第6話

 小百合さんが見せたあの曇った表情が、ベッドに横になっても頭から離れなかった。それに、偶然なのかはわからないがなぜあの場所にいたのか、理由をちゃんと聞けていない。下校時刻ギリギリまで図書室で勉強していて、夕方とはいえ結構遅い時間に学校を出たはずだ。

 あの道は学校の裏にある神社の裏参道で、小高い山の中腹にある学校からバスの沢山通っている大通りまでの近道でもある。多くの生徒は電車で通学しているため、別の道を使っている。あの道は谷沿いにあるということもあって、夕方にはかなり薄暗くなる。そのせいか、下校時刻にはほとんど人がいないらしい。全てコミュ力の高い、塾で一緒だった友人が仕入れた情報の受け売りだが。

 そんな場所を僕はそのことを知らず、ただの近道として利用していたわけだが、なぜ、小百合さんはいたのか。もっと深く考えようとしてみたが、連日の非日常な出来事のせいで疲れているのか、起きているのも限界だった。


 昨日行った病院での検査で脳と臓器には異常がないことがわかったので、今日から普通に登校してもよいと医師に言われている。あえて何も考えないようにして家を出ることにした。


~2週間後~


 いつものように授業を受けて、休み時間にラノベを読んでると、悲しい気分になってくる。なぜか、その答えは簡単だ。2週間もたてば普通に友達はできる。だが、初めは話しかけてきた女子の多くが、話が合わないということで僕を省くようになったのだ。新しくできた友達同士で喋っている人がほとんどなのに、一人だけラノベを読んでいる残念系少女……聞くだけで悲しくなってくる。

そんな中でもやっぱり声をかけてくれるもの好きがいた。

「あ!その本知ってる!」

 顔を上げると一人の女の子が立ってた。

 少し茶色がかった髪をツインテールに、人懐っこそうな目、高校生とは思えない身長の低さだ。140センチあるかどうかも少し怪しい。確か名前は、渡辺 睦月(わたなべ むつき)だったはず。結構活発で男女問わず話しかけている印象がある。

「この本知ってるの?」

 この本はあまり世間に出回っているものではない。ただ、書店で手にとって、そこに描かれた独特の世界観に惹かれてしまったから読んでいたものだ。そんなラノベを普通の女子高生が知っているはずがないと動揺を隠せない僕に睦月が言葉を繋ぐ。

「お兄ちゃんが貸してくれて読んでみたんだけど、とっても面白くて一週間で全部読んじゃった」

 その後、二人で熱く語り合ったが、どうやら睦月はこのラノベに登場するツインテールのヒロインが好きらしい。言われてみればわかる気がする。見た目からしてそんな感じがしている。最大の特徴であるツインテールと低身長はバッチリ持ってるわけだから。

 まさか女子とラノベの話ができるとは。話し終わった後、感動で溢れ出しそうな涙を必死で堪えていた。 初めて同じクラスで友達ができた。しかも女子の。なんとも言えない幸せな気持ちで心がいっぱいだった。

 ふと思った。小百合さんからこの前の話の続きを聞いてみたいと。

 僕は弁当箱を持って昼休みのチャイムが鳴ると同時に教室を飛び出した。

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