第2話

状況を整理してみよう。

女性の身体になってしまったということは紛れもない事実だ。と、なると、身の回りのものを揃える必要がある。幸い、今日は大学病院に行くから休むと学校には昨日連絡したし、2日はじっくりと明後日から始まる高校生活への準備が出来る。

まずは衣服、当然男物しか持ってないので買いに行く必要がある。下着は当然ない。髪は髪留めもないしそのままにしてある。

とりあえずジーンズとTシャツとパーカーという中性的なファッションで行くことにした。

徒歩と電車で20分、以前から家族でよく訪れていたショッピングモールに到着した。どこに何の店があるかは脳内の地図にバッチリ記録されている。まず服を買って、その後に下着でも見に行くか。

………

と、言って入ってみたもののランジェリーショップの中にいたら気まずさが半端ではない。なぜなら僕はコミュ症な上にこんなところ入ったこともない。入ったことあるならあるでただの変態なのだけれど。服の方は適当に自分で選んでみた。まあ、アニメのヒロインの服装を真似て買ってみたのだが。しかし下着となると難易度が遥かに高くなる。

まず、サイズがよくわからない。服だと体に当ててみれば大体わかるのだが、下着だとそう上手くいかない。試着室に何度も足を運んでいるがどれもサイズが合わないのだ。

店員に聞けばいいのだが、そんなことすらできないんだ僕は。でも、他に方法があるわけでもない。ふと視線を向けると、一人の店員が商品の整理をしていた。一目惚れだった。年は、自分とそう変わらない気がする。焦げ茶色の瞳が入った大きめの目に、流れるような黒髪ロング。しなやかな体に不釣り合いな双丘、こんな子が中学の時にいたら絶対告白していたに違いない。

清水の舞台から飛び降りる気持ちでその店員に声をかける。

「あ、あの…」

「はい?」

「サイズを……測って欲しいんですけど……」

「ああ、そういうことでしたら、こちらへどうぞ」

「は、はい」

案内されたのはstaff onlyと書かれた扉の中だった。

「バスト測るんで上脱いで下さいね」

言われた通りTシャツを脱ぐ。そして思い出した。

何もつけてないと。

もちろん店員は驚いていた。

「下着はどうされたんですか?」

「間違えて全部洗濯しちゃったんで」

「はあ……じゃあ、測りますね」

「は、はい」

 てきぱきとサイズを測る店員の姿を、思わずぼーっと見てしまう。

「どうかされましたか?」

「い、いえ、なんでも…」

 指摘されてうつむいてしまう。

「ごめんなさい、遅くなってしまって。お詫びにサービスしておきますね。」

ありがたい話だった。

現に手持ちの資金はかなり少なくなっていた。

服が思っていた以上に高かったのだ。

最悪、親に電話して送金してもらう予定だったが、流石に四月の生活費を一週間で使い切っては怪しまれる。

今回用意した資金だって自分のお年玉から切り崩して用意したものだ。

結局、教えてもらったサイズの下着を何組か買った。

なんと、原価の3分の1にまで値下げしてもらえた。

あんな風にしてサイズを測るのか。女子って大変なんだな。今日はもう疲れた。いろいろあり過ぎて。ゆっくり風呂でも入ってすぐ寝るか。車窓を流れていく夕焼けに染まる街並みを眺めながら、そう思った。


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