第7話

「え?!小百合さん、学校に来てないんですか?!」

 小百合さんは学校を休んでいた。

「ああ、体調不良で休んでいるらしい。」

上級生のメガネをかけた男子生徒が答えてくれる。その男子生徒が言葉をつなぐ。

「でもあいつ、あんまり学校を休んだことないんだよな。あの事件以来」

 ……今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。

「事件ってなんですか?」

  二週間前に駅のホームで見せた曇った表情、何か関係があるのでは……。

「そうか。君、新入生だから知らないんだね。丁度、僕らが一年の時の話だから。」

 去年のこと?受験だったのであまりニュースを見ていないから詳しくはない。

 その男子生徒は、周りを少し見渡してから重々しくつぶやいた。

「うちの学校の生徒が殺されたんだ。帰り道に神社の裏参道で。」

  思わず息を飲んだ。

 昨日の光景がフラッシュバックで蘇る。

 狂気に歪んだ男の顔

  鈍く夕日を反射する包丁

  鼓動が速く、息が浅くなっていくのが感じられる。

 体に力が入らない。思わず座り込んでしまう。

「おい!大丈夫か?!しっかりしろ!」

 男子生徒に肩を揺さぶられてハッと我に帰る。

「大丈夫です。続けてください」

「わかった」

 男子生徒は一呼吸置いてから話し始めた。

「去年の夏、当時の3年生が殺されたんだ。名前は、山口 夏美(やまぐち なつみ)。黒川と同じ部活に所属していて、とっても仲の良い先輩と後輩で、学校の中でも有名だったんだ。そんな先輩が黒川の目の前で殺されたんだ。あいつ、先輩が殺されてから一ヶ月ほど休んでた。まあ、そんな感じだ」

「……」

言葉が見つからなかった。あのとき言っていた「嫌な予感」の意味がわかったような気がする。

「あの、小百合さんの家、どこかわかりますか?」

「お見舞いにでも行くのかい?」

「はい。」

「いいよ。教えてやるよ。」

「ありがとうございます。あの、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ、木下 優作(きのした ゆうさく)だ。言い遅れたが、黒川とは部活仲間なんだ。」

「何部なんですか?」

「マルチメディア部だよ。入部してくれるなら歓迎するよ。」

「わかりました。色々とありがとうございます。」

「ああ。あいつによろしく。」

そう言って木下さんと別れた。


  放課後、小百合さんの家に向かった。学校から電車で4駅、そこから歩いて10分程のワンルームマンションに住んでいるらしい。建てられてからそんなに経っていないのだろうか、あまり壁に汚れが付いていない。二階に先輩の部屋があると聞いた。インターホンを押すとすぐに返事があった。

「はーい。」

「あの、水無月です。」

「ああ、伊佐美ね、今行くわ。」

  出てきた先輩は、ジャージ姿で髪は少しはねていた。けれども、あまり体調が悪いようには見えない。

「もう、大丈夫なんですか?」

「うん。ちょっと寝不足で寝てただけ。あ、上がって。」

「お邪魔します。」

  心配していたが、小百合さんが思ったより元気で拍子抜けしてしまった。

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