第11話
「うわあああああああ! 油入れすぎたああああ!」
睦月の悲鳴と、揚げ物をしているような、油が爆ぜる音が台所中に広がる。油からは白煙が生じている。 次の瞬間、油に火がついた。
睦月が混乱してコップに水を入れ始めた。火を消そうと思っているのだろうが、そんなことしたら大惨事になるのは目に見えている。混乱している睦月を制し、急いで火のついたフライパンに蓋をかぶせてガスコンロの火を消す。
蓋を開けると煙が立ち登り、思わず咳き込んでしまった。煙が晴れると、フライパンの中には黒焦げになった野菜が。菜箸でつついて見ると、硬い感触が手に伝わってきた。
自分の料理が目も当てられないほどひどいことになっているのを見た睦月は、台所の隅っこで壁の方を向いて、体育座りをして絶望のオーラを放っていた。流石にこれは料理を教える側として睦月に元気を出してもらおうと、睦月の料理のいいところを探すことにした。キャベツだった黒い何かを口の中に入れてみる。ゆっくりと咀嚼する。素直に食べてみてどうだったかというと、まず何よりも硬い。文字どおり、炭を齧っている気分だ。苦い。鉛筆の芯の味がする。どう考えたとしても、このキャベツは炭化してしまったと言わざるを得ない。
睦月の肩に手を置いてこう言った。
「やり直そうか」
「うん……」
余っていた材料を、油を敷いたフライパンに入れていく。
「最初は弱火で、最後に強火で一気に炒める。そうしたら水っぽく無くなるから」
睦月が指示された通りに料理を進めていく。野菜炒めが完成した。
小百合さんが一口食べて目を丸くする。
「全然水っぽくない……」
「ほんとだ! 美味しい!」
睦月が自分の料理を自画自賛する。結局二人とも僕の分まで食べてしまった。
「ごめんなさい、伊佐美の分まで食べてしまったわ」
小百合さんが手を合わせて謝って来る。
「構いませんよ。それよりも、小百合さんが持ってきてくれたジュース、飲みましょう。」
「そうね!」
「睦月、乾杯の音頭やってくれる?」
「わかった! じゃあ、料理を教えてくれた伊佐美ちゃんに乾杯!」
「乾杯!」
プルトップを捻り、ジュースを一気に喉に流し込む。喉の奥がかあっと熱くなった。思わず咳き込んでしまう。それと同時に体が熱を帯び始めた。頭がぼんやりとしてくる。ジュースの缶を改めて見てみると、「お酒」のマークが。
「小百合さん……これ……お酒れすよ……」
酔っているせいか舌が回らない。
睦月は眠りこけてしまっていた。
ぼんやりと睦月を見ていると、小百合さんが少し赤くなった顔を近づけてきた。
もう何されるかなんて分かっている。
そっと小百合さんが唇を重ねてくる。
そしてそのまま、僕は床に押し倒された。
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