第12話
口いっぱいに柑橘系の甘酸っぱさが広がる。小百合さんの顔が近い。熱っぽい吐息が顔に触れる。
「もー…いっかい……」
そう言い残して小百合さんは眠ってしまった。体を起こすと、ふらふらと起き上がり、台所に水を飲みに行く。水を飲めば少しは酔いが醒めるはずだ。水を飲んでから、自室に置いてある毛布を二枚取りに行く。途中、何度も壁にぶつかりながらも自室の前にたどり着き、苦労して鍵を開ける。やっとの思いで毛布を取り出し、リビングに持っていって二人にかける。たったこれだけのことに酷く体力を使ったような感じがした。また自室にフラフラと戻り、最後の力を振り絞ってベッドに潜り込んだ。
夢を見た。また、すすり泣く声を延々と聞き続ける夢だ。ただし、この前見た夢とは違う。目が見える状態だった。真っ暗な部屋の真ん中だけぼうっと光っている。光の中心には真っ黒な百合が一輪咲いていた。相変わらず声は出ない。動くこともできない。真っ黒な百合をただ見つめて、すすり泣く声を聞き続けた。
朝が来た。時計を見ると6時を指していた。気づかないうちに夢から醒めていたようだ。二日酔いかもしれない。頭がガンガンする。朝の空気を吸うために窓を開ける。新鮮な空気のお陰で少し頭痛が和らいだような気がした。
朝飯を作るためにキッチンへと向かう。が、頭が痛いせいでまともに料理ができる気がしない。とりあえず食パンを取り出し、トースターで焼く。冷蔵庫に置いてあった余りの野菜で手早くサラダを作っていく。オレンジを切ったところでふと思い出す。
昨夜のキスのことだ。
思い出しただけで頭がぼーっとしてしまう。頭を振って意識を引き戻し、朝食作りを再開する。
なんだかんだで朝食を作り終えた時にシャワーにもかからずに寝てしまったことを思い出して大急ぎでバスルームに向かう。濡れた髪を乾かし、二人を起こしに行く。睦月はすぐに起きた。机に突っ伏して寝ていたせいで顔に型がついてしまっている。朝食作りを手伝うと言ってくれたが「もう作った」と言って断っておいた。膨れっ面をされたので、盛り付けだけお願いして小百合さんを起こしに行く。小百合さんの薄いけど柔らかい唇を見て顔の火照りが収まらなくなる。それでも理性で自分を抑え込んで小百合さんを起こす。
「小百合さん、起きてください。朝食出来ましたよ。」
寝ぼけ眼でこちらを見ながらこう言った。
「夏美……?」と。
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