第9話

 翌日、朝、学校で小百合さんにばったり出会った。

「お、おはようございます……」

「おはよう、伊佐美ちゃん。」

 小百合さんとの間に何とも言えない微妙な空気が流れる。

「あ、用事あるんでまたあとで。」

「うん。」

 会話を中断して、その場から逃げるように教室に入る。


 昨晩見た光景が授業中だろうと頭を離れない。

「水無月さん、ここの答えを言ってください」

 いきなり当てられた。 この数学の教師、ぼんやりしている生徒をターゲットにして当ててくる上に、答えられなかったらしばらくの間当て続けるからタチが悪い。幸い、問題が簡単だったので、その場で答えを出す。

「0です」

「正解です。じゃあ次……」

 改めて、授業に集中することにした。


 昼休み、睦月が一緒に食べようと誘ってくれた。

「いただきま〜す!」

「いただきます。」

 睦月の弁当をよく見ると、購買で買ったであろう焼きそばパンとジュースだった。

「睦月、焼きそばパンとジュースだけって健康に悪いでしょ。」

 ほぼ炭水化物だけだなんて、僕ならすぐに体調を崩すメニューだ。

「美味しいからいいじゃん。朝作るのも面倒だし。」

 確かに、弁当を作るために早起きするのも面倒といえば面倒だ。

「お母さんに作ってもらえば?」

「自分で作れって言われてるんだけど、あまりお料理得意じゃないんだ……」

 そういうと、睦月はしょんぼりと項垂れてしまった。

 もしかすると、早起きするのが面倒、というのは、料理が苦手ということを隠すための言い訳だったのかもしれない。そう考えると、少し悪いことをした気分になる。何か睦月を元気にする方法はないものか。

「料理、教えてあげよっか?」

 その言葉を聞いた途端に、梅雨のようにしけ込んだ睦月の表情が、雲が晴れるように明るくなった。

「いいの?!」

「今週末空いているなら」

 確か、予定は何も入っていなかったはずだ。

「ありがとう!」

 その日、睦月はずっとご機嫌だった。


 週末、約束の時間に睦月がやって来た。もちろん、アニメグッズが溢れる自室には鍵を掛けてある。

「おっ邪魔しま〜す!」

「ん、いらっしゃい。」

 材料は全て睦月に用意させている。

 万が一、材料選びの段階で悲惨なことになっていたら元も子もないからだ。

「材料見せて。」

 睦月が袋から材料を取り出し始める。気のせいだろうか、台所用洗剤が混ざっているのだが。

「まさか……台所用洗剤を入れたりするんじゃないよね。」

「ち、違うよ〜! 伊佐美ちゃんにあげようと思って持ってきたんだよ〜!」

「ごめんごめん……」

 ほっぺたを膨らまして、少し涙目になっている睦月。見ていてほっこりする。

 持ってきた材料は全てまともだったため、流石に食べられるものとそうでないものの区別はつくらしい。

 早速料理を始めようと思ったその時、チャイムがなった。

 モニターを確認すると、映っていたのは小百合さんだった。

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