜炒め、作ってみたんだ。けど、また黒焦げにしちゃって……あ!また火が出ちゃったけど、ちゃんと蓋をかぶせて消すことはできたから!」

「別に消火方法教えたかったわけじゃないんだけどね……」

 苦笑いしながら言葉を返すとさらにしょんぼりとした顔をする睦月。

「黒焦げの野菜炒め、お母さんそれ見て、作ろうとしたことは評価してくれたみたいで、もうお弁当作ってあげるって言われたんだ。あと、料理作ってくれる彼氏見つけなさいって……。」

最早料理するなと言われているようなものじゃないか。気の毒に。

「大丈夫だよ。また他の料理教えてあげるよ。ちょっとずつ上手くなっていけばいいんだから!」

「ほんと?!……はあ……伊佐美ちゃんが彼氏だったらいいのに……」

ため息ひとつ、外を眺める睦月。一瞬、「男だけど?」と言いそうになり、口をつぐむ。当然、自分が男だなんて口が裂けても言えない。言ったとして信じてくれるわけがない。

「そういえば伊佐美ちゃん、授業中ずっと眠そうにしてたよね?普段ちゃんと聴いてるのに。」

「ああ〜……昨日遅くまでYouTube見てたから……。」

適当な理由をつけて誤魔化す。睦月が事件に首を突っ込んで欲しくない、ただそれだけだ。

「もう、ちゃんと寝ないとダメだよー?」

「わかったわかった……。」

この後何を話したのかはよく覚えていない。眠かったということもあるのだろうが、覚えていないということは大した内容でもない、ただの雑談だったのだろう。何度か「聞いてる?伊佐美ちゃん?」と、睦月に怒られた記憶がある。

午後の授業も眠気を堪えながら受けることになった。起きているふりをするのが精一杯で授業の内容は殆ど入って来なかった。

 放課後は図書室で自習することにした。今日の宿題をこなすためにやってきたのだが、授業の内容が頭に入って来なかったせいで殆ど分からない。調べながら進めるのでいつもよりも時間がかかる。次第に面倒になってきて何もせずにぼーっとしている時間が増えていった。少し寝よう。そう思って机に突っ伏した。


  目が覚めると、一面真っ白な部屋だった。今度は前方にユリのレリーフがあしらわれた重厚な扉があった。思い切って扉を開けてみる。すると、そこに広がっていたのはユリの花畑だった。真っ青な空の下に真っ白なユリの絨毯、その真ん中を赤レンガで舗装された道が続いている。

 左を向くと、ユリの絨毯が途切れている場所があった。海だ。白い砂浜が輝いている。右を見ると遠方に山が見える。雪の積もったアルプスのような山が。レンガ道の先に目を凝らすとポツンと一軒、赤茶けた屋根の東屋が海沿いに建っているのが見える。とりあえずあそこまで行ってみよう。何か分かるかもしれない。

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