第4話

 残っていた一日は、何事もなく過ごせた。髪を結ぶ練習とかやってたっけ。ポニテは何とかできるようにはなったのだがツインテールが結構難しく、左右均等にできないのだ。

 今日から学校だ。とりあえず何を持っていけばいいのかわからないので全教科持って行くことにする。

と、思ったけどカバンに入りきらない。仕方がないのでLINEで塾で一緒だった友人(男)に聞いてみる。すると30秒ぐらいで返信があった。なるほど、数学と化学、あとは現代文か。荷物をさっさとまとめて家を出た。


 市立胡桃ヶ丘高校、家から徒歩とバスで15分ほどの山の中腹にある。校舎に入るや否や、自分に視線が集中していることに気付く。そして聞こえてくる喋り声も。

(誰だろうあの子、めっちゃかわいい)

(何組かな?多分一年だろうけど)

(あんな子いたっけ?始業式にはいなかったけど)

(しかも男装趣味とか最高すぎるだろ)

 やめてくれ。

 ジロジロ見ないでくれ。

 ノイローゼになりそうだ……。

 こんな好奇の視線に晒されることなど人生で一度もなかったので、緊張と不安と焦りで足はガクガク震えて、額からは汗が滲みでていた。

「大丈夫?顔色悪そうだけれど。」

 聞いたことがあるような声だ。藁にもすがる思いでその声の主の元に顔を向ける。

「大丈夫ですから気に……あ……」

 何と、あの時の店員だった。あの整った顔を再び目にして、顔が少し火照り気味になる。

「本当に大丈夫?」

「え、ええ……大丈夫です……」

 会話の続きを遮るように予鈴がなる。

「そろそろ授業始まるから行かないと。またね。」

「は、はい。」

もうすぐ授業が始まるというのはどうやら本当のことらしい。廊下にいた生徒が次々と教室に入って行く。

「ねえねえ、あの子黒川さんの妹かな?」

「どうなんだろう。でもあの人妹なんていたっけ?」

「でも親しげに話してたじゃん」

「そうかな?」

上級生の言葉が耳に入ってくる。授業開始のチャイムがなった。急いで一年二組の教室に駆け込んだ。


 教室に入って感じたこのクラスの印象は一言で言えば「静か」だ。休み時間になったらしゃべる生徒はすでに一定数いるが、授業中にしゃべる生徒は一人もいない。おかげで勉強に集中できそうだ。ただ、お互いどう喋りかけたらいいのかわからないのか、休み時間に喋っている生徒は中学の頃に比べると少ない。結局、その日学校に行って言葉を交わしたのは黒川先輩とだけだった。

 3日後、制服が届いた。スカートの下にストッキングと短パンを履いているが、それでも足がとても寒い。学校の裏にある日のほとんど当たらない道を歩いているのだからなおさら寒いのかもしれない。そういえばさっきから視線を感じるのだが……気のせいか?いや、気のせいだったらどれほどよかったことか。

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