第10話
「小百合さん……どうしてここに?」
「この前お見舞い来てくれたでしょ?お礼しなきゃと思って。」
「ありがとうございます!こんなところで立ち話もなんですし、どうぞ上がってください。」
「お邪魔します。」
キッチンの方から睦月が顔を出す。
「誰か来たの?」
睦月は、小百合さんを見た瞬間、体を傾けた姿勢のまま固まってしまった。ほんのりと頬が桜色に染まっている。
「あれ? 伊佐美ちゃんの友達?」
小百合さんが僕に聞いてきた。そして、僕が答えるより早く睦月が口を開いた。
「は、初めましてっ! 渡辺 睦月といいます!」
「黒川 小百合よ。よろしくね、睦月ちゃん」
いつもとはまた違った上品な笑みを見せる先輩。
そんな先輩を見て、睦月はますます顔を赤らめた。
「ところで、テーブルの上に野菜が沢山置いてあるけど野菜炒めでも作るの?」
今回睦月に教える料理が、野菜炒めだと一発で言い当てられてしまった。小百合さんは、普段から料理している人なのかもしれない。
「早く始めようよ〜」
睦月が台所から呼んでいる。
「わかったわかった。」
愛用のエプロンを身につけて台所に向かう。
「私にも味見させてね。」
小百合さんはそんなことを言いながらリビングのソファーでリラックスしている。
「じゃあ睦月、始めようか」
「うん!」
まずは野菜を切っていく。
僕はキャベツ、睦月は人参担当だ。いつも通り芯を取り除いて幅1センチ程に切っていく。少し睦月の様子が気になり、横を向く。そして、いきなり度肝を抜かれることになる。なんと、睦月は人参を乱切りにしていたのだ。
「ちょっと待って! 流石に乱切りはまずいよ、睦月。」
「ほえ? 違うの?」
自分の間違いを指摘されてきょとんとする睦月、想像より大分重症らしい。
「乱切りは煮込み料理のとき! 今回は炒め物だから、薄く切るの! 例えば半月切りとかイチョウ切りとかね」
「わかった!」
笑顔で頷く睦月、その笑顔を見ると、不安が胸の中から込み上げてくる。
それでもなんとか野菜を切り終えて、後は炒めるだけとなった。
「流石に炒める作業ぐらいはできるよね?」
「うん!」
もともと睦月はあまり手が器用でないらしい。途中何度も包丁を滑らせていた。
そのせいで睦月の手は、野菜を切っているときに切り傷だらけになってしまった。
途中、何度も絆創膏を取りに行った。
気のせいか、野菜が少し赤く染まっている。それを見るだけで、どれだけ睦月が指を切ったのかがわかるだろう。
疲れたので、ソファーでひと休みしようとしたときのことだった。火災報知器が煙を感知してアラームを鳴らし始めたのは。
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