第3話
キッチンでiPadに表示されるレシピを見ながら手早く玉ねぎをみじん切りにしていく。今夜はカレーだ。カレーは加熱殺菌して寝かせておけば、そこそこ日持ちするし日が経つごとに美味しくなっていく有難い料理だ。以前から料理は休みの日があるたびに練習していたので、それなりに手早くできるようにはなっている。
完成したカレーを一人分とって皿に盛り付けて残りをタッパーに入れていく。そして、冷蔵庫の中にいれておしまい。四人用のテーブルにカレーを持って行って手を合わせて言う。
「いただきます」
食べるたびに食器の当たる音だけが部屋に響く。話し声もしない。当たり前だけれど。結局、カレーの味はよく分からなかった。
「ごちそうさま」
後は、食器と鍋を食洗機に入れるだけだ。一人って寂しい。
風呂に入る前に、一つ重要なことを思い出した。
そう、制服だ。当然男子生徒用のやつしか持ってない。購買部で注文することもできるが、届くのに3日はかかる。初日くらいそのままでもいいか。ため息をついて脱衣所へ向かう。 iPadで髪の洗い方を確認する。シャンプーしてからリンスつけてほっとくだけか。そこまで複雑じゃなかった。ただ、湯船に髪をつけないとか、ドライヤーは弱風でじっくり乾かすとか、洗うこと以外のことで気をつけなければならないことが多かった。やっぱり面倒くさい。それでも、朝起きたら髪の毛があちこち跳ねているなんてのはいやなのできっちりやることにした。
服を脱ぐときにも、目をつぶって脱ぐ。なぜ頑なに見ようとしないかって?頭の中に一つの考えが浮かんでいるからだ。もしもこの体が、他人のものだったとしたら、と。もともと僕の体はあまり筋肉もなく、どちらかというと痩せてる方だった。けれども、この体になってからかなり体脂肪が増えている。いつそんなに油っこいものをたくさん食べたのか。答えは、食べていない、だ。だとしたら、この体が僕の体であるということは本来不自然なことなのだ。それに、他人の体をじろじろ見るというのは倫理上よろしくないことだと思うから。しかし、いざ風呂に入ってみると、そんな考えもすっ飛んでしまった。なぜなら、鏡に僕の全身が映っていたからだ。体は女性でも、心は男性のままなのか、自分の体を見た瞬間、すぐに目をそらしたのに鼻血が止まらなくなってしまった。急いでティッシュを詰めて風呂に入る。
なんとも言えない気分で体を洗う。当然、目はつぶったままだ。体を洗い終えて、風呂から上がる。パジャマは男物のTシャツを代わりに使う。だれも見てないから問題ない。明日も一応休みということになってるけど、まだまだ勉強しなくてはならないことも山積みだ。疲れているせいか、ベッドに倒れてから意識の遠のくスピードがとても早かった。
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